再訪と衝突
「よし行くぞ」
「ほ、本当に行くのか積。こう言っちゃなんだが戦力に不安が残るんだが!」
「俺の予想ではあっちにはエクスディン=コルと康太を狙ってアサシン=シャドウが向かってるはずだ。となればこっちに残った主要な戦力はアラン=マクダラスに死神の二人。ナラストさんが協力してくれるのなら、勝算は五分五分のはずだ!」
「アサシン=シャドウが向こう側に向かった? その根拠は?」
「ここ数日の動きを顧みてだ!」
「もし坊主の予想が外れていた場合、勝算は五分五分じゃすまねぇだろう。いいのか坊主?」
「重要なのは奴らを俺たちの手が届かないあの異空間に辿り着かせない事です。それを成せるなら、この場で無理に勝つ必要はありません!」
エクスディン=コルとの死闘から時を戻し、『裏世界』に残った積サイド。
そこにいた積とヘルス、それにナラスト=マクダラスの三人は康太と優を見送った後、大慌てで動き出した。
その理由はやはりアラン=マクダラスが目指している目的地がウェルダと戦った桃色の空が敷かれた地であるためである。
「ヘルスさん。アンタならわかるはずだ。あそこに逃げ込まれたら、こっちから手出しすることはもうできないんだ!」
「そりゃ………………そうだが」
真に不思議で事情の説明ができない事であるが、かつてガーディアらが隠れ家として使い、ウェルダと死闘を繰り広げた人の姿なき楽園は、あの戦いを機に行けなくなっていた。
ガーディアらが使っていた『鍵』となる物体は消え去り、ゼオスの瞬間移動でも辿り着くことが不可能であったため、彼らは気になっていたあの場所の調査を断念するしかなかった。
「予想が外れてる可能性はないのか?」
「十分にあり得ます。それを確かめるためにも俺達は一刻も早く向かわなくちゃいけないんです」
そんな場所にアラン=マクダラス達がたどり着けるのか、それは彼の父が言う通りわからない。
その真相を知るためにも辿り着かなければならないと積は告げると隠れ家の扉を開き外へ。
「あんたらにも退けない事情はあるんだろうけどよ、無駄に怪我するだけだから引っ込んでた方がいいと思うぞ!」
その瞬間待ち伏せをしていた黒服たちが強力な術技や能力の数々を先頭を走り階段を登る積へと奔らせるが、その全てが彼へと到達するよりも早く後に出てきたヘルスが蒼雷を纏いながら前に飛び出し、掌に集めた雷を投擲。
属性神が所有する雷は歯向かう悉くを捻じ伏せ、その先にいた敵対者の背筋を凍らせた。
「行くぞ!」
その結果を見届けることなく確信していた積は彼らの脇を通り、既に錬成していた鉄の鎖で黒服たちをひとまとめにして拘束。
「『沈め』!」
余計な抵抗をさせないため、ヘルスが威力を抑えた雷で彼らの意識を刈り取ろうと画策するが、それよりも早く最後尾を走るナラスト=マクダラスが口を開き、周囲の空間を揺らすような勢いで一喝。
それは側にいたヘルスの心胆を震えさせるほどのものであったが、対象となっていた黒服たちに与える影響はその程度では留まらない。
鎖に縛られたまま全身を小刻みに震わせたかと思えば口から泡を吐き出し、力なく項垂れた。
「い、今のは?」
「俺の使う『威圧』の練気の効果だな。対象の魂に対して直接命令を下して、屈服した場合その効果を発動するってもんだ。『死ね』や『殺せ』みたいな指示に対しては強い忌避感を抱かれて失敗しちまうが、萎縮した相手や困惑した相手が対象なら、今みたいな指示もうまいこと通る。まぁ今の場合は、おたくがビビらせた影響もあるけどな」
「そ、そりゃどーも」
「戦えないなんて言いながら物騒な力を持ってるじゃないか」、内心でそう思いながらヘルスは生返事を返し、そうこうしている内に壁や建物の屋上から尖兵が登場。その全てを急ぎ足で駆ける三人は下し、つい数時間前に訪れたマクダラスファミリーの邸宅である屋敷へと到達。
「邪魔するぞ!」
先頭を走る積が入り口を飛び蹴りで砕き、自分たちが偽りのナラスト=マクダラスと会話をしていた地点まで瞬く間に到達。
「誰もいないな。それならいい………………ヘルスさん。派手にやってくれ」
「は、派手に?」
「入り口の有無を探す時間がもったいない。この邸宅を跡形もなくぶち壊して一気に見つける」
「お、おいおい坊主。そりゃ勢いがありすぎだろ!?」
「こっちには一週間以内なら無機物の時間を戻せる蒼野がいる。ここは目をつぶってもらうぞナラストさん」
積の提案に対して残る二人が気後れするが、噛み砕いて説明すると少なくともヘルスは覚悟を決め、白い雷を圧縮。
「二人とも伏せててくれ! 白雷! 球!」
自身の身を飲み込める大きさの真っ白な球体を作り上げると雷属性で編んだ糸を取り付け、一緒にやって来た二人がしゃがんだことを確認した後、四方八方に動かしまわり邸宅を粉砕。
「地下があるならそっちも………………」
「いや待て。あったぞ!」
しゃがんでいるナラストに対して相談しかけるが、最後まで言い切るより先に積は見つける。
人一人が入れるサイズの空間に空いた孔。その先に見える見覚えのある空の色と花園を。
「閉まる前に飛び込め!」
すぐさま動き出した積が声を張り上げるとヘルスとナラストの二人もそれに続き無事孔の中へと到達。
久方ぶりにやって来た奇妙な空間を前に積とヘルスの胸には死闘の記憶が蘇るが、そちらに意識を向ける余裕はなかった。
自分たちが通った孔が塞がったから――――ではない。
「来たか。待ちくたびれたぞ」
「お前………………」
「今回は『全員殺せ』という指示を受けてるのでな。一人残らず殺してやる」
立ち塞がるように『裏世界』最強の個。死神と呼ばれる男が待ち構えていたゆえである。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
4章前編、クライマックスへと突入です。
最初に立ち塞がるは本編で語られた通り『裏世界』最強の男。
ここから物語は終結へと向け雪崩れ込みます!
それはそうとこうやって書き続けているとふと思うのですが、百話で一つの話が終わりに向かうというのはちょっと新鮮ですね。
振り返ってみるとやはり3章は長かった! まあそれほどの強敵と戦っていた証左でもあったのですが!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




