決戦! エクスディン=コル! 二頁目
燃え盛る蒼野と康太の故郷ジコン。
彼らにとって大切な人と住処であるその場所を襲うのは『十怪』の一角にしてヒュンレイ・ノースパスの仇。加えて言えば幼き日のゼオスに戦う術を叩き込んだ戦争犬エクスディン=コル。
彼が仕組んだ新たなる戦禍の種。
それが今、発芽する。
古賀蒼野とゼオス・ハザード。同じ顔をした二人の若人が、舞台に登壇したことによって。
『いやぁ、よかったよかった! 来るとは思ってたんだが、やっぱ不安はあったんだぜ。平和主義かつ故郷が襲われてる古賀蒼野ならまぁ来るだろうとは思ってたんだが、お前さんとここを繋ぐ縁はなかったからな。来てくれて嬉しいぜ坊主!』
「…………来るさ。お前が言っていたんだからな。『少ししたらわかる』とな。まさかここまで早く理解することになるとは思わなかったがな」
蒼野とゼオスの二人に挟まれ、この場において唯一十全の機能を発揮できる人型兵器が語り出す。
体のどこかについているスピーカーから聞こえる声はエクスディン=コルそのもので、身振り手振りは操縦されているロボットとは思えないほど生き生きしている。いや人間そのものといっても過言ではない。
『そうかい。サプライズのつもりだったからな。驚いてくれたのならなによりだ。そんじゃま、お前らも来たことだし仕事を本格的に始めようかね』
そんな人型兵器が嬉々として話を進め――――そのタイミングでゼオスが疾走する。
音を置き去りにする程度の速度ではない。光さえ追い抜く全速力で、目標を一太刀で切り捨てようと紫紺の炎を纏いながら駆け抜ける。
なぜなら彼は知っているのだ。
エクスディン=コルという相手の土俵に上がること。それがどれほど危険で面倒な事に繋がるかを。であれば最初の一太刀で仕留める事こそ最良最善であるのだ。
『おいおい無粋だなお前さん。こういうのは段取りってもんがあるだろーが』
しかしゼオスがエクスディン=コルという人間のことを知っているのと同じく、エクスディン=コルもゼオスという人間の事を理解している。
ゆえに勝負を決するはずの一撃は視認できなかった透明の壁に阻まれ、反撃として3メートルを超える巨体から吐き出された銃弾が、僅かに怯んだゼオスの体に襲い掛かった。
幸い秒間数百発程度の弾丸ならば今のゼオスは十分に対処可能で、全て明後日の方角へと弾いた直後、その際に生じた衝撃に身をまかせ距離をとる。
(なんだ今のは)
鼻の頭に襲い掛かる鈍い痛み。それ自体は問題ではない。重要なのは己の突進を阻んだ謎の正体であり、ゼオスが目を細めそれを探る。
『でだ。今回のおじさんの目的についてなんだが、察しはついてるだろうが時間稼ぎだ。お前さんらにはこのジコンを守るためにおじさんの企画したゲームに参加して、身を粉にしてもらいたいと思っている!』
「ゲームだって?」
だがそちらに意識を向けていられるだけの猶予はない。
左右後方を鋼鉄で囲い、前面をサンバイザーで守っているような顔面を備えた人型の機動兵器は、そう言いながら銃口になっていない方の腕を掲げる。
するとそこには真っ赤な突起物を付けた筒状の物体が握られていたのだが、嫌な予感を覚えた二人が動き出すより早く、突起物。すなわちスイッチだったものが押され、
「「!!」」
ジコンの市街地から少々離れた位置で二人の耳を支配するほどの爆音が生じ同時に火柱が。それから一瞬だけ間を置き、数こそ多くはないが喉を枯らすような悲鳴が届く。
『内容は簡単だ。実はおじさんさ、ちょっと前からこのジコンに何度も訪れてたのよ。で、こうやって周辺一帯をぶち壊せるだけの威力を備えている爆弾を仕掛けておいた』
「エクスディン!」
『ルールもこれまた簡単だ! 今俺が起動したような爆弾のスイッチを、このジコンに滞在している機動兵器が一個ずつ持ってる! それによる被害は見ての通り! で、こいつらが爆弾を起動させるのには順番があってな。今のは例外だが、1から順番に100まである! これの起爆をできるだけ阻止するために動くってのが、お前さんらの課題だ!』
『さらにさらにぃ! 爆発の規模やら場所には法則がある! 大サービスだ。ここで言っちまおう! 数字の5が刻まれてる奴が起こす爆発は市街地やら孤児院! それに図書館みたいな『人が集まりやすい場所』! んで10の倍数の爆発は通常のものの10倍の規模の爆発を想定して仕掛けられてる!』
