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兵達の饗宴 三頁目


「………………これは?」

「すごいもんだろ。こいつら全部、いま世界中で起きてる争いなんだぜ」


 前後上下左右全てのモニターに映し出された映像。それは今、マクダラスファミリーやエクスディン=コルの策略により起きている闘争の姿であった。


 ある場所では胴体に風穴を空けられている子供がいた。


 ある場所では全身を炎で包まれ悲鳴を上げている無力な民がいた。


 ある場所では血を吐きながら敵対者を持っている剣で挽肉にしている狂気の戦士がおり、


 ある場所では操っている獣たちを用いて人を噛み砕く姿があった。


 その全てが悲惨極まりないもので、湧き上がる悲鳴に包まれたゼオスが顔から血の気が引く。


「で、さっきの続きに関して何だけどな、ここ最近のお前さんはちぃとばかし調子乗ってる感じだったからな。少しばかり現実を叩きつけたくなったんだよ」

「……現実?」

「応ともよ」


 ゼオスが吐き出す言葉はなんとも弱く、そんな彼を覗き込むように僅かに屈んだエクスディン=コルは囁きかけ、


「お前さぁ、少し見ねぇ間に随分といい顔になったじゃねぇの。なんつうのかな。『俺様はヒーローなんですぅ!』なんて主張する感じの顔だ。そんなお前にな、優しい優しいおじさんは教えてやりたかったのよ。テメェ如きが調子づいたところで、守れるものなんて何にもないってなぁ!!」


 かと思えばおちょくるような口調で言葉を紡ぎ、語尾に向けて進むにつれ小馬鹿にするような態度に変化していく。


「見ろよおい! どれだけ強くなったとしても! 好きな場所に移動できるとしても! お前さんは! その手で何一つ救えねぇ! 結局テメェは! 人を殺すことしかできねぇガキなんだよぉ!」


 両手を広げ踊るように動き回りながら嬉々として語るエクスディン=コル。その姿を目にしてゼオスは唖然として、


「…………まさか貴様は、それだけのために世界中を?」

「いや、そりゃ依頼だからこなしてるだけだ。けどまぁジコンに関しては俺自身の意志だな。なんせお前さん、柄にもなくこの場所を意識してるらしいじゃねぇの。それならちゃーんと狙ってやらねぇとなぁ」

「………………っ」


 続けて語られる内容にゼオスは胸を痛める。

 エクスディン=コルが口にした通り、ゼオスはこの場所に他とは違う思いを抱いていた。

 そしてその思いが理由で危険な目に合わせてしまっている。

 その事実が今のゼオスには殊更堪えた。


「おおっと。あぶねぇあぶねぇ。だがよぉ、考えなかったのかクソガキ。おじさんがここに出るってことは、それなりの準備をしてるってなぁ!」

「!」


 ゆえに待ち受ける被害。すなわち千年前の遺物による大爆発だけは止めなければならないと思い漆黒の剣を掴む腕を動かすが、斬撃は届かない。

 ゼオスとエクスディン=コルの前に広がってる透明の壁に阻まれる。


「乗客席があるなら運転席があるのは道理だろ? んでもってそういう場所は、外から厳重に守られてるのが道理ってもんだ」


 言ってしまえばそれは乗客と客員を隔てる当然の措置で、がしかし神器の固さが備わっているゆえに、ゼオスの前に絶望的な壁として立ちはだかる。

 同時に、この時ゼオスは嫌な予感に襲われる。


「………………っ!」

「おいおい無理やり下車しようとするなよ。んなもん無理に決まってるだろう。常識を知れって」

「………………貴様」

「馬鹿だなお前。おじさんが身の安全を確保して動くことなんて、よーく知ってるはずなのによぉ」


 その時ゼオスの頭に浮かんだのは『この場所から出ることができないのではないか』という不吉な予感。

 言い換えれば世界中が危機的状況にも関わらず、己はエクスディン=コルの言う通り何もできないのではないという事実。

 その真偽を確かめるために能力を発動するが思った場所に移動することができず、急いで車内から出るために剣を奔らせるが傷一つ付かない。

 続けて扉を開こうとするがビクともせず、ここに来てゼオスは理解するのだ。


 この列車に乗り込んだ時点で、自分にできることは何もないのだと。


「あ、ちなみに言っておくとだな。無数に積まれたエクトデスの爆発方法ってのは言葉通りじゃなかったんだぜ」

「……どういうことだ?」

「時間が来たら爆発するとは言ったが、単純な時限式じゃあねぇ。実際にはあと一分と少ししたところで、もう一方の電車と正面衝突して、その際の衝撃によって周辺一帯を木っ端微塵にする予定なんだよ」


