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二つの見落とし


 惑星『ウルアーデ』にいる者達が戦うために用いる手段というのは多岐にわたる。

 大きく分別するならば、肉体を酷使するものとその他の二つに区分され、そこからさらに戦闘時に使用する三つの要素へと細分化されていく。


 すなわち『練気』と『異能』。それに『粒子』であるわけだが、前者二つと残る一つでは、大きな違いがある。


 第一にバリエーションの幅広さと規模の違いが当てはまるだろう。

 十と一つの特殊な粒子を用いた場合、他二つと比べ、様々な効果を発揮できるだろう。

 各種属性に付随する『熱さ』『寒さ』『痺れ』などの特徴的な効果。二種類以上の粒子を混ぜた場合に生ずる『能力』の協力無比な効果は圧巻の一言である。


 しかしである。

 粒子を使った戦法には一つ、どうしても見過ごせない欠点が存在する。それが、


「さてと、アンタに残されてる粒子はどのくらいだ?」

「…………………………」

「おいおい。こっちはアンタみたいに嘘を見抜くような力はないんだぜ? 少しくらい話に乗ってくれてもいいじゃないか」


 戦意を宿している限り無限に湧き続ける『練気』。

 肉体の一部の機能が先鋭化された結果、常時効果を発揮する『異能』。


 この二つと比較した時、『粒子』には明確な底がある。


 アイビス・フォーカスのような星から無限に粒子が供給される場合。

 ガーディア・ガルフやガーディア=ウェルダが得手とする炎属性のように、無限に近い貯蔵量を誇る場合。

 ヘルス・アラモード、いやルイン=アラモードが駆使する一呼吸で粒子の回復が見込める特別な体内機関を宿している場合。


 そのような例外を除けば、使い続けていればどこかで使用不可になるのは間違いなく、アラン=マクダラスは今、その状態に陥りかけていた。


(馬鹿な。奴はなぜまだあれだけの力を行使できる。あそこまで様々な指令を下せる液体金属に使う粒子の量はすさまじいはずだぞ)


 彼にとって想定外の事態が起きた原因は、大きな見落としをしたことに起因する。


 確かに彼の予想は当たっている。

 先に使い始めたことを抜きにしたとしても、対峙している二人が同時に自動操縦型の術技を使い始めたとすれば、先に粒子切れを起こすのは積の方である。


 だがしかし、今に限りその常識は覆る。なぜなら今の積は無手ではない。この状況を作り上げられるだけの補助がある。

 使ったところでなんの効果もなかったゆえか、はたまた『輪廻巡鉄』を見た直後から対策を練るため頭を回していたので見落としたのかまでは積にはわからない。


 しかし今、アラン=マクダラスは、積が能力無効のため、康太から十色の箱の内の一つ、鋼属性を示す灰色の箱を手渡されたことを勘定に入れていなかった。


 そのため彼は気づいていないのだ。

 康太が持つ十色の箱。その効果が決まった形で粒子術を放出するだけではないことを。

 担い手である康太の粒子不足を解消するために、増幅装置ブースターの効果まで兼ね備えている事実を。


 これにより本来訪れるはずであった状況は覆った。

 元々粒子量が少なかった康太を支える事ができるだけの効果を持っているのだ。

 得意である鋼属性に関してなら、一般人と比較して数倍以上の粒子を持っている積が使うとなれば、その効果のほどは凄まじい。


 アラン=マクダラスの予想する通り『輪廻巡鉄』に使用するために必要な粒子の量は大量である。だがそんな消費量さえ易々と賄え延々と行使できるほど、増幅装置を持った積には余力がある。


「行けぇ!」

「無駄な抵抗だな」


 積が劣勢な状況に依然変わりはない。あらゆる抵抗は無に帰し、瞬きをするたびに硬化した体と服を突き破り、浅いものではあるが切り傷が刻まれていく。


 だが戦況には確かな変化があった。


 様々な方向に設置されてる破片からアラン=マクダラスへと伸びていく鋼鉄の棘。それを防ぐ六角屋の守りが目に見える勢いで数を減らし、それを補うように刃が躍る。

 それにより棘は今まで通り砕けていくが、積の顔に浮かぶのはつい先ほどと同じ勝気な笑みだ。


「おいおいどうした。随分必死じゃねぇの。守りは氷の結晶に任せたんじゃないのか?」

「俺の建てた計画をわざわざ説明する理由がどこにある?」


 続けて発する言葉の返礼は、これまで以上の数と威力を誇る斬撃の嵐。

 それ等は積の全身を細切れにするかのように叩き込まれていき、皮膚を通り越し血肉が切り刻まれる激痛が全身を襲う。


(間違いねぇ。限界だ。限界が迫ってるんだ! なら…………あとちょっとだ!)


