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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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ゼオス・ハザード、罰を受ける 二頁目


「残念ながら我らが主は既にお休みになられている」


彼らが神の居城を訪れたのはそれから少ししての事だ。

 警備の兵に許可を得て神の居城に入場し、その後待合室で兵士に事情を話しをしていると、奥の部屋からノア・ロマネが現れる。


「ゼオス・ハザードの捕獲、ご苦労だった。今回の案件は神教の法と我らの意見を照らし合わせた上で判断する」


 現れたノア・ロマネはその場にいた兵士に退室するように命じ、その場ではノア・ロマネと善と蒼野が対峙。

 体の一部を紙に変化させたノア・ロマネが善をジロリと見つめながらそう告げると、その様子を見ていた聖野の顔が青くなる。

 この男との相性は最悪は最悪というのが善本人の弁だ。

 そのような者にゼオスの処遇を任せればどうなるか、それは然程難しい想像ではなかった。


「おいノアお前!」

「質問は受け付けん。罪人の裁きは、厳粛に行われるべきだ」


 背負ってきた蒼野の様子に少しばかり気を使いながら早口で何事かを口にしようとする善。

 その言葉をノアは素早く遮ると、善は頭を掻き毟り、苛立った様子で舌打ちをした。


「……そうかい。だがな、こっちはそれ以外にも重要な事を聞きたくてな。悪いが後で時間を取ってもらうぞ」

「…………神教を捨てた男の言葉に従う理由はないな」

「あれま! なにをしてるのお二人さん!」


 二人の会話が終わらない内に、夜の帳の向こう側から見知った顔が現れる。

 神教を代表する最高戦力、アイビス・フォーカスにゲゼル・グレアだ。


「姉貴、実は」

「別に改まる必要はないわよ善。ここに来る前に、大方の事情は外に出て行った兵士から聞いたわ」

「ゼオス・ハザードをお主の部下に、か、特殊条件雇用法を利用するのじゃな?」

「はい」


 特殊条件雇用法とは、有り体に言うと実力や業務面では十分な能力を持っているが、犯罪者などの通常の法では雇用することが難しい人物を雇用するための法である。

 便利な条約ではあるのだが、これを通す場合にはもちろん条件が必要となる。

 それは神教における最高責任者、神の座・イグドラシルから許可を得る事なのだが、彼女が不在の場合に限り、直属の部下セブンスターに実務面の代表者である『三大天使』を加えた十人のうち、会議に参加できる面々が判断するルールとなっている。


「第四位は常日頃と変わらず欠席。第五位の李殿も欠席、こちらは潜入で忙しいとの事だ。デューク殿も同じく仕事で手が離せないとの事だ」

「……」


 その場に集まったのは五人のメンバー。

 アイビス・フォーカスにゲゼル・グレア、そしてノア・ロマネ。

 ここまでの面々は蒼野も既に知っている顔だが、残りの浅黒い肌をした筋骨隆々のスキンヘッドの大男と、頭部まで含め全身を重厚な鎧で固めた存在は、見たことがなかった。


「さてさて、要件はまあさっき通達された通りなんでしょうけど……思いきった事するのね善。お姉ちゃんびっくりよ!」

「まあこっちにも色々と考えてることがあるんだよ。だからよろしく頼むぞ姉貴」

「俺達はこの場にいなちゃだめですか?」


 頬を両手で挟み、びっくりした気持ちを表すアイビスに対し善がお願いし、それを見ていた蒼野が彼女に頼んでみるが、


「蒼野君。側近会議には資格がない者は参加できない決まりがあるのだ。結論が出た際に、君たちに連絡をさせてもらうので、それまで待機してもらいたい」


 善や他の面々が口を挟むよりも早く、ノア・ロマネが蒼野に説明を行った。


 その後、ノア・ロマネが会議を多少の時間を挟んでから行う事を宣言。

 善は蒼野を背負ったまま、アイビス・フォーカスと共に部屋を出た。


「なあに善?」

「頼みがある。これから俺が言う案を、通して欲しい」

「ま、そうくるわよね」


 善の提案を聞き悪い顔で笑うアイビス。

 そのまま善が話を始めようとすると、彼女は彼の前に左手を突き出し、悪戯っ子がするような笑みを浮かべながら、右手人差し指を口元に持って行き黙っているように命じた。

 

