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原口積VSアラン=マクダラス 


「馬鹿な。斯様な事が現実なわけがっ!?」


 G・ガノ家当主バークバク。彼は直接的な戦闘ではなく、権謀術数を張り巡らせ相手を陥れる事を得手とする人物である。

 数多の顔を駆使することが可能であり、千年という時を生き延びたにふさわしい頭脳を持つ老人は、貴族衆において『妖怪』と称されていたのだが、しかし今この時に限り、嘘偽りない正直な感想。驚嘆の念を零していた。


 それほどまで自信があったのだ。


 貴族衆の抱える目下最大級の問題の一つ『戦力不足』。この解決が彼に掲げられた命題であり、完成の暁には己を六大貴族から蹴り落とした当主たちに反旗を翻す予定であった。

 この場所に配備した二千の機兵は、そんな彼が作り上げた現状の最高傑作達。一体一体は『一騎当千』の位ではあるが、積み込まれた数多の武器に受け取った虹色の球体。そしてそれらを駆使した連携は『超越者』にも引けを取らない自身があった。


 だというのに、たった二人。しかも『超越者』の位に届くかどうかもわからない者達に退けられた。

 その事実を彼は受け入れられない。


「気を落とすな。当然の結果だ」

「……………なんだと?」


 だがこの場にまでやって来た原口積と対峙しながら、背後にいる彼に対し、アラン=マクダラスは当然のことであると言いきる。

 それを聞くと老人が彼に注ぐ視線に殺意が籠るが、背後から放たれるそれを受けてもアラン=マクダラスは動じない。とはいえ先の言葉だけでは足りぬこともわかっている故、己が得物たる神器を抜き、戦場に赴くことを示すように一歩前に進みながら言葉を紡ぐ。


「バークバク卿。貴方の作った機兵は優れた連携を行うことで、『超越者』さえ退けるということだったな」

「……………そうだ」

「だが、個体自体の強さは『一騎当千』であると」

「くどい! 貴様ならば全て知っておろう!」


 淡々と言の葉を重ねるアラン=マクダラスとは対照的に、内面の昂りをそのまま叩きつけるバークバク・G・ゼノン。その姿は本来の年齢差を逆転させたかのようで、


「少なく見積もっても奴と親父は『万夫不当』の強者だ。ならば、これは道理に沿った結果だといえる」

「?」

「万の軍。万の『一騎当千』を相手にしようと真正面から退ける。それが『万夫不当』や『超越者』の位にいる者達だ」

「っ」

「『一騎当千』の者達が協力し格上を下す。なるほどそれを行えるというのなら、貴方の作った機兵は確かに凄まじいのだろう。だがな、これまで同じ思惑の者が皆無だったと思うか?」


 彼の顔から怒りの念が消えたのは直後のことで、普段ならば即座に繰り出される反論は何も出てこない。

 自身を守るように前に出る若者。彼が口にする内容を認めてしまった故に。


「この結果は当然だったと?」

「死神の件も含め想定内、というところだ。そして想定内ということは、計画に支障はないという事だ」

「……………」

「行け。神の獣、その力を呼び起こせ」


 発せられたのは老人自身でも『みっともない』と自覚できるような負け惜しみに似た言葉で、それもアラン=マクダラスのなおも淡々とした語りを聞けば消えてしまい、


「待たせた」

「待ってなんてねぇよ。あんたを放置して後ろの爺に意識を向けるなんて「殺してくれ」って言ってるようなもんだろ」


 震えるほどの勢いで拳を握り、しかし『最優先事項』が何かを思い返した老人が、数多の虫と化し桃色の空に霧散すると、アラン=マクダラスは気軽な様子で語り掛ける。

 想定内なれど予想を超える成果を叩き出した、二十歳さえ超えていない若人に。


「ほう。存外頭は回るようだな」

「そうしなけりゃ、思い通りに生きていけなかったんでな」


 一方は真っ赤だった髪の毛を真っ黒に染め、遺品であるボロボロの学ランに袖を通した兄譲りの目つきの悪さをしており、如何なる事が起きようとすぐに対処できるよう鉄槍と鉄斧を掲げ、既に臨戦態勢に移行。

 もう一方は目つきの悪さは同様ながらその瞳は幽鬼のように沈んでおり、身を包む肌の様子は大きく異なり、至る所に古傷を刻んでいる。その上で真っ黒なスーツの上から動物の皮を飾りにした同色のコートを羽織っており、己が得物の切っ先は真下へ。


 両者の間に広がるのは十メートルほどの、互いの手にする得物が届かない程度の距離で、その距離を保持したまま発せられる声には熱はなくとも剣呑な空気が込められており、


「……………いや訂正しよう。お前は、狂人の類だ」

「?」

「頭がいいのなら――――――この場にむざむざと殺されには来ないだろう?」

「っっっっ!!」


 アラン=マクダラスがそう言の葉を紡いだ瞬間、冷え切った空気が溶岩のような熱さを帯び、保たれていた均衡が溶解。

 音を置き去りにする速さで迫ったアラン=マクダラスの横薙ぎ。それはすさまじい速度であったが積は何とか捉え、掴んでいた二本の武器を交差させ防御。シュバルツ・シャークスを相手にした時のように力負けするようなこともなく、しっかりと初手を防ぎきる。


 だが、


「ぐぅ!?」


 積の半身には数多の切り傷が刻まれ、おびただしい量の血潮が宙を舞った。

 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


四章前半クライマックス第二節開始。

対戦カードはおそらく誰もが予想できた積とアラン=マクダラス!

クライマックスの一つということもあり、今回の戦いもモリモリと色々な要素を投げつけていきたいと思います。

さてそんな次回は既に予想がついている方もいらっしゃるかもしれないアラン=マクダラスの持つ神器の力の解明回。お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください!



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