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永夜の都市とマクダラスファミリー 五頁目


「うし、全員無事だな」


 力んだ声で積がそう口にしたのは、マクダラスファミリー本拠地から抜け少し離れた場所。派手な明かりが照らす繁華街の裏路地にあたるところで、明かりがないため少々見づらいが少なくとも数十人が滞在できる広さを有していた。そんな場所で様々な色の兎の群れから解放された積が息を吐く。


「あぁ。なんとかな」

「アタシは余裕よ。まぁアンタたちに比べてタフだからね」

「俺も大丈夫だ。お前らが無事でよかったよ」


 ここに至るまでに大通りを通ったことで多くの人らに迷惑をかけてしまったことを積は自覚しており、そのことに関して罪悪感を抱いていたのだが、続けて帰って来た三つの返事を聞きその事実は一旦隅に置き安堵の息を吐く。続けてこれからどうするかについて頭を回し始めた彼は、


「いきなりどうした康太!?」

「どうやらまだ窮地を脱してないらしい!!」


 直後に勢いよく吹き飛ばされ困惑の色を示すが、二挺の拳銃を盾にして自分を守った仲間の発言を聞き、意識を切り替える。


「完全な不意打ちだったはずだったんだがな」

「悪いがオレはそういうのにはめっぽう強くてね。四人とも、運がなかったと諦めてくれ」

「優! ヘルス!」

「ええ!」

「任せておけって!」


 状況は勢いよく動き出す。

 康太の発言から敵が複数であると認識すると優が水の鎌を生成して構え、その間にヘルスが雷属性を集めた拳大の球体を生成。

 アンダースローで空中へと投げると、自分らがいる裏路地一体を照らすほどの光が発せられた。


「確かに康太の言った通り四人だな!」


 そうして浮かび上がったのは黒服を来た四つの敵影で、これまでと比較して違いがあるとすれば、四人のうちの一人、体中に無数の傷跡を刻んだ青年期を抜けた男がサングラスをかけていない事であった。


「油断すんな。そこらの黒服とは違うぞこいつら!」

「言われるまでもねぇよ!」


 その人物を筆頭にして纏う空気の剣呑さは十把一絡の黒服サングラスとは明確に違い、積達は再び臨戦態勢へと移行。

 

「早ぇ! 見た感じ加速系の能力か!」


 それを待つまでもなく黒服サングラスの一人は積の側にまで肉薄し、手にしている刀を躊躇なく一振りし積の首へ。

 回避に徹していた積であるが、躱しきれず頬に傷が刻まれ舌を巻く。

 他三人の敵対者に関しても他の黒服では発揮できないであろうほどの実力を披露しており、ヘルスや康太をも目を丸くした。


「ヘルス・アラモード」

「あぁ。一気に決めちまおう康太君!」


 がしかし、それだけである。

 この場にいるのは既に二回の大戦を最前線で戦い抜いた猛者であり、その中でも康太とヘルスは一際強い。

 ゆえに自身と対峙するものの実力に驚きはすれど微塵の焦りもなく、康太が撃ち出した銃弾による跳弾で四人全員の動きを一瞬だけ止めると、そのタイミングで動いたヘルスが神の雷で撃退。


「ッ!」

「おっと、やっぱ一人だけ桁違いに強かったか」


 それでも残る三人を纏める隊長格らしき傷跡だらけの男は崩れず、手にした刀を油断なく構え、蒼き雷を放ったヘルスへと一歩で詰める。


「だけど悪いな。俺には――――心強い味方がいるんでな!」

「『味方』って堂々と言われると、賛同する気が失せるな」

「ひどい!」


 だがその抵抗は意味を成さない。

 自由の身となった積と優、それに康太がヘルスの側に集まり、一対四の状況を形成したゆえに。


「頑張ってるところ悪いんだがな、運がなかったと諦めてくれや」

「………………若頭すいません!」


 その後はまさしく蹂躙劇と呼ぶにふさわしい状況で、四人の猛攻に耐え切れず傷だらけの男は大地に沈み、他三人と同様に意識を失う。

 こうして慌ただしかった撤退戦は今度こそ終わりを迎えるのだが、四人の頭には同じ疑問が浮かんだ。

 それは『なぜこの四人がここにいるのか』という問題だ。


「偶然ってわけじゃねぇよな?」

「ないな。抜け出せるチャンスならあったはずだ」


 積の秘策『激流兎』に呑まれた。

 ここまではいい。事実黒服サングラスの男たちの中には同じような者がいくらかいたのだ。

 だが抜けられるチャンスがあったのも事実である。

 いくらもみくちゃになっていたとはいえ藻掻いていれば抜け出せるし、そこまでしなくても偶然はじき出されたり最上部に持ち上げられることがあるのだ。そのチャンスを活かせばここまで延々と運ばれることはない。

 事実飲み込まれた大半の黒服たちはそうして脱出していたのだ。


 しかし彼らと対峙した四人の黒服は残った。普通に考えれば戦ったところで勝ち目がないとわかっているというのに。


「……周辺の探索をするぞ」


 そこに何らかの意味を感じた積が指示を出し、残る三人が賛同する意を示し行動を開始。

 ヘルスが作り出した光球により照らされた裏路地の隅から隅まで探索する気概で動き始めたが、そこまで時間をかけることなく『答え』は彼らの前に示された。


「積」

「あぁ。確かにこりゃ、そこらの黒服には任せられないだろうな」


 囲うように立ち見下ろす彼らのど真ん中にいる者。

 それは真っ白な髪の毛をオールバックにまとめ一目で高級品であると把握できる和服を着こんだ老人。

 意識を失い衰弱している彼の姿は少々やつれていたが、それでも積や残る三人は彼が誰であるかを理解できた。


 いや見間違うわけがなかった。


 なぜならば彼こそ此度の任務において最後に出会うべきであった人物。

 『マクダラスファミリー』という裏世界を纏める立場にある一大組織の長にして、此度の件の依頼主の一人。


 四肢をがっちりと縛られ意識を失った状態で、マクダラスファミリーの頭首であるナラスト=マクダラスは彼らの前に現れた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回の話は撤退後の小話。実はあと半分くらい重要な部分が残っているのですが、おそらくそちらを書くと一話にしては長すぎるので今回はここらでカット。

次回はその残り半分。すなわち最終決戦へ向けた情報整理回。

思わぬタイミングで捕まえる、というより合流したナラスト=マクダラス。彼の口から此度の戦いにおける最終目標が示されます。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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