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積の考察『X』の謎 

 

「………………言い出しっぺのオレが尋ねるべきじゃねぇかもしれねぇが……本当によかったのか? せめて優だけでも」

「さっきも言ったが故郷を救いたいお前の気持ちは痛いほどわかるつもりだ。止めやしねぇよ。そんで、激しい戦いや人質のことを考えるなら、協力無比な能力だが五分っていう時間制限が設けられている蒼野だけじゃ不安、いや全部救うつもりなら優が必須だ。これはそれだけの話なんだよ」

「………………恩に着る」

「気にすんな。あっちだってエクスディン一人に全てを任せてるわけじゃねぇはずだ。他の戦力だっているだろうよ。そっちに幾分か割かれてることを考えりゃ、悪くない配分だと思うぜ。なんせこっちには千年前の生き残り、古豪のナラストさん。それにお前とゼオスの二人がかりでも勝てるか微妙なヘルスがいるんだからな」

「………………」

「早くいけ馬鹿。時間がねぇぞ」


 エクスディン=コルによる犯行予告が行われてからの彼らの動きは迅速であった。

 猪突猛進の勢いで動きかけていた康太を積がコントロールし、ジコンへ向かうメンバーを即座に選定。自分たちの居所がバレる可能性を承知の上で康太に優を見送り、門番として狭い通路を埋めるようにヘルスを置く。

 ここまでの流れが五分もかからず行われ、隠れ家に残された積は黒革のソファーに腰掛け息を吐いた。


「いいのか坊主。俺の力は」

「『わけのわからねぇピエロに吸い出されてる』ってか。まあ予想はしてるさ。それでもズブの素人よりははるかに役に立つだろうし、末端の黒服共を怯ませる神輿として担ぐだけなら十分意味があるだろ」

「…………全て承知の上か。若いクセに肝っ玉が据わってやがる。だがどうすんだ。となりゃ実質戦えるのはお前さんとヘルス・アラモードの二人だけだぜ」

「ゼオスが来ることに賭けて籠城戦……なんてことも想しちゃいるが、おそらくそうはならねぇだろうな。まぁこの予想の有無はすぐにわかる。襲われた場合は……門番を務めてるヘルスと協力して、閉所で数を絞りながら戦うしかないだろうな」


 語る積の口調は淡々としたものであるが僅かにではあるがやけっぱちな印象を与えるもので、眉を持ち上げたナラスト=マクダラスは、しかし『今ここで問うたところで意味などない』とでも言うように真正面に座り力を抜く。


「ただいま~。積君の予想はドンピシャだな。言われた通り十分ほど待ったが人が近寄って来る気配はなかったし、そもそも本拠地の邸宅に敵の姿はなかったぞ。言われた通りバレるの前提で探知したから精度には自信ありだ!」

「……あいつら全員でどっか行ったってことか?」

「ハァ…………可能性は高かったが賭けは賭けだ。うまくいって安心したぜ」


 それから十分。積とナラスト=マクダラスはさほど話すこともなく、座ったまま神経を研ぎ澄ます。

 それは急な襲撃があった際に対処するためのものであったのだが、戻って来たヘルスの言葉を聞き積が張り詰めていた空気を解き息を吐く。


「どういうことだ? この結果がお前さんには見えてたと?」

「ええ、まぁ。これで多少なりとも時間に余裕ができたことになるので、詳しい説明をします。ナラストさんから情報を提供してもらわなくちゃいけないですし」

「?」

「まず初めに、俺は十中八九襲撃はないと思ってた。エクスディン=コルからの連絡がその証拠だ」

「……ほう?」

「このタイミングで俺達を『裏世界』からどこか別の場所へ動かすってことは、言い方を変えれば『自分たちの行動を邪魔してほしくない』ってこと。何らかの大事を仕出かすってことだ。だからまぁそっちに人員の大半を割いてるだろうなと思ったんだよ」

「……心当たりから察するに『ウェルダ』とかいう物。いや兵器に関するなにかか。そこらへんを俺は知らねぇんだが、詳しく教えてもらってもいいか?」


 そうして常日頃と同じ程度までリラックスし始めた積が背もたれに体を預け自身の推理を語っていくと、ナラスト=マクダラスが質問を投げかける。すると、


「…………そもそもの話としてだ、貴方はウェルダのことをどれだけ知っている? まずはそこからだ」

「悪いが何も知らねぇな。この言葉だって、牢屋の前で息子が絶大な『力』として指してたから知ったtってだけだ。ウェルダってのは一体なんだ?」


 逆に積が質問を投げかけることになり、やや不服に思ったのか老人は顔の皴を濃くするが、それでもここで余計な口を挟むようなことはせず素直に答える。


「…………ウェルダってのは数週間前、世界中、いや地上の猛者が一丸となって挑んだ最強の敵の名だ。端的に言っちまえばガーディア・ガルフの力を基にした怪物でな………………全てを出し切ってなんとかハッピーエンドで終われたよ」


 途中で協力者にして生存者である千年前の英雄たちの名前を零しかけた積は、その部分だけ濁してそう説明。


「で、だ。両方と戦ったからこそわかる。生き残ってるウェルダは力が激減してる。話によると元々の三割程度らしい。それでも『裏世界』の総力でぶつかったとしても、指一本触れられないほどあいつは強い」

「そんなにか!」


 違和感を抱かれて口を挟まれるよりも早く断言した。

 そうだ。シャドウやアラン=マクダラス。それに『死神』は強い。情報通りならば未来都市を纏めていたバークバク翁も厄介ではあるだろうし、無数の能力者やロボットも強敵ではあるのだろう。


 しかし足りない。


 力が激減したとはいえガーディア=ウェルダに指一本触れる事さえできないだろうと積は見積もる。


「となりゃ、ここに何らかの仕掛けがあることになるんだが………………」


 だからこそ必ず何かあるはずなのだ。不可能を可能にできる存在が。

 謎の存在。未だ自分たちの前に姿を現していないアンノウン。不確定の要素『X』が。

 そしてそれはおそらく、未だに姿を現していない道化師の精霊の使い手。真っ黒に塗りつぶされた不気味な影であり、


「………………」

「どうした坊主。何か気になることでもあるのか?」

「ああ」


 それでもそうそう都合よくウェルダに対抗できるだけの戦力が現れるわけもないと積は考え、ではどのような可能性があるかを精査していく。

 これまであった出来事、目にしてきた資料。数多の記憶と記録を振り返り、


「――――――――土地の記憶か!」


 つい先日『才能育成都市』で目にした記録から気になる点を抽出し、無根拠ながらも確信を得た。

 

 アラン=マクダラスの狙いは数週間前の死闘で散っていった七割の方にあると。


 自分たちはどうにかして、もう一度桃色の空に包まれた花園に向かわなければならないのだと。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です


決戦前の前置き回。

霧の向こうに隠れていた様々な事柄の考察回です。

どこまで当たっているのかに関しては今後わかるとして、積達は再び向かうのです。

この世のものとは思えぬ楽園。

人の存在しない神秘の最奥へ………………


などと語りましたがこちらの物語はまだ先。

次回からはついにエクスディン=コルとの決戦編です。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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