「お姉ちゃんの予想ターイム。アンタがゼオス・ハザードにかけようとしてる特殊条件雇用法の縛りってルールを破りそうになった瞬間に止まるタイプのもの……もっとズバっといっちゃうと『盟主の絶対命令状』じゃない?」

「…………よくわかったな。そうだぜ」


 『盟主の絶対命令状』とは拘束術の一つ。術者が対象を選び、禁止行為となる行動をした場合術者の筋力で押さえつけるというもの。

 術者が対象よりも力がある場合その差により制限の強さは変わってくるが、善がゼオス・ハザードに使えば、ゼオス・ハザードが課せられた条件を破ろうとした場合、指一本動かすことができない状態まで持っていく事ができる。

 デメリットとして対象が禁止行為をしてその動きを縛っている間は、術者の体から十分に縛るだけの筋力が差し引かれる仕組みとなっているため、これを使う場合はある程度の筋力差が必要とされる。


「縛る条件ってさ、どうするつもり?」

「『蒼野に手を出さない』か……いや『ウォーグレンの面々には手を出すな』か。手の付けられねぇ狂犬ってわけでもねぇみたいだし、それくらいでいいかなとは思ってるぜ。あんまり重くし過ぎると仕事に支障が出るしな」

「ま、そのどちらかが妥当かしら。けどそこでお姉ちゃんはお願いがあるのです!」

「あ?」

「そんな怖い表情しないの! 神教の代表として当たり前のお願いなんだから!」

「当たり前のお願いだと?」


 第一位の言葉に善が表情を曇らせる。

 この手のお願いを彼女がする場合、それは常に面倒であったことを思いだしたからだ。


「そ、ゼオス・ハザードの拘束の条件に、『能力をラスタリア内部に向けて使用しない事』と、『神の座イグドラシルがいる半径一キロ以内に空間をつなげない事』を加えて欲しいの」

「…………マジで言ってるのかそれ」


 その予想は正しく、アイビスが出した条件を前に善が顔を曇らせる。


『盟主の絶対命令状』に付ける拘束術は一つである事が勧められる。二つ三つと命令を加えられるのにもかかわらず一つである方が良いとされる理由は、この縛りの不完全性が理由だ。


 これは盟主が付近におらずともその効果を発揮するという大きなメリットがあるが、大きなデメリットも存在する。それは付けた制約の判別機能がしっかりと整備されていないという点だ。

 判別機能がないため二つ三つと制約を加えた場合、一つ破っただけでも全ての制約を破ったと判断される。その場合対象を縛りつける力は付けた制約分、つまり二つならば二つ、三つならば三つ分で一気に体を拘束する。

 それだけならばさほど問題でないのだが、その場合盟主側が支払う代償も、二つ分やそれ以上になるため負担も自然と大きくなる。


「俺のつける制約は一つ、加えるとしても一つがいいとこだろ。三つとなるとかなりきついぞ」

「あっそ。ならあたしはあんたに票入れな~い」

「ちっ!」


 幹部会議における決定方法は原則として投票制だ。

 こうなっている理由は誰か一人の強硬策を許さないためであり、神の座・イグドラシルが物事を決定する際も半分以上の反対意見があれば覆せる決まりとなっている。

 今回善がこの案を通すにあたり味方として票を入れてくれると予想したのはアイビスとゲゼルの二人。それに加え誰か一人が入れると予想して過半数だ。

 もしここでアイビスが入れないと決めた場合、この前提は崩れ、恐らく蒼野の願いは実現しない。

 

 今後のギルドの活動という打算も含め、それは是が非でも避けたい事であった。


「………………わかったよ。その条件をのむ」

「うんうん。素直でよろしい!」


 だからこそゼオス・ハザードを味方に加えると決めた善は、嫌々ながらもその条件を呑むしかなかった。


「じゃ、そういう事で。他のメンツもしっかり説得するから、期待してないさい」

「はいはい、たのみましたよ」


 そうしてギルド『ウォーグレン』の面々はその場から離れ彼女は会議へ臨み、それから一夜が明けた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で引き続き今回の戦いの後始末回。

ゼオスがどのような罰を受けるかの経緯と説明です。


恐らく次回で終わりだと思うので、よろしくお願いします。


明日は月曜日なので夜遅くの投稿になると思うのでご注意ください

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