「………………き、貴様!」
『おいおいどうしたどうした? 爆発のタイミングがわからないのは卑怯だって? そりゃ言えないな。あとのお楽しみってやつだ。その代わりに隠しておいてもいい法則について教えてやったんだ。勘弁しろって。あ、それとだな、番号については体の一部に一目でわかるように張ってやった。ありがたく思えって!』
唖然とした様子から瞬く間に怒りを募らせ、まさしくゲームそのものなルール説明が終盤に差し掛かったところで二人の怒りは近年稀にみる領域に。
ゼオスにしては珍しくその声には明確な怒気が乗せられており、しかしそれを受けてもエクスディン=コルは普段の調子を崩さない。
『それとも何か? 『こんなゲームはやってらんねぇ!』なんて言って舞台をおじゃんにするか? まぁそれもいいさ。おじさんは寂しいけどさ、これって結局は青少年の自主性頼りのゲームなのよね。だからやる気がないなら帰ったところで文句は………………あ』
既に頂点に達したと思われる怒りは、しかしエクスディン=コルが言葉を紡ぐたびに増していく。
『腸が煮えくり返る』『怒りのあまり吐き気を催す』『自身が爆弾になったかのような気分』数多の言葉で表現しようにも足りないほど彼らは憤りを覚えていたが、それらは瞬く間に霧散した。
『わ、わりぃわりぃ。楽しくて話し過ぎて、最初の一発が爆発しちまった…………』
子供が些細な悪戯がバレてしまったような気軽さでエクスディン=コルがそう語り、先ほどの一撃を超える規模の爆発と火柱が立ち昇り、比較できないほどの悲鳴が上がる。
その事実を理解し二人は動き出す。
蒼野は一直線に爆発の発生源へと向け駆け出し、ゼオスは周囲にいてまだ両手が健在の人型兵器の元へと疾走。有無を言わせる暇もなく全てを紫紺の炎で燃やし尽くした。
『さっすがは正義の味方だ。悪を許さず! 善を成す! そんなお前らが大好きだぜおじさんはぁ!』
その姿を見届け、説明を終えた機体は機嫌よく笑いながら動き出し、
「……エクスディン!」
『おっと。見逃してくれたら爆笑したんだがな。流石にそこまで曇っちゃいねぇか』
しかし直後に憤怒の表情で迫ったゼオスが持っていた神器の刃が、自身の行く手を阻んだ透明の壁を易々と砕き、胴体に突き刺さる。
その背には『7』と刻まれており、
『つってもまぁ、わかっちゃいると思うが俺はこの機体に乗っちゃいねぇ。会いたいんだったらそうだな――――そのツラを最高に情けないものに変えてくれ。そうすりゃ、しっかりと眺めたくて出てくるかもな!』
ノイズが奔り通信が遮断される直前、エクスディン=コルの陽気な声はやや陰り、ゼオスに対しそう発言。
「……ッ!」
忌々しげに思いながらも敷かれたレールを走ることでしか道が開かれないことを察したゼオスは剣を引き抜き、次なる獲物を求めジコンを駆けようと考え――――思うように剣が抜けない事を理解。
『爆発まで、あと三秒』
「え、エクスディィィィィィィンッッッッッッ!!」
瞬間移動で逃げる、などという選択肢はなかった。
なぜなら彼の背後には未だ逃げきれていない無辜の民が居り、これを守るために彼は頭を勢いよく回転させ、
強烈な閃光と共に生じた爆発が、ゼオスの全身へと襲い掛かった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
正直に告白しますと作者は腹の底から腐った下種野郎というのを描くのが苦手です。
も思いやら意志を持つ気高い悪役というのが好きな影響で裏表のない純粋な外道というのが書きにくいのです。
そんな自分が頭を捻り続いて思い至ったのが今回の作戦なのですがいかがでしょうか?
気に入っていただければ幸いです。
それにしてもこういう行為を嬉々として行ってもおかしくないキャラというのは便利ですね。『こいつならこういうことをするだろうなぁ』なんて思えて、良心の呵責がありません。
蒼野君とゼオス君のはゴメンネとしか言えませんが。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




