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決戦! エクスディン=コル! 四頁目


 ゼオスと蒼野の二人がジコンに到着してからおよそ十分後。

 突如として降り注いだそれは『流星』という表現がふさわしいものであった。

 夜空に突然現れ、強烈な光を放ったかと思えば弧を描きながら落下し、地に堕ちると大地を抉る。

 真っ暗な空を埋めるのは千を超えるそんな物体であったのだが、その正体は『流星』などでは断じてない。


「エクスディンの野郎。好き勝手しやがって! 見つけたら脳天撃ち抜いてやる!」

「アタシは怪我人の救助に向かうけど、エクスディンと間違えて撃ち抜かないでね。回復はできるけどさ、アンタのそれはめっちゃ痛いんだから」

「……お前誰に物言ってやがんだ。このオレが、んな初歩的なミスするかってんだ」

「そ、じゃあよろしく」


 それは地上へと向けまっすぐに落下していく尾羽優を見送った古賀康太が迷う素振りを微塵も見せずに成しえた事柄であり、その成果は目覚ましい。


「………………ありゃゼオスか?」


 着弾すると同時に、撃ち出した銃弾をはるかに上回る数の機動歩兵を沈め、それを一呼吸のあいだほど続け八割以上の脅威を沈めたところで、彼は自身より先に到着していた男の影を見る。

 ゆえに現状の把握をするために自由落下に身を任し近づくのだが、真後ろに立った時点で彼はすぐに気が付いた。


「?」


 今のゼオスは、普段とは異なる空気を纏っていると。


「おいこらテメェ、何をぼさっとしてやがる」

「お前は………………」

「相手がエクスディンの馬鹿だからか? 本来のお前は、こんなもんじゃねぇだろうが」


 本来ならば原因を探ることに時間をかけるべきなのだろうが、手招きをしている暇はなく、遠慮など微塵もせず、ゼオスがそうなったある程度の予想を立て、単刀直入に疑問を投げかける。


「腑抜けてる暇なんぞ一秒たりともないわけだが………………オメェが動けなくなると全部ダメになる可能性があるからな。面倒だが聞いてやるよ。何があった?」


 言いながらも引き金を絞り、味方である優や蒼野は勿論のこと、逃げている市民にさえかすりもせず、森や建築物などの障害物をものともせず敵対者を撃ち抜く康太。

 そんな彼が口にした内容は常日頃ならば決して発せられることのないもので、ゼオスは背を向けたまま口を開く。


「……考えていたんだ。俺の選んだ道は間違っていたのではないかと」

「選んだ道?」

「………………かつての自分の方が強かったのではないか? 今のようにお前たちに頼ることを覚えず、無理やりにでも一人で全てこなそうとする方がよかったのではないかと考えていた」


 どれほど必死に動いても助けられない人がいる。その事実を突きつけられ、彼はふと考えてしまったのだ。今の自分は弱くなったのではないかと。


 『多くの人を助けるために必死に動く』


 その思いは、かつては彼が決してしようとは思わなかった行為である。

 かつてのゼオス・ハザードは生きるために必死であり、そのために強くなった。いや強くならなければ死んでしまう世界で生きていた。

 ありていに言ってしまえば強さへの欲求が今よりも果てしなく、そんな昔と比べ、今の自分は軟弱者になってしまったのではないかと思ったのだ。


「……もしも今の道を選んでいなかったのなら、お前ほどではなくとも遠距離攻撃の手段をもっと覚えていたかもしれないと思ってな」


 そこから先は芋づる式だ。

 直後にゼオスの脳を埋めたのは、今という瞬間まで幾度となく存在していた分岐点の記憶。


 ギルド『ウォーグレン』に所属したことから始まり、シュバルツとの戦いで始めて自ら協力を頼んだ瞬間。紅蓮の炎で満たされたジコンの姿。

 他にも様々な場面が頭の中を駆け巡り、彼の足を止めた。


「思い上がりが過ぎるぞ。たとえ今の道を選んでないとしても、たかが一個人が遠近二刀流なんてできるかよ」


 そんなゼオスの悩みを一刀両断するように康太は言い切るが、


「……ガーディア・ガルフならば可能だっただろう。ならばなぜ俺達ができないと断言できる」

「――――――」


 続く言葉に、康太は言葉を失う。


 しかしそれは反論できない故ではない。耳を疑うほど荒唐無稽な事を聞き、呆れてしまった故である。


「………………良い面ってのは見方を変えれば悪い面。表裏一体の二面性………………いやあの人の場合、悪い面の方が多いか?」

「………………?」

「ハァ………………いいかゼオス。時間もねぇから早口で言うぞ」


 

