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兵達の饗宴 一頁目


「うし。これで一通り片付いたか?」

「ジコンの人らの避難も一通り済んだよ。二人とも来てくれてありがとな。助かったよ」

「いいっていいって。なんにせよ死傷者ゼロで済んでホントによかったわ」


 ゼオスがエクスディン=コルの誘いに乗り第二ラウンドの舞台に飛び込む一方、ジコンに残った三人が行っていた機動歩兵たちの進行が止み、住民たちの憩いの場である図書館正門に静謐な空気が漂う。

 それを肌で感じ息を吐く康太の元にやって来たのは蒼野と優の二人で、その顔には危機を超えたことによる達成感と仄かな笑みが浮かんでいる。


「それよりも問題は積達の方よ。こっちにアタシと康太を纏めて送ったのは確実にジコンを守るためよ。けど同時に、早期決着を見越してのはず」

「あっちの応援に向かわなくちゃいけないってことか」


 とはいえ彼らに安息の時間は与えられない。

 夜闇を駆け抜け新たに迫った数百体の機械の徒が、ジコンへと向け一直線に向かっていたのだ。


「残念だがそこまで余裕を与えちゃくれねぇみたいだ。次はなんだ? 恐竜モチーフってところか?」

「避難が済んだからな。こっちを手伝うよ。優はどうする?」

「康太が十全に力を発揮するなら後ろの方が都合がいいでしょ。ならアタシは前に出て暴れようかしら。蒼野はその間に立つ感じで」

「わかった」


 とはいえ彼らは既に多くの戦場、多くの猛者を相手に生き延びた強者である。

 足裏に付けているローラーにより軽快な動きを見せる、巨大な楕円状の頭部に細長い体を備えた歩兵を前にしても動ずることはなく、落ち着きと余裕を感じさせる空気を纏ったまま、ジコンの町を守るように臨戦態勢へ。


「……いや蒼野。お前は下がれ。さっき確認したんだが九十番以降の番号持ちが見当たらなかった。となりゃゼオスが念話で言ってた番号付きの残りはこいつらの中にいるはずだ」

「番号付き?」

「爆弾の起爆スイッチを持ってる奴らのことだ。取り逃した場合が面倒だからな。蒼野の奴はそっちに回したい」

「なるほどね」

「わかった。じゃああとは頼んだ!」


 しかし自身の脳が警鐘を鳴らすと康太は認識を改め、話し合いの結果、蒼野は避難した人々の元まで移動を開始。

 優が水の鎌を構え直し康太が回避されないよう銃弾の質を調整すると、


「なっ!?」


 そのタイミングで、予期せぬアクシデントが彼を襲った。




「…………ちっ」


 車内に着地するよりも早く強烈な熱と衝撃を全身に浴びたゼオスであるが、怪我の度合いはさして気にするほどのものではなかった。

 これは神器により強化された肉体が並大抵の衝撃ではビクともしないほど頑丈になっていたこと。加えて熱に対する耐性が他者と比較して遥かに高いためである。


「………………」


 こうして最初の危険地帯を突破したゼオスがまず意識を注いだのは、現在地についてと車両内部に関してだ。


「………………第五車両か。向かうべきは第一車両か? だがここは………………」


 誰に聞かれることもなく考察を重ねるゼオスであるが、そんな彼が僅かながらも驚いた事柄は車両内部に関して。細かく詰めていけば置いてある内装についてである。

 

「………………この列車全体が神器と奴は入ったが、そんなことが本当にあり得るのか?」


 車両の両端に設置されていたのはさして高価でもない安物横長の座席の数々で、天井から吊り下げられている持ち手も極々一般的なものだ。

 壁にかけてある広告とて内容に関しては見たことがないもののさしてお金をかけているわけでもなく、社内全体を照らす明かりとて少々の薄暗さを兼ねた地下鉄で使われるようなものである。

 まとめると、どこにでもある『一般車両の中』という評価に落ち着くのだ。


 だというのにこの場所はまごうことなき神器の中なのだ。

 その証拠に車両全体を包むほどの爆発を受けても内装には焦げ目一つなく、ゼオスが何度か乗ったことがある姿を保っている。


「神器だなんて信じられねぇ!………………て顔だな」

「!」

「おじさんもそー思う。こうやって遊び場として使ってる今でさえそういう気持ちがある! けどまぁ現実のもんとして受け止めてくれ」

「………………神器は基本、血の滲むような修練の末に手に入るものだ。その形が電車だというのなら、信じられんが想像を絶する腕の運転手のはず、つまり貴様ではないはずだ………………どこでこんな神器を手に入れた?」