 続けてエクスディン=コルが語る内容に関しては、人によっては何の意味もないことであろう。

 「結果的に爆発させるなら、無駄な努力をしてるな」などと言う輩とて出てくるはずだ。


 がしかし、ゼオスにとっては話が異なる。


 なぜなら今、彼は暗に指摘されたのだ。


 「もし自分が誘いに乗らず外にいれば、少なくともこれから起きる被害を止めることはできた」のだと。


 その事実に打ちひしがれ、膝をつきう項垂れそうになったゼオスは、


「……これは」


 けれどそこで、真下にあるモニターの様子を見て声を上げた。


「こりゃ………………」


 次いでエクスディン=コルも目にしたのは、数多の戦場で増援として送られてきたエヴァの使役する別惑星の魔の者であるのだが、ここまでならば二人は驚きこそすれ声を上げることはなかっただろう。


 ではなぜ声をあげたかと言えば、各々の場所にやってきたさらなる援軍の姿が移ったからである。


『賢教から参った。怪我人はすぐに救護班に。無事な者は我々の後ろに。邪魔者はこちらで片づける』


『よーしよし。よく頑張ったな。後は俺達に任せなぁ!』


『神教から来た! 今は過去の因縁を忘れ! 共にこの危機的状況を乗り越えよう!』

『感謝する!』


 そこに記されていたのは神教の罪なき民を自らの身を盾にして守る賢教の戦士の姿。

 本来の姿を晒し、多くの人を守る壁として声を上げる竜人族の戦士の姿。

 そしていがみあっていた過去を清算し、手を取り合って襲撃してくる『裏世界』の黒服を退ける二大宗教の戦士の様子であった。


 その様子は真下だけではなく前後上下左右全てのモニターで行われており、一つまた一つと、悲鳴が歓声へと変化していく。


「………………この世界の悲惨を示す、か」


 その姿を目にして耳にして、ゼオスの全身に力が漲る。

 なぜなら彼は思い出したのだ。つい先ほど康太に言われた言葉を。


 自分の仕事は厄介者。すなわちエクスディン=コルを仕留めることにあると。


「どうやら、貴様の思うようにはいかないようだなエクスディン」


 発する声には各地で行われている悲劇への悲観はなく、むしろ全てを任せられる援軍が数多く存在することに対する歓喜があり、力強い踏み込みによって繰り出された無数の斬撃が、二人を隔てる壁を揺らす。


「………………まぁいいさ。お前さんがどれだけ虚勢を張ろうが、ここから出られない事には変わりがねぇ。となりゃジコンの滅亡は確定さ」


 それでも壁には罅すら入らず、二人の間の境界は揺るがない。

 がしかしエクスディン=コルの声には先ほどまではなかった不快感があり、迫る爆発の瞬間に巻き込まれないため側の扉から出ていく姿には、先ほどまでは抱いていなかった不快感が募っていた。


「…………そうだな。俺はどれだけ足掻こうが出られはしないのだろうな」


 続けて自身が発した言葉を、ゼオスは至極残念ながら真実であると受け入れる。

 しかし落胆はしない。


「だがな、俺自身も今更思い出したことだが、こういう時にこそあの人は現れるのだったな」


 なぜなら彼はこの瞬間感じ取ったのだ。


 自分たちが危機的な状況に陥った時、何も言わずとも助けてくれる援軍を。


 死した善に代わり、自分たちを見守ってくれている男の姿を。


 こういう時に現れるからこそ、『勇者』と呼ばれている男の名を。


「全く、こっちに来て正解だったな。まさかこんな面倒ごとに巻き込まれているとは!」


 外を見れば思い描いた通りの人物が並走しており、


「ゼオス! これは一体どういうことだ! このままいけば同じ形をしたもう一台の新幹線と衝突するぞ!」


 彼は――――レオン・マクドウェルは、閉じ込められたゼオスの横に近寄ると、苛立ちを感じさせる声色でそう言った。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回でVSエクスディン=コルにおける山場へと突入。

各々の場所で起きた変化。援軍であるマクドウェル郷の登場です。


しかし書いてて思うのですが、『最強』とか『厄介』など色々なワードで示すことができるキャラクターはいますが、『勇者』という言葉がこれ以上なくふさわしいですねマクドウェル郷。

これで初登場時は悪役演じようとしてたのですから、マジで似合わない事してましたね当時の彼は。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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