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勝利の形 一頁目


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 「裏世界』最強たる死神が誇る切り札。あらゆる攻撃を跳ねのける鋼属性を固めた鎧は強度・属性耐性の二点において『鉄壁』という言葉がふさわしかったのだが、こと今回に至ってはその強度が自身の首を絞めることになる。

 僅かな隙間から侵入した神の雷が逃げ場を失った事により荒れ狂い、想像を絶する痛みとなり延々と続いたのだ。


「………………がぁ!?」


 彼の体内で暴れ回る蒼い脅威が鎧の一部を突き破り空へと昇って行ったのは内部に侵入し暴れまわり始めてから数秒後で、立ち昇る雷の柱の真下で死神は膝をつく。


「はぁ! はぁ!」

「すごいなアンタ」

「!」

「あれだけの威力のを食らったら普通動けないだろ。神人族っていうのは本当に丈夫な体なんだな」

「っっっっ!!」


 体中の至る所から肉が焼けたような臭いを発し、全身を痙攣させる死神。

 彼の側にヘルスが近づいて来たのはその時で、発せられた言葉、そして自分を見下ろす敵対者を前に、彼は憤怒の表情を見せ、


「お、俺を」

「?」

「この俺を見下すなぁぁぁぁぁぁ!!」

「おわ!?」


 怒声を発すると共に、二人を包む戦場の熱がさらに増す。

 死神の全身から垂れ流されたのは十属性全ての粒子で、それが個体とも液体とも言いきれない状態で周囲を蹂躙。ヘルスは慌てて退いたものの、頬や服に鋭利な刃物で斬り裂かれたかのような傷が刻まれた。


「『開門』!」

「!」


 続けてヘルスの前で死神が自身の手を重ねれば、彼の背後におどろおどろしい空気を纏った社が現れ、その内部に薄暗い色の渦が形成されると内部から無数の仄暗い色の死霊が飛来。ヘルス目掛け飛んでいく。


