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LV『超越者』 一頁目


「これ、はっっっっ!?」

(まずは一発、か。ここまでは順調だな)


 死んだ兄の願いを叶える。そう決意した積がいの一番にぶつかった壁が自身の力不足である。


 優れた異能。戦場で培った経験に冷静な判断力。類まれなる力を秘めた神器を持つ康太とゼオス。

 相手が神器を持っていなければ、格上相手でも十二分に戦う事ができる蒼野。

 彼らと比べれば劣るものの、それでも十分な近接戦が繰り広げられ、戦場において大黒柱ないし核となれるほどの回復術を備えている優。


 彼らと比べれば自分は遥かに劣るものだと積は自覚していた。

 だから彼は考えた。

 考えに考え抜き、他人よりも広い視野を活かす道を選び、そこからさらに、どのような力を得るかについて考察。最初の内は朧気であったビジョンは、ガーディア・ガルフが『白皇の牙』を使ったことで具体的なものへとなっていく。


 ここで積にとって幸運だったのは、少しばかり欲をかいたことであった。

 ただ模倣するだけではなく、自分だけの特徴が欲しいと思った貪欲さが、積をさらに一歩先へと進め、格上であるアラン=マクダラスに深手を負わせることができる領域まで持ち上げた。


「……………」

(欲を言うなら体内に残ってたら都合がよかったんだけどな。そこまでの成果は期待しすぎか)


 僅かに浮いたアラン=マクダラスの体が草原の上を転がり、かと思えばすぐさま立ち上がり、着ていた黒のコートを即座に脱ぎ捨て放り投げる。


 見るとそこには積が今しがた伸ばした灰色の液体の残滓が僅かにではあるが残っており、肉体やスーツには血が滲んでいたものの、灰色の液体は一滴たりとも付着していなかった。


「アンタ、炎属性はそこまで得意じゃないだろ。その程度の炎に溶かされるほど、俺の切り札は甘いもんじゃないぞ」

「……………ちっ」


 次に積の目の前で起きたのは、アラン=マクダラスの握る神器の刀身を炎が包み込む光景であるが、その結果を前にして積は不敵に笑い、アラン=マクダラスは舌打ちする。

 なぜなら彼はすぐに理解したのだ。

 積が切り札として披露した『輪廻巡鉄』の真価が、一度出しておけば好きな時に利用できるという点であること。その場合、今最も厄介なのは、自分の持つ神器にへばりついている鋼鉄であると。

 ゆえにへばりついたそれを外そうとするが思うようにいかず、積にとって大きな一手はなおも刀身に。


「「…………」」


 油断なく相手を見つめる両者は十メートルほどの距離を保ったまま、何かあればすぐに動けるよう余力を残しながら、思考の海に潜っていく。


(資料で明らかにされてない部分もあるが、アラン=マクダラスが駆使する動きの大半はあの神器が中心となってる。そこに氷属性と練気が加わってくるのが基本の戦術だ。自己修復機能がやや高めだが、背中の傷がすぐに癒えることまではないはずだ)

(地面に付着した液体は全て設置型の兵器になったと考えた方がいいだろうな。壁に槍。液体状のまま襲い掛かっても来ていたな。他にどれほどの形態変化ができる? 設置型の兵器になったとはいえ、永遠ではないはずだ。どれだけのあいだ機能する? 五分・十分・一時間……………一日持つのか?)


 お題は当然、目の前にいる相手をどう下すか。


 戦場でも取り乱すことなく十全の力を発揮できる判断力と冷静さ。

 身体能力や術技・能力以上に、己が思考こそ至上の武器とする点において、二人は奇しくも似通ったところがあり、示し合わせたように微動だにせず考え続け、


(デカい奴をぶち当てるだけのチャンスが欲しいな。けど待ってても絶対に来ないだろうな。さらに言やぁ、長期戦になれば単純な力の差で押しつぶされるのは確実だ。なら)

(ギルド『ウォーグレン』の連中については情報収集をしていた。原口積にしてもそうだ。あの力に関しては不鮮明な部分が多すぎるが……………素のスペックは俺の方が幾分か上だ。長期戦になれば、あの灰色の液体もさらに広がるのは確実。ならば)


 狙いや方法は別なれど、ほぼ同時に同じ結論に辿り着き、


((速攻を仕掛ける!))