 悪態を吐きたい気持ちを堪え、脳を酷使し勝機を探る。

 おそらく機会はたった一度。決して見逃しはしないと心に誓い、


「迸れ! 巡鉄!」


 号砲と共に、設置していた兵装全てを起動。

 四方八方。上下左右だけでなく地面や側に生えてる木々から、対象であるアラン=マクダラスを取り囲むように先端がとがった鋭利な鉄の棘が迫っていく。


「おの、れ!」


 視界を埋めるような数も当然厄介であるが、今アラン=マクダラスの頭を最も悩ませるのは、斬り裂いた棘の復帰速度だ。

 手にしている神器でどれほど砕こうとも、それ等は依然効果を保ち続け、地面に触れるよりも早く形を変えるとすぐさま突撃。


 そんな光景が十秒近く続き、アラン=マクダラスの神経をすり減らす。


(あれほどの効果を発揮させるとするために必要な下限値はどこにある? 砂になってまで棘に変化できるわけではあるまい…………いや、それよりも今考えなければならないのは)


 そうやって対処を続けていけばおのずと突破口が見えてくるもので、しかし彼は内心で舌打ちした。

 

(ただ止めるだけならば盾の方が都合がいいな。限界が気にはなるが)

 

 砕いても砕いても襲い掛かる棘であるが、氷の盾で防ぎそのまま凍らせた場合、そこからさらに分裂することもなく、動きを止めて地面に沈んでいた。


(細切れにして機能不全に陥らせたとしても。地面で重なった瞬間に集まり元の機能を取り戻すとすれば意味がない。となれば)


 この手段を取る場合やはり問題なのがアラン=マクダラスに残された粒子の残量だ。

 今の彼が体内に貯蔵している氷属性粒子の貯蔵量は全快時の二割を切っており、襲い掛かる脅威全てを退けるとするならば、ものの十数秒で底をつく計算だ。


(…………いや迷う必要がどこにある。多少の損傷に目をつむりさえすれば、この男を仕留めるのに五秒とかからん)

 

 そのデメリットを、アラン=マクダラスは飲み込む覚悟を決める。

 粒子切れによる敗北。そんな状況が頭をよぎる今に至り、彼は余力を全て捧げてでも積を始末することを決意し、


(来る!)


 その意識の切り替えを、対峙する積も肌で感じる。

 ゆえに次の衝突が彼の全力全開であることを自然と察知し、


「早ッ!」


 直後、再び状況が動く。

 アラン=マクダラスが『輪廻巡鉄』の備える自動迎撃機能が全く追いつかない急加速で積の目の前まで接近し、視認できぬ速度で刃を振り抜く。


「あっぶねぇっ!」

「ちっ!」


 寸でのところで防ぐことができたのは既にこの展開を予期したゆえであり、けれども決死の覚悟で迫りくるアラン=マクダラスの続く斬撃の嵐全てを防ぐには至らず、夥しい量の傷から流れる血潮が積の意識を薄れさせ、


「ッッッッッッ縛れ!」


 ここで彼は切り札を切る。

 神器を包み込むようにしていた鋼鉄。その拘束を解き、アラン=マクダラスの手足を封じる鉄の枷へと姿を変える。


「おらぁ!」

「チッ」


 合わせるようなタイミングで振り抜いた両手斧の一撃は本来の姿を取り戻した神器で防がれ、けれどアラン=マクダラスの動きを止め、一歩後退させるという成果を叩き出した。

 そのタイミングで襲い掛かる鉄の棘を前に、アラン=マクダラスは氷属性粒子が尽きる勢いで守りを敷き、その全てを防ぎ切った事を把握しながら疾走。


「とった!」

「邪魔を!」


 音を置き去りにして切り抜けるはずだった彼はしかし、足元に敷かれた液体金属を踏むと態勢を崩し、これまで通り迫りくる鉄の棘。

 それに積が足元に敷いている灰色の液体から同じような棘を生み出すのを目にすると、自動防衛機能と化してる氷の盾に対処を任せ、自身の意識は全て攻撃に傾け、


「しくじったなアンタ」

「な、に……………………!?」


 そこで己が失態を知ることになる。

 己が身に迫っていた鉄の棘。その全てが自身が敷いた氷の守りを砕き、自身の体に突き刺さったのだ。


「――――――――詰みだ」


 困惑する『裏世界』に君臨する強者。その一瞬の隙に、硬化もしていない彼の肉体を十字の軌道を描く刃が深々と切り裂き、


「アンタの失態は二つ。一つは俺が康太から手渡された便利アイテムを見落としていたこと。そしてもう一つは、俺が錬成する攻撃手段の上限を勝手に決めたことだ」

「っ」

「自動生成の簡素な守りを砕けないほど、俺の錬成物はヤワじゃない」


 勝ち誇るようにそう言い切った。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


というワケでアラン=マクダラスが招いた二つの失態判明回。

言われてみれば単純な、ただ以外に気づきにくい問題ではないかと筆者は思ったりします。


さてさて積は出血多量。アラン=マクダラスは十字の切り傷で瞬く間に重症の両者満身創痍となりました。

ということで次回で二人の戦いはついに決着。

クライマックスをお楽しみくださいませ。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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