ルイン先生の主人格強化プログラム
「数が多いし厄介な能力を持ってる奴が多いな。まぁそれだけなんだがな」
「そうだな。この程度ならワシの放つ練気で沈められる」
ヘルスが死闘を繰り広げる一方、アラン=マクダラスへと向け突き進む積とナラストの前には障害となる黒服が立ち塞がる。
彼らは積が語る厄介極まりない能力を所持しており、百を超える人数が足並みを揃えて立ち塞がるが、ナラストが放つ『威圧』の練気を浴びると、ある者は気を失い、ある者は頭を垂れ微動だにできず、ある者は胸を抑え膝をついた。
「き、貴様らぁ!」
「おいおい。俺に向かって『貴様』はないだろう」
「上下関係がしっかりとできて………………いや、それに関しちゃ言える立場じゃねぇな俺は」
ごく少数がそのどれでもなく反抗の牙を彼らに突き立てるだけの余力を残していたが、未だ十全な二人を捉えることはできず、間を置かず行われた反撃を浴びると意識を失い花園に身を預け、
「…………しかし本当によかったのか? お主の考えもわかるが、それでも三人で挑んだ方が良い成果につながったように思えるのだが?」
「必要ない。あの場面は、ヘルスさん一人で十分だ」
「いやしかしだな」
「貴方はまだ、彼の真の力に気づいていない………………問題は、そのために一皮剥けるかどうかってところだな」
「?」
「本来なら紛い物相手に負けるわけがないってことですよ」
そこまで圧倒的な戦果を挙げても怯むことなく迫って来る追っ手達を前に、鉄斧と刀を抱えた二人は語り合う。
時に受け、時に断ち、時に躱しながら、
能力や術技の強力さに反し拙い狙いや連携を見ながら、脳裏に浮かんだ死神の様子を重ねて積はそう断言。
ナラスト=マクダラスもさして反論はせず、粛々と目の前に立ち塞がる本来ならば部下であるはずの黒服たちを片付け始め、
「報告に挙がってた機動兵器か」
「てことはこっから先は第二ラウンドだな」
そうして終始圧倒する彼らの前に新たな敵が現れる。
それは二メートルを優に超える二足歩行の兵器の数々で、老人が放つ磨き抜かれた威圧を跳ねのけ、機械制御による正確な狙いの攻撃を放つ。
それらにしっかりと対処する積とナラストは、戦いが新たな段階に至ったことを察した。
まぁいい。おら、さっさと体を明け渡せ。目の前のクソカスは俺様が殺してやる
自身の頭の奥から響く声。それを前にしてヘルスは肝を冷やしていた。
その声を二度と聞くことはないと思っていたゆえに。
「お、お前なんで………………俺が、ちゃんと沈めたはずじゃ………………………………!?」
己の内に宿ったもう一つの人格。すなわちルイン=アラモードは、二度と表に出てこれないよう意識の奥の奥にまで沈めた。これは間違いない。だというのに今、こうして自身に話しかけている。
その事実にヘルスは取り乱す。
それこそ、目の前にかつてないほどの強敵がいるにも関わらずだ。
その認識は間違ってねぇよ。けどな、そうやって必死こいてるお前が意識を奪われかけたとなりゃ、俺を沈める腕の力も弱くなるってもんだ。おかげさま外の景色を見ながら話しかけることくらいはできるようになった。
「っ!!」
己が胸中に秘めている焦燥感を感じとっている故であろう。
脳内に響く声には煽るような色が含まれており、ヘルスは思わず歯ぎしりをする。とはいえ彼はこのタイミングで気が付くことができた。
こうして自分に話しかけてる内に眠る怪物ルイン。
彼がかつては延々と発していたような強力な圧を、今は感じないと。
つまり体を乗っ取られる心配はする必要がないのだと。
確かに今の俺様はお前の芯に直接訴えかけることはできねぇ。だがわかってんだろ? 俺様なしじゃあいつには勝てねぇ。それが分かったんならさっさと変われ。
ヘルスのそんな胸中はルインに伝わっているようで、求めてもいないというのに返事が響く。
「断る。お前を出すくらいなら、ここで死んだ方がマシだ」
………………正気かよクソカス
そんな彼に対しヘルスは堂々と言い切り、彼の内部に眠るルインは信じられない答えを聞いたとでも言うような音を発する。
とはいえヘルスからすればこれは当然の選択だ。
なにせ彼の中でルイン=アラモードという男はそれほど大きい。
死神と比較して暴れた場合の被害範囲。
積みあがるであろう死傷者の数。
そして何より、自分が守ると誓った少年少女に与える傷の深さ。
どれをとってもルインが外に出た場合の方が、死神が与えるものより甚大であると彼は判断していた。
裏を返せばこれは、自身の内部にいるルインの方が死神より強いと認めていることであり、その事実に早くも至ったヘルスは顔を歪め、
………………いいだろう。今回のところは俺様が引いてやる。あいつを倒すための『力』と『方法』だけ教えてやるから、貧弱平和ボケの主人格様は耳かっぽじってよく聞きやがれ
「え!?」
直後に不意を突かれる。己の内に存在する怪物が、ここまで素直に退くなど思っていなかったゆえに。
信じられねぇことだが、クソカス主人格様は俺様を出すくらいなら本気で死んだ方がマシと考えてやがるからな。それだけは阻止する必要がある。業腹だが、お前の体は俺様の体でもあるんだからな。となりゃ、この場を潜り抜けるくらいの力は貸してやるのが道理だろ
「いや、まぁ、そうなんだけどさ………………………………そんな簡単に潜り抜けれる修羅場じゃないだろ?」
あまりの混乱から一番聞きたかったことと違う内容を呟いたヘルスは、
気づかないクソカス主人格には頭を痛めるばかりだよ。少しは頭を働かせろ。これだけ俺様と会話してるクセに、目の前のクソカスは一向に攻撃を仕掛けてこねぇだろ。なんでだと思う?
