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永夜の都市とマクダラスファミリー 一頁目


「よし行くぞ」

「マクダラスファミリーは圧倒的な武力と恐怖で広大な『裏世界』を支配している本家本元です。貴方がたは強い………………しかし十二分にお気をつけください」

「ええ。短い期間だったけど、ありがとうトリテレイアさん。すっごく楽しかった」


 三日目午前七時。

 午前中にマクダラスファミリー本部へ赴くことを想定し一行は動き出す。

 話し合いの席に着くのはギルド『ウォーグレン』の面々。すなわち積に優。康太にヘルスの四人で、才能育成都市に住む少女との別れを惜しむように優が握手をする。


「連中が何かを仕出かそうとしてるのは間違いない。既に何らかの対策をされてるだろうが真正面から突っ込んでいく」

「全部蹴散らすってことか。豪気だな」

「いや全部を相手する気はない。何らかの策が発動する暇もなく本拠地に突っ込んで、戦いになる前に話し合いのテーブルにつかせてやる」

「なんか仕出かそうとしてるのは確定なんだよな? そんな状態で話し合いなんてできるのか?」

「エルドラさんにルイさんがバックにいるんだ。その権力をチラつかせて押し黙らせるさ」


 その光景を見届けながら男性陣は数時間後の動きを想定した会話を繰り広げ、二人が握手を終えたのを見届けると恭しくお辞儀をして若者しかいない都市を去る。

 それから先は電光石火という言葉がふさわしい速度の移動だ。


 自動車やバイクが走るための道をそれ等が追い付けない速度で駆け抜け次のエリアへ。通路とエリアの境目に本来ならいるはずの黒服の姿がないが、既に想定していた事柄のためさして驚くことはなく、速度を緩めることなくさらに先へ。

 霧の都市や初日に訪れたエリアを瞬く間に超え、彼らは未開の地にまで足を運ぶ。


「ここは…………」

「気になるかもしれねぇが今回はスルーだ。蒼野じゃねぇんだ。できるだろ?」

「当然だな」

「俺は既に何度も来てるからなぁ。あ、気になるならこのエリアに関して話すこともできるがどうだ?」

「アタシは資料でもう確認してるからパス。それよりどんどん先に進みましょ」


 次に彼らが訪れた場所はこれまで訪れた場所とは一風変わった様相を示していた。

 端的に言えば都市としてのレベルが著しく上昇しており、地上における四大勢力の主要都市のレベルにまで上昇していた。

 これはこのエリアがマクダラスファミリー本部の側にあることが原因で、必然監視の目が多くなることにより、『裏世界』の中でも際立って特殊かつ高度な文明を築く才能育成都市に近い水準を備えていた。


 そんな場所を瞬く間に駆け抜け一行はさらに前へ。

 次のエリア、すなわちこの『裏世界』に中枢にあたる場所へとつながる巨大な通路の前にまでたどり着くと、要塞のように聳え立つ監視砦を見上げ、


「ホント。これから事を起こそうっていう様子を微塵も隠す気がないのね」

「い、一応聞いておくけどさ、援軍を呼ぶって提案はないんですかね積君?」

「なしだ。大所帯になればそれだけ移動に時間がかかるし、突然の事態に咄嗟に対応できる面々だって限られてる。相手方の警戒度も増すだろうしな。蒼野とゼオスがいないのは残念だが、この面々だけで突っ込む」


 物々しい見た目を前に一瞬速度を緩めた彼らは、けれどすぐに速度を戻す。

 本来ならいるはずの『裏世界』の最深部にあたる場所を守る衛兵。それさえもいなくなっていたのだ。


 それによって生まれた静寂な空気に不気味さすら彼らは覚えるが、胸に抱いた不穏な空気を振り払うように疾走。

 そこからさらに走り続けること数分。


「――――着いたな」

「久々に来たけど、ここは他と違って昔と変わらないな」

 

 一行はついに今回の任務の目的地。

 マクダラスファミリーが直接統治する『裏世界』最大のエリア。『永夜の世界』に足を踏み入れた。


「『裏世界』てのは言っちまえば洞窟の中なんだ。太陽が昇らないなんて普通のことだと思ったんだが」

「なるほどね。確かにここは他とは違うわ。うん。すごいと思う」


 彼らの前に広がるのは人造ではあるが無数の星々と冷たい輝きを放つ満月が夜天を制する夜の街で、地上はその輝きを跳ね返すうな繁華街のギラギラとした光で満たされていた。

 ただそれと比較すると落ち着いた光も点在しており、康太が見たところによると、そのような光を放つ建物は外周部分に集中しており、この場所に住む人らの住処が集まっているとのことであった。