「『隕砕』!!」


 死神の抵抗はそれだけでは終わらない。更に言葉を綴るとヘルスの周囲の空間が歪み、耳障りな音を発したかと思えば爆発。ど真ん中にいるヘルスへと向け余波は向かっていく。


「『必中空間』!!!」


 さらに足元に幾何学模様を刻んだ金色の光る円陣を形成すれば、続けて撃ち込まれた異次元から生まれた刃はヘルスへと向かっていき、


『『切の極み』!!!!」


 そのまま喉を潰す勢いで声を張り上げれば、肉体や物体だけでない。空間さえ断つ刃が先の円陣の効果を受けヘルスに叩き込まれる。


 どれもこれも強力無比。

 彼がアラン=マクダラスととある『商人』から譲り受けた、虹の球体の中に宿っていた能力である。


「おいおい」

「!?」

「神からの恩寵である特別な十属性を使う相手に、能力の類は効かないぞ。神器判定なわけだからな………………いやそうか。知らないのが当たり前か。悪い」

「――――――――なん…………なんなんだ」


 そう『能力』なのである。

 それゆえヘルスが纏う蒼い雷を超えることは一つさえできず、全てがガラスが割れるような甲高い音を発しながら掻き消え、


「なんなんだよお前はよぉ!!」


 力が抜け緊張感のない笑みを浮かべるヘルスへと向け、死神は激昂と共に更なる攻撃を撃ち出す。

 それらは全て属性単一の術技。すなわち神器による加護をすり抜けるものであり、さしものヘルスとて死神が放ったそれらに当たれば致命傷に至ることは十分に理解できた。


「甘ぇ!」

「っ!?」


 無論大前提として『当たれば』の話ではある。

 その事実を示すようにヘルスは戦場を駆け抜ける。先ほどまで纏っていた白い雷。それに加えて神の御業である蒼い雷を纏って。


 それにより到達した領域はまさに人外の域。

 光属性の優れた使い手であるアイリーン・プリンセスを超える速さと鋭利な方向転換は、こと機動力において彼が二人の『果て越え』の真下ににいる事を示していた。


 ゆえに絶対に捕まらない。


 炎の渦も氷の息吹も、荒れ狂う大波や掌から広がる大樹による圧殺も、ヘルス・アラモードは易々と躱す。


「これまでの戦い方からお前の戦術は十分に理解できた! 何はともあれ近づいてくることはなぁ!」

「おっと!」


 とはいえ全てが全てヘルスの掌の上というワケでもなく、死神の口にした通り距離を詰めれば攻撃の密度は増し、それに比例するように逃げ場は減っていく。

 鉄の壁や大地の壁を用いたことで徐々にだがヘルスの行く道は絞られていき、


「この俺を舐めた事を後悔しろ!」


 ヘルスが肉弾戦の出来る距離まで迫った瞬間、怒髪天を衝いた死神が咆哮をあげ、さらに一歩前へ。

 雷属性による反射神経強化。地属性による肉体強化。鋼属性による硬化を己が身に施し、ヘルスへと歩を進め拳を握り、対するヘルスも慌てて拳を握り、


「「!!」」


 両者が拳を突き出した瞬間、人類の戦いの歴史において最も原始的な決闘。すなわち何も握らぬ徒手空拳が二人の間を行き来する。

 いや繰り出されるのは握り拳だけに非ず。時に蹴りを、時には肘が撃ち込まれ、

 それに対処するもう一方は、ある時は躱し、ある時は防ぎ、

 疲れなど知らぬ様子の両者は瞬く間に五万を超えるだけの交錯を繰り返し、


「うぉ!?」


 たった一手。『流す』のではなく掌で『受けた』際にヘルスの姿勢が崩れ、背後へと向け大きくのけぞる。


「そこだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 その姿勢が立て直されるよりも早く、死神が勝負を決めにかかる。

 色とりどりの花が咲いた地面と水平になりつつあるヘルスの顔面を撃ち抜くよう、これまで以上の強さで拳を握ると必殺の意を込め動き、振り下ろし、


「ルインの言ってることは当たってるな」

「アンタさ、本当に駆け引きが苦手なんだな。視点を変えると、ここまで見る景色が変わるんだな」

「――――――はぁっ!?」


 そんな彼の握った拳。その指に、ヘルスの履いている革靴が器用に突き刺さる。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 いくら肉体を強化しようとも指先に神経が集まっているのは変わりなく、わざと姿勢を崩したヘルスの回転蹴りをモロに浴びた数本の指は明後日の方角へと折れ曲がり、腕は悲鳴と共に真上へとかちあげられ、


「覚悟!!」


 正真正銘駆け引きの含まれていない本当の隙。

 その姿を前にヘルスが動く。

 これまで以上の速度で前進し、これまで以上の速度で握り拳を全身に叩き込む。


 その全てが死神の全身に突き刺さり、最後の裏拳が腹部に叩き込まれた瞬間、死神の肉体はフワリと宙を舞い、


「クソッタレがぁぁぁぁぁ!!」

「!」


 それでもなお彼は吠える。

 敗北を認めず、己が右手に強烈な雷を宿らす。

 それはまさしく彼の全力全開。これまでを遥かに超える圧縮率はヘルスとて目を見張るほどで、


「トール!」


 がしかし、ヘルスは退かない。

 いつものように回避することを選ばず、『ここは抗う場面である』と腹を括り、咲き誇る色とりどりの花を踏み、己が全身を一個の固定砲台へとするよう意識すると、全身全霊を込めた蒼い雷の砲撃を頭上へと撃ち込む。


 結果、


「う、嘘だ………………いやこれは夢だ! し、神人族たる俺がこんなところでお前如きにぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 死神の放つ全身全霊はヘルスの撃ち出す渾身の一撃に押し負け、なおも形を残したそれは死神を飲み込み、


「勝負あり、だな」


 勝ち越したヘルスが悠然とした足取りで、落下し地を這う死神へと向け距離を詰める。

 それはこの戦いが始まる前の状況の再演。しかして立場は逆転した図であり、


「み、認めない。俺は絶対に――――認めない!」


 ヘルスが見下ろす死神の顔にはなおも怒りの念が燻っていた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VS死神はこれにて完結。次回はエピローグ部分にあたります。

ヘルスが選ぶ道。そしてこの戦いの迎える結末がどこに繋がっていくのか、乞うご期待!


そしてちょうど区切りがいいので、新人賞投稿4月10日まであいだお休みを頂ければと思います。

勿論余裕があれば投稿していきたいので時折確認していただければと思うのですが、

あまり期待されないようよろしくお願いいたします。


それではまた次回、3月31日の投稿でお会いしましょう!

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