決戦! エクスディン=コル! 三頁目
「みんな無事か!」
「蒼野! 帰ってきてくれたのね!」
「良かった無事だ。シスター久しぶり!」
人々の救出を行うことに専念する蒼野がいの一番に向かった場所は、やはり自分が育っていた古賀孤児院であった。
そこで親として長年にわたり己と接していたシスター、シャンス・N・マクシームと再開すると顔を綻ばせ、僅かなあいだではあるが抱擁。離れたところで二人の瞼には少しの涙が溜まっていたのだが、孤児院全体が揺れると、一足先にそれを拭い取った蒼野が顔を引き締め問いかける。
「怪我人は? あと、残ってる人の数は?」
「怪我人はいないわ。でも残ってる人たちはいる。外での被害は把握してたから逃がしてたけど、それでもまだ二人ほど子供が残ってる。ちょうど今から迎えに行って、一緒に逃げ出そうと思ってたところよ」
「なるほど。それなら俺も一緒に行こう。一人より二人の方が心強いだろ?」
「ええ。助かるわ蒼野!」
続く作戦の立案や表情にも乱れや躊躇はなく、蒼野が提案するとシャンスも素直に乗っかり柔らかな笑みを。
「あの部屋よ!」
「わかった!」
二人は慣れた足取りで明かりが点滅する廊下を駆け抜けると、最奥一歩手前の部屋まで移動。
少々乱暴な手つきで蒼野は部屋へと続く扉を開き、中の光景が露わになる。
「無事か!?」
そこにいたのは二人の幼い少年。
外の喧騒を大なり小なり感じ取っていたゆえか不安げな表情を浮かべていたものの、温かな光や周りにあるおもちゃは蒼野の脳内に刻まれていたままで、自分の大切な場所がなんの被害にも遭っていないことを理解し息を吐く。
「あ、お兄ちゃんだ!」
「蒼野お兄ちゃん久しぶり!」
「……ああ。久しぶりだな。元気にしてたか?」
そんな蒼野の思いに感化されたゆえか二人の子供の顔からも自然と笑みが漏れ、蒼野がしゃがみ両手を広げると、勢いよく駆けより抱き着いた。
「聞いてなかったけど、逃げ遅れたのは大人を含めたら他にもいるのかシスター?」
「いいえ。彼らで最後のはずよ。だからみんなで一緒に逃げましょ」
とここで蒼野は思い浮かんだ疑問に関して尋ね、顔を綻ばせたシスターはそう応答。
「よ~し、今ちょっと外が大変な事になってるから避難するぞ。怖いんだったら顔をうずめていいからな!」
一人を蒼野が、もう一人をシスターが抱きかかえると、蒼野が少々大げさな声を上げ、
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「そういえばおじちゃんはまた来ないの?」
「おじちゃん?」
そのタイミングで声をかけられる。
けれど子供たちの言うことの要領が掴めなかった蒼野は疑問を零し、
「そうだよ。昔同じように大変だった時、僕たちの前で人形劇をしてくれたおじちゃん! また来るって、言ってたんだよ!」
「でもあれ以来一度も来てくれてないんだよね………………おじちゃんどうしてるんだろ?」
「――――――」
明るい声で行われた返事を聞き言葉を失う。足が地面に張り付く。時が――――止まる。
なぜなら彼は即座に理解したのだ。いや『してしまった』のだ。二人が口にする存在が、誰であるのかを。
「………………蒼野?」
変化は肩を並べて出口へと向かっていたシャンスにも伝わり、彼女の口からは不安げな声が漏れ、
「いや、何でもないんだ。行こう」
「そ、そう? それならいいんだけど」
しかし彼女が視線を合わせた時には普段と同じ表情に戻っており、彼らは孤児院を脱出。
他の者らが避難している地下にまで足を延ばし、危険なトラップの類がないことを確認すると、蒼野はその場を去った。
その胸中を知られないために。無我夢中で。
「………………三十六番、違うな。今すぐに仕留めなければならないのはこいつではない!」
蒼野がそのようにして自身の育った施設を守り切った一方で、ゼオスもまた獅子奮迅の活躍をしていた。
駆け出してから今までのおよそ数分、目にする機体全てを一太刀で両断し、スイッチを押せないように両腕にあたる部分を砕いていた。
そうしているとわかることも多々あった。
まず第一に全ての機動兵器がスイッチを持っているというわけではないという事。
これはこれまで斬り伏せた相手が百を超えており、体に数字が書かれていない機体が大半であることから早々に気が付いたことである。
もう一つが、持っている機体が人型とは限らないということ。
ギリギリのところで防げはしたのだが、5のスイッチを持っている機体は機械で作られた獅子であり、尻尾が伸びたかと思えば、先端部分にスイッチが生えてくることがあったのだ。
同じような例は他の機体でも幾度か見られ、狙わなければならない相手が人型では留まらないという事実にゼオスは顔を苦いものに変化させる。
「!」
そんな彼の耳に届く形で爆音が鳴り響き、慌ててその方角に振り返る。
するとそこで目にしたのは夜空を喰わんと迫る紅い舌ときのこ雲で、ゼオスは顔をさらに苦いものに。
「た、助けて。助けてくれ!」
「……!」
ともすればすぐに別の機体を処理しようとするゼオスであるが、再び背後から声がかかり振り返ると、頭から血を流している定年間近の男がおり、そんな彼へと向け数多の銃弾が発射。
「……ちぃ」
急いであいだに入ったゼオスが1,000発以上の弾丸全てを叩き落とし、背後にいる男性に接触。
するとそれだけでゼオスの能力が発動し男は姿を消すのだが、表情は暗くなる一方だ。
「……奴の望んでいる顔に早くもなっているな」
機械の残骸が積まれ、至る所で炎が上がる戦場の真っ只中で横を見れば崩れかけの公衆トイレがあり、その奥にある半壊した鏡に映る己の顔を見てそう毒づく。
それは余人では理解できないであろう僅かな変化。けれどゼオス本人からすればあまりにも顕著な変化であり、同時に彼は思い知らされてしまう。
手が足りない、と。
シュバルツと打ちあえるほどの力を得ようと、瞬く間に敵を退けられるだけの力を手にしようと、世界は彼の思うようには動かない。
『不条理』などとも思わないし、『世界はこんなに残酷なのだ』と悟ったわけでもない。
ただただ単純に力が足りないことを思い知る。
その事実をエクスディン=コルは突きつけてくる。
もし自分がガーディアのように早く動ければ、そこまでいかなくとも康太のように遠距離攻撃に優れていれば、悲劇は避けられたかもしれない。
そう痛感させられた直後に人を死に至らせる悪意が再び産声をあげ、ゼオスはこう考える。
己は――――――間違った道を進んだのだ、と。
「おいこらテメェ、何をぼさっとしてやがる」
「お前は………………」
「相手がエクスディンの馬鹿だからか? 本来のお前は、こんなもんじゃねぇだろうが」
そう言って沈んでいく意気を、無理やり引き上げる者がいた。
今しがた数多の銃弾を流星の如き勢いで降り注がせ、視界に飛び込んだ無人機全てを粉々に砕いた男。
一歩遅れてジコンに到着した、古賀康太である。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
皆さまお久しぶりです。少々の不安は残るものの復活しました。
そんな今回の話は個人的には色々と突っ込みました。
蒼野に芽生えた不穏な影。ゼオスの苦悩。それに援軍である康太の到着。
分量はさほど多くないのですが、ここまで一気にかけたので作者は割と満足です。
さて今回の物語も四章の他の話と同じくペースは速め。
色々な問題を一気に片付け、エクスディンに手を伸ばしましょう!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