 頭の奥底でそう念じてからは迅速だ。

 それまでの静寂が嘘であったかのように両者の放つ熱気が場を支配し、目標を殲滅せんという意思を己が身に宿し、勢いよく駆けだす。


「……………悪いが遊ぶ気はない」


 先手を撃ちこんだのはアラン=マクダラスだ。

 これ以上厄介な障害物を零させない事に意識を置いた彼は全身を包み込むように練気を具現化。一歩二歩と駆け出し始め――――消えた。


「わかってたけどやっぱきちぃな!」


 この現象の正体が練気の基本型の一つ『放出』であると、仕入れていた情報で知っていた積は、自身を突き刺すような空気を頼りに己が身を駆動。最短最速を狙うよう首元を狙って放たれた一撃をしゃがんで躱すと、反撃として足元に敷いた灰色の液体を姿を現した敵対者へと向け放出。


「お前に何かさせる気はない」

「っ」


 だがそれがアラン=マクダラスの身に届くよりも遥かに早く、サッカーボールでも蹴るかのような蹴りが積の全身を襲い、後方にあった木の幹へと吹き飛んでいく。


「脳みそを必死こきながら動かしやがれ!」

「……………くだらん」


 駆け引きに持って行かせない。単純な膂力による圧殺。それがアラン=マクダラスの掲げる此度の側溝の定義である。

 これに真っ向から反する考えなのが、木の幹に叩きつけられることなく着地した積である。

 同じ速攻。短期決戦を決意していた積だが、その形は大きく異なっていた。


(灰色の液体から生み出した武器を掴むか。あれも投げ捨てれば設置型の邪魔者になるか)


 積が狙っているのは、短時間のあいだに様々な情報を与え、アラン=マクダラスの処理能力を超えるという状態。それにより生まれた隙を突き、手痛い打撃を与え勝利を手繰り寄せようとしているのだ。


「そうら――――よっと!」


 ゆえに積は、草原を駆けながら足元の液体から二本の槍を生成。勢いよく飛びあがると防がれる事を承知の上でそれ等を前に突き出す。


「……………そういう意図か。面倒な事をする」


 予想は現実のものとなるが問題はなかった。

 二本の槍が砕け散り、数多の破片となり周囲に飛び散ったのだ。


「火花を使っていた俺に対する意趣返しのつもりか?」

「さてどうだろうな。気になるんなら精々考えろ」


 言いながら、今度は鎌と鉄槌を足元に敷く液体から生み出し掴む積。

 それを前にアラン=マクダラスはなおも油断なく剣を構え、


(見た感じスペック差による圧殺が狙いか? なら初手で決めちまうのが理想形のはずだ。とするなら今のがトップスピードに近いもののはず。だとするなら何とか対応できる。さらに面倒な事をされるよりも早く、趨勢をこっちに傾けたいな)

(鉄に包まれた刀身。周囲に散らばる破片。自動迎撃機能。そして……………奴に残された余力。問題ない。次の接触で一気に勝負を持っていく)


 これまた奇妙な事に彼らは同じことを考える。

 次の衝突が、戦いの趨勢を一気に決めるのだと。 




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


かつてないほど両者の内心が描かれた一話。

戦闘スタイルが脳みそをグルグル回す二人だからこそできた事でしょうね。

そんな二人の戦いはクライマックスへ。

二人が立てる戦術がどのようなものか? 辿る結末はどのようなものか?

ご覧いただければ幸いです。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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