 額に片手を置き、引き金を引くのも忘れ愚痴を零す康太。

 とはいえ冷静な思考を保っている彼はこれ以上この話に時間をかけていられないことを理解しており、自分に背を向けているゼオスの正面に回り込むと、右手人差し指をゼオスの鳩尾のやや上に突き立て、


「お前が今まで選んだ道は間違いなく正解だ。でなけりゃゲゼルさんが遺した神器は使えてないだろ。なら今以上に強くなる手段はねぇよ」

「………………それは」

「てかオレ個人の意見を言わせてもらうならだ、蒼野が喜んでるから今のお前の方がずいぶんマシだ」

「………………」

「………………………………オレもそう思ってる」


 最後の言葉だけは少々遠慮がちに、というよりも恥ずかしそうに告げ、すると珍しい声色を耳にした故にゼオスは頭を上げ、


「それともう一個だけ言っておく! 冷静なお前ならすぐに理解すると思うが! ガーディアさんは大マジメにバグの類だ! 単体で超える事を目指すもんじゃねぇよ。本人もそう言ってるしな」

「………………強くなることを諦めるという事か?」

「一人でなんでも背負う必要はねぇってことだ」


 なぜゼオスが顔を上げたか察した康太が今度は額を突き、最後の最後で、一番自分が伝えたかった事を口にする。


「忘れるなゼオス。確かにオレ達は一人一人じゃあの人に及ばないしできない事も多いが、そりゃ一人だからだ。全員が強くなって各分野で上回り、臨機応変に動けるだけの作戦を建てる。そうすりゃ大抵のことは何とかなるし、あの人にだって勝てるだろ?」

「………………」

「可能かどうかは、オレ達自身が身をもって証明したはずだ」

「………………あれはズルでは?」

「ズルしてでも勝てたんだ。相手が『果て越え』なら少しくらい誇ってもいいだろうが!」


 語気を強めながら康太は再び引き金を絞り、撃ち出された弾丸が二人に近づいてきていたロボットの数々を砕き、飛来する凶悪な兵器も捻じ伏せる。


「そこで役割分担すると、オレの仕事ってのはバカスカ弾撃つことが中心だ。場合によっては主役にもなるが、今回の場合は腹立つことに露払いだ。住民の避難と回復に動いてる蒼野も優も重要な役回りだが、今回の場合主役じゃねぇ。だとするとだ!」

 

 このタイミングで天を衝く大蛇の姿をした黒鉄色の兵器が地面を突き破りながら現れ、直後に全身から放たれる実弾による弾幕を康太が阻止。

 同時に合いの手を自身の側に立つ、義兄弟と同じ顔をした仲間へと投げかけ、


「………………厄介者の始末が俺の仕事という事か」


 それに応えるように、ゼオスが跳ぶ。

 空高く、ジコンの惨状を見渡せるほどの高度にまで、たった一度の跳躍で。


「たくっ、賢い奴はこれだから面倒なんだ。もうちっと頭空っぽにして周りを頼りやがれ」


 その姿を見届け、口元を緩ませる康太。

 彼の瞳が捉える先で迷いを振り切ったゼオスは漆黒の剣に紫紺の炎を纏い、『90』と番号が記された巨大な機械の蛇に狙いを定め、


「……食い破れ――――竜の咢!」


 解号を告げると同時に頭上から足先へと漆黒の剣を一振り。

 それにより地上へと打ち出された紫紺の炎は宣告通りの形を成し、五十メートル近いサイズの機械の大蛇を飲み込み炎の柱に。

 炎の柱はしばらく続き、かと思えば嘘みたいにあっさりとかき消え、後には大蛇の残骸は欠片ほども残っていなかった。


 そして、


「…………康太」

「ん?」

「………………頼んだ」

「あぁ。任せとけ。それと、二度とオレに不慣れなメンタルケアなんてさせるな。めんどくさくて仕方がねぇ」


 一瞬で康太の元に戻って来たゼオスが、短くそれだけ伝える。

 ただそこに込められた思いがどのようなものかを康太は察し、柔らかな声でそう応じると、ゼオスは続く康太の憎まれ口を最後まで聞くことなく疾走。

 光さえ追い抜く速度でジコンを抜け、周囲を囲う樹海を超え、その先にある聳え立った崖を睨むと一呼吸の間に駆け上り、


「……エクスディン!」

「おいおい早すぎんだろ!」


 その上で待ち受ける。此度の騒動の大元。エクスディン=コルの元にまで瞬く間に辿り着き、今の己を示す証。ゲゼル・グレアが遺した剣を振り抜いた。


 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


クソッタレなゲームは早くも九割方乗り越え、ゼオスが本丸へと到達です。

次回からは第一ラウンド延長戦に第二ラウンドへ!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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