「詳しい事情まで説明する気にならねぇんだがな、そういう伝手、便利な商人がいるってこった。それ以上知りたきゃ………………おっと。あぶねぇな!」


 自身の考察を口にしながら瞬間移動が不可能な事を知り、時空門が開けないことも把握した。

 となれば距離を詰める方法は愚直な直進しかなく、たったの一歩で左右の座席を通り抜け、漆黒の刃が届く射程まで詰め、居合の構えから一閃。

 だがその動きを完璧に把握していた様子のエクスディン=コルは刃が振り抜かれるよりも早く第四車両に通じるスライド式のドアを開け奥へ。


「ま、詳しい話はおじさんを生け捕りにしたうえで聞くんだな! 最も『できれば』の話だがなぁ!」


 結果、万物を斬り裂くはずの斬撃はなんの変哲も壁とドアに阻まれ、エクスディン=コルはその光景を満足げに見届けながらさらに奥へ。

 ゼオスは無言でそれを追いかけ、戦いは第四車両へと移行。


「さぁさぁ! 本格的に楽しもうぜぇ!」


 先に入ったエクスディン=コルに続きゼオスが次なる戦場へと飛び込むと、そこで彼を迎え入れたのは銃弾の嵐だ。

 先ほどまでの違いと言えば逃げられる範囲が比べ物にならないほど狭いことで、空間一帯を埋めるような黒鉄色の弾丸の数々は、見るものの胸中に重い感触を与える。


「……馬鹿な」


 驚くべきはその弾丸全てが車両と同じ神器であることで、一発一発が瞬間移動の類ができないゼオスを死に至らせるだけの威力を秘めている事である。


「……これも話していた商人の手引きということか?」


 だとしても今のゼオスの相手ではない。

 弾丸が発射された順番を冷静に見極め、迫る速度の差まで完璧に把握し危険度の高いものから順番に弾き飛ばす。

 それらは壁に当たることで跳弾を繰り返すが、その全てをいなしてゼオスは前進。

 獰猛な獣のような笑みを浮かべるエクスディン=コルに肉薄し、今度は次の車両に移動されるよりも早く、振り抜いた斬撃を届かせた。


「ヒュウ! 眉一つ持ち上げずにいなすか。すげぇな! それが修行の成果ってやつか!」

「………………」


 不穏なのは一つずつ策が破られているにもかかわらず余裕を崩すことのないエクスディン=コルの姿で、渾身の一撃が手にしていたサバイバルナイフで完璧に止められたことに対し顔を歪ませる。


「そう落ち込むなって! こいつも神器さ! ま、そんなことはどうでもいいかぁ! 次は第三車両だ。俺を何とかしたいならよぉ、急いで追っかけてくるんだなぁ!」


 直後に蹴り飛ばされたゼオスは腹部に鈍い痛みを覚えるのだが、それと同時に引っかかりを覚える。

 

 今の自分にとってはさして効果のない攻撃の数々。


 普段ならば絶対にしない、自らの身を用いた賭け試合染みた作戦。


 そんなことをするエクスディン=コルの目的は何なのか、と。




 康太の持つ危険察知の異能は、日を追うごとに研ぎ澄まされていた。

 ゆえにかつてのような不安定なことはなくなり、あらゆる状況で効果を発揮する最高品質のセンサーと化していた。


 がしかし、その精度に関しては未だ改善の余地があるとみていいだろう。


 彼の異能は身に迫る数多の危険を察知でき、その大小まで判別することができるようにもなった。

 だが敵対者が感情を極限まで削ぎ落とし、他に存在する数多の殺意の中に隠した場合、完全な臨戦態勢にまで移行していなかった場合に限り、不意を突くことができるのであった。


 そして


「ちょっとアンタ!?」

「オレの方は気にすんな! そんな余裕はねぇ。それに………………どうやらこいつはオレに用事があるようだ」


 言うは易く行うは難きその難問を突破できる存在が今、康太と敵対しており、彼の脇腹から心臓付近にかけてまでを深々と抉った凶器を引き抜きながら立ち塞がる。


「………………………………………………」


 灰色の巨躯を備えた無言無表情の存在。

 彼の名はアサシン=シャドウ。


 『裏世界』に潜んでいた、この好機を待ち望んだ暗殺者である。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です


タイトル変更からの第二ラウンド本格始動。

ここで追加の刺客の登場。戦いはクライマックスへと向け進み出します。


様々な要素や思惑が重なった此度の戦い、ぜひ最後まで見ていただければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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