表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1105/1358

ヘルス・アラモード NEW BORN


「ぐ、ががががががぁ!?」


 これまで一度たりとも零したことのない死神を名乗る男の苦悶の声を耳にして、けれどヘルスの意識はそちらに向けられることはなかった。


 今、彼の脳を埋めているのは己の身に起きた大きな変化。

 視界がかつてないほど広がり、木々や花々の呼吸さえ聞き取れるほど過敏になった神経。

 積み重なった疲労は吹き飛びかつてない充足感が身を包み、指先から足先までが自由自在に動かせるという事実。


 言うなればスイッチのオンオフの切り替え。

 はたまた深海から勢いよく引き上げられ、腹いっぱいに息を吸ったかのような感覚が彼の身を包んでいる。


「………………なんだこれ? 本当に俺の体か?」

そうだ。お前が本来なら至ることができたはずの強さだ

「俺の…………強さ………………………………?」


 数多の言葉を駆使しても説明しきることのできない変化にヘルスは戸惑いを隠せず、上機嫌な様子で小さく飛び跳ねるが、そんな彼に対し脳内から冷ややかな声が突き刺さり、


そうだ。主人格様がもう少し

「!」

「一度だ。たった一度俺の不意を突けた程度で、調子に――――」


 続けて説明を行うルインであるが、ヘルスは最後まで聞くことはできなかった。

 真っ黒な髪の毛を乱れさせた死神が幽鬼のような足取りでヘルスの真下にまで距離を詰め、心臓のように躍動する炎の塊を掌の上に浮かべていたのだ。


「おっと。あぶねぇ!」

「なぁ!?」


 そのまま突き出せば空の果てへと向け炎の渦は昇っていくのだが、ヘルスは自身の右手をそっと添えるだけで突き出された腕の軌道を変え攻撃を躱し、唖然とする死神の腕をそのまま掴むと、何らかの反撃をされるよりも早く弧を描く軌道で投擲。

 思ってもいなかったタイミングで宙を舞うことになった死神の口から戸惑いが漏れ、


攻めろ。ここで一気にケリをつける気持ちでな

「どういうことだ?」

この俺様を宿すクソカス主人格様が弱い一番の理由はよぉ、その貧弱極まりない性格にあるんだよ。たとえ相手が格下だとしても、戦って勝つ事を選ばねぇ。いつだって逃げて事が収まることばかり選んでやがる。そんなんだから相手の強さを見誤るし強くなれねぇんだよ


 続くルインの分析。それを聞き遂げたヘルスは反論することができない。

 自身のうちに眠るもう一つの人格ルイン。彼が語った内容は、一から十まで自身の胸に刺さるものであったのだ


「ルイン。俺は」


 とはいえ彼には彼の矜持があり、それを語るため口を開きかけ、


なんで俺様がクソカス主人格の謝罪を聞かなきゃならねぇ。んなクソつまらんことする余裕があるなら、さっさとあの雑魚を片付けろ


 そんな彼に対しひどく退屈な様子で応じるルインであるが、それはことこの状況でよい方向に転がる。

 今すべきことが何かをしっかりと指摘されたヘルスの視線と意識が、超えなければならない目の前の邪魔者をしっかりと捉えたのだ。


今更主人格様のこだわりやら美学にグチグチいうつもりはねぇ。

「………………………………」

だが一つだけ言っておいてやる――――恐れることは何もねぇ。足を止める必要もねぇ。お前は好きなようにできるだけの力があるんだからな

(早い!)


 内に宿る別人格が告げるそんな言葉の羅列を脳内に響かせ、強い決意を宿し駆けるヘルス。

 その速度、その鋭さは先ほどまでの比ではなく、放り投げられた状態から素早く体勢を立て直した死神が目を見張る。


「――――はぁ!」

「っっっっ!!?」


 直後、空中で対峙する二人の骨肉が交差する。

 拳が、蹴りが、地上に辿り着くまでの僅かなあいだに繰り出され続け、その末にヘルスの繰り出した裏拳が死神の顎を捕らえ、先ほどとは比較にならないほどの衝撃を脳に奔らせ、男の動きが鈍る。


決めろ!

「ああ!」

「こ、のぉぉぉぉっっっっ!!!!」

 

 内部からの声援にも似た声を受け、花園への着地と同時に初めて己が意志で後退ではなく前進を選ぶヘルス。

 彼の行く手を阻むため迫るのは、数えきれないほどの命を絶ってきた死神の腕であり、


「っ!」

「なぁ!?」


 けれどそれは、今の彼にとってはなんの脅威にもならない。

 蒼い雷の中に一条の黒を織り交ぜたヘルスの繰り出す二度目の裏拳。

 それは迫っていた脅威を易々と明後日の方角へと吹き飛ばし、


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぐ、がぁ、ごぼぁ!?」


 続けざまに撃ち込まれた千を遥かに超える拳。

 それは自身を唯一無二の存在。神の恩寵を浴びた才人と語る死神の肉体と心に深々と突き刺さり、一秒もせぬうちに絶体絶命の窮地に叩き込む。


「み、認めてやる。認めてやるとも!」

「!」

「ヘルス・アラモード。お前もまた――――俺と同じ領域の稀人なのだと!」


 とくればさしもの死神も認識を改めるほかなく、自らの脳にこれまで感じたことのないような熱が宿り、それに呼応するかのように鋼属性粒子を放出。

 これまでのちゃっちな球体ではない。己が身を纏う無数のプレートへと変形。

 そこから赤と黒を基調とした兜と甲冑となり、己が全身を包み込む。


 それは追い詰められたことで見せる死神の本気。

 これまでのような遊びではない。『敵を殺す』というシンプルかつ原始的な欲求を満たすために作られた、彼の切り札である。


まだ頭のネジが緩んでるようなら『ソード(斬刑)でも貸し出そうと思ったが

「大丈夫だ必要ない。全部――――引っぺがす!」


 だというのにヘルスは僅かたりとも怯えない。

 自身の内部から聞こえる嘲笑うような声を耳にしても揺れることなく、蒼い雷を身に纏い、神人族である死神が知覚できないほどの速度で肉薄。


「馬鹿、な………………」


 死神の纏っている甲冑を形成する鉄の板。

 そのうちの一枚を掴むと易々と引き剝がし、何らかの邪魔をされるよりも早くさらに十枚ほど剥がしていき、


「や、やめろぉぉぉぉ!」


 悲鳴と共に伸ばされた腕。

 それを体を半回転させながら回避し、


「バルキルド・ライ――――」


 天地がひっくり返る状態でなお微塵も気を乱さず、ピストルの形にした右手の人差し指に超圧縮した神の雷を溜め、


「トール(砲撃)!」


 解号と共に放射。

 雷の弾丸は鉄の板を引き剥がしたことで生まれた空洞から内部に入り、死神の全身を貫いた。

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回は誰の目で見ても明らかなヘルス無双回となります。

まぁ三章クラスの戦いといってもですね、出てくるキャラクターの強さは一から十くらい差があるものでして、片手間程度とはいえルインのような無法寸前のキャラクターが手を貸せばこうなります。


4章前半最終決戦第一回戦もそろそろ大詰め。

小説を新人賞に投稿するために少々お休みを貰うことになると思うのですが、それまでにうまい事ひと段落できるのではと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