「………………あ」
間を置かぬ返事を聞き、今更ながら気づいた。
ルインと自分が長々と話しているおよそ数十秒間。敵対している死神は何をしていたのか?
自分の前から去ることもなく、ジッと自分を凝視する彼の意図はどこにあるのか?
警戒してるんだよ。クソカス主人格様の事をな
「え?」
野郎にとって初めてのことなんだろうよ。体を貫かれるような傷を負うなんてのはな。
その答えもルインは告げる。
既に負った負傷は全て直し、襲い掛かるのに何の不都合もない『裏世界』最強。彼が動けない理由は要約すればただ臆病風に吹かれているからであると。
主人格様だって薄々感づいてるんじゃねぇのか? 目の前のクソカスはスペック任せの馬鹿だって。肉弾戦を自信満々に仕掛けてるクセにフェイントの一つも挟まねぇ。粒子術はどれもこれも初歩的な球体ばかり。戦術なんてあったもんじゃねぇ。一から十まで力まかせのおざなりなもんだ。逆にクソカス主人格様のフェイントやら仕掛けには全部引っかかってんじゃねぇかよこの馬鹿クソカス
続けて言葉の雨を浴び続ければ返す言葉もなく、開いた口が塞がらない。
「………………………………………………殺せば関係ないか」
そんなヘルスの姿を前に、死神はついに動き出す。
手刀を作るとまっすぐに進み出し、ヘルスの胴体に風穴を開けるよう腕を撃ち出し、
「っ!?」
そんな彼の単調な動きを嘲笑うようにヘルスが体を捻り、その勢いを乗せた回し蹴りを彼の頭部へ打ち込むと、死神は躱す素振りすら見せずそれを食らい地面に沈み、
『情報』は都度話すとしてあとは『力』だな。どうやらクソカスな主人格様は俺様から奪った力をロクに使えてねぇみたいだからな。乗り掛かった舟だ。受け取れ
「あ………………………………」
そのタイミングで、ヘルスの全身を強烈な力が包み込む。
それは彼の内に宿ったもう一つの人格が所有する『現代最強』たる力の一部であり、
「バルキルド・ライ――――」
「殺されるだけの立場のお前が! 無駄に足掻くな!」
鼻血を出しながらもすぐさま立ち上がり、反撃を目論む死神を前に腕を掲げ、
「――――トール(砲撃)」
告げる。先ほどまで利用していた蒼い雷。その真の形の名を。
それは『借りる』『無理やり奪う』という形で得た仮初の権利では決して到達できなかった領域。
担い手であるルイン=アラモードの力が流れてきたことで初めて発揮できた本物に『極めて近い』一撃であり、
「馬、鹿な。こ、こここここんなふざけたことがあっていいはずがぁぁぁぁぁぁぁ!?」
超圧縮された雷の一撃が直撃し、生まれて初めて直面した『死』の危機を前に、死神は先ほどまでの余裕を根こそぎ失った悲鳴を上げた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
お久しぶりですルインさんな一話。
話の内容としてはシリアスなのですが、
なんとなくこうしてみたいと思いタイトルはちょっとおふざけ気味。やってる内容はマジメなんですけどねホント
さてさて『裏世界』最強との戦いも大詰めです。
次回、新生ヘルス・アラモードが躍動します
それではまた次回、ぜひご覧ください!