「わざわざ騒がしい繁華街に飛び込む必要はねぇからな。外周部分を回って、奥にあるマクダラスファミリーの本拠地までいくぞ」


 ここまで近づけば一挙一動が何らかの手段で見張られているのは明らかで、それがわかっているゆえに彼らは速度ではなく隠密性を重視するような動きに変化。

 音一つ立てず、ヘルスの雷属性を用いた電子機器の操作なども用い、誰にも気づかれることなく人々の日々の生活が伺える外周部分を進み続け、繁華街の向こう側へ。


「ここがマクダラスファミリーの本拠地か」

「流石にここに控えてる黒服までは下がらせてないのね」


 夜空を模した天井に届くのではと思わせる外界と中を隔てる灰色の壁を、ドラッグストアとりカーショップのあいだの明かりの当たらない空間で見つめ、積が懐からいくつかの羊皮紙を取り出し、


「少し待ってろ。話を通してくる」


 残る三人をその場に待機させるよう指示を出し、二人の黒服が銃をしっかりと掴んでいる正面ゲートへ向かい前進。


「康太」

「安心しろ。何かありゃすぐに引き金を引く。この距離なら万が一にも外しやしねぇよ」


 その様子を優と康太の二人が見守り、周囲に不審な影はいないのかをヘルスが観察。


「なぁあれって」

「だよな?」

「………………?」


 周りに殺意や敵意を抱いた者は見当たらず、しかし気になる反応を示した者を彼は見つけた。


「ちょっと気になる連中を見つけたんだけどさ、話を聞いてみてもいいのか?」

「俺の異能があるから別にいいっスけど、手短に頼みます。積の奴が許可を出したら全員で突入っス」

「わかってるよ。危険がないかの確認をするだけさ」


 すぐに康太と優に許可をとり繁華街の光を背景に何やら話し込んでいる二人組へと向かっていくヘルス。


「すいません。どうかしたんですか?」

「ん、ああ………………いえ。知り合いに似てる奴が来てるなと思って」

「けどあり得ないよなって話してたんっすよ。家族や兄弟を含めここに来るような奴じゃなかったし」

「似てるやつ?」


 人懐っこい笑みを浮かべながら近づいていけば、相手は春先にふさわしいラフな格好をしている康太や蒼野と同年代の青年二人組で、


「はい。俺達、子供の頃はヒロキって都市に住んでたんです。結構大きかったんですよ」

「親がめちゃくちゃやったせいで、こんな地の底にお引越しなんですけどね」

「!!!!?」


 突如自らに襲い掛かった拭いきれない罪科を前に、彼は心臓を跳ねさせ息を呑んだ。


「その、似ている奴ってのは………………?」


 続く言葉はあまりに緩慢で、聞いている二人の青年は不審感から表情を変える。

 とはいえその場から立ち去ったり突然攻撃を仕掛けてくるようなことはなく顔を合わせ、


「昔一緒に遊んでた幼馴染なんですけど、積っていうんですよ。なんでこんな場所にいるのかなぁ、なんて思っちゃってまして」

「そ、それは………………」


 何の気なしに呼ばれた名前を聞き、罪悪感もあり、多少とはいえ真相を話すべきか迷い言葉を詰まらせる。


「でも違うだろうな、なんて言ってたんですよ」

「だってあまりにも様子が違いますから。俺たちの知っているあいつはあんなに堂々としてなかったから」

「………………」


 続く話を前にしても言葉を紡ぐことはできなかったヘルスであったが、


「もっと泣き虫だったよなアイツ」

「そうそう」

「………………え? 泣き虫?」


 最後にサラリと発せられた内容を聞き、彼は無意識に言葉を滑らせた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です


此度の物語の終着点。マクダラスファミリーの本拠地へとついに突入です!

既に話に出た通りここから物語は大きく動いていくのですが、次回は少し寄り道を。


素直に告白してしまうと、本来ここに来る前に挟むはずであった話を忘れていまして、次回でその部分を回収していきます。

テーマは察しがいい方であれば気づいているかもしれませんが積に関してです


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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