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『裏世界』解剖録 四頁目


「…………ガマバトラ殿はどうだ?」

「これ以上武器を『裏世界』の奴らに渡すのはやめてくれるってさ。あと、あのロボットに使われてた無数の能力については、俺が前目にした虹色の球体。あれに詰まってたデータを基にした部分が大きいって」

「…………そうか。記憶の方はどうだ?」


 惑星『ウルアーデ』に存在するどの大陸からも離れた位置に点在する孤島『ナーザイム』。

 蒼野とゼオスの二人はこの場所で三日という時を過ごし、その結果誰一人犠牲者を出すことなく、物語を終わらせることができた。


「悪いがそのあたりまでは知らねぇな。俺が関わってたの武器やら防具の製作だけだ!」

「もう少しなんかないんですかね?」

「ないな。俺らからすりゃ減っていく食い扶持を増やすための手段だったわけだからな。奴らも必要以上にこっちに関わって来ることはなかった! だがそうだな…………思い出したぞ。俺たちはあの球体を術技やら能力の基くらいにしか考えてなかったが、どうやら奴らは違うらしい!」

「どういうことですか?」

「あの球体を体に入れると、球体の中に入ってた術技や能力が使えるようになるんだよ! 連中はそれで、単純な戦力の強化を狙ってたらしい!!」


 そう、三日である。

 それだけのあいだ彼らは提示連絡こそ取っていたが外界から切り離された環境に身を置き、外の情報を十全に得ることはなかった。

 無論、分かれたもうワンサイドに関しても、事細かな情報を持っているわけでもない。


「他にも色々聞きたいことがあるんですけど、まずは仲間に連絡しますね。あ、一応お伝えしておきますと、できるだけ罪は軽くしてもらうように打診しておきます。自首してくれたのなら、それくらいは取り計らうべきだと思うので」

「…………迷惑をかけてすまねぇな」


 これから語られるのは蒼野とゼオスが知らない空白の三日間。

 事態を一層深刻な状況へと進めるに至る道筋である。


「あれ、かからないな。いやそれより…………なんだこれ、いろんなところから連絡が………………」




「できるだけ急いで来たつもりだったが待たせたか?」

「そんなことはねぇよ。とりあえず歓迎するぜ康太」


 三日前の午前十時ごろ、蒼野がゼオスと合流したのと同じく康太が、蒼野が能力で戻したことで使えるようになった家屋の玄関前で待機していた積と優の二人と合流。がしかし、康太はこの時点で「意外なものを見た」とでも言いたげな顔をした。


「そこにいる奴らは話にあった襲撃者か?」

「ああ………………そうだ。おめぇらに紹介しとくとこいつは古賀康太。ゼオスと並ぶうちの双璧で、中距離以上なら抜群に強い。あと『危険察知』に関する異能を持っててな。端的に言っちまうと、生きた危険探知機みたいな役割もしてる」

「前半だけなら喜べたんだが後半が微妙だな。まぁそういうことだよろしくな。それと、異能『危険察知』に関してだが、コイツがいると誤作動を起こしやすい」

「アタシ?」

「そうだよ。前に言わなかったか? お前がいると延々と危険察知が反応して面倒なんだよ」

「…………へぇ。言うじゃない」


 積が自己紹介を行うと康太がそのように優を評し、それを受けた優が不快感を露わに。

 玄関前にある石段から立ち上がると、好戦的な笑みを浮かべ康太に近づく。


「あ、あの」

「やべぇんじゃねぇのかこれ。あんたの仲間、喧嘩しそうな雰囲気だぞ!?」

「あれくらいなら気にする必要はねぇよ。むしろ最近はかなりマシだ。昔はことあるごとに取っ組み合いをしてたからな」


 その姿を目にして昨夜積達と戦いを繰り広げた同年代の者らは危機感を覚えるが、口にした通りこれは、ギルド『ウォーグレン』では常日頃と変わらぬ光景だ。

 むしろリラックスした状態とも取れるため、積はこれを良しとする。


「そろそろいいか? 二人とも言いたいことやら殴りたい気持ちはあるかもしれんが、そのストレスはこれからやって来るであろう障害で晴らせ。だからまずは説明するぞ」


 とはいえ放っておけば時間と体力の無駄なのは変わらぬ事実で、二人に近づいた積が両手を何度も合わせ軽快な音を発し、すると二人の首から上はそちらへ。

 亡くなった師にして上司と同じ眼差しが自分らをしっかりと見てることを認識すると一歩二歩と相手から離れていき、相手へと向けていた矛を収める。


「猛獣使いみたいだ…………」

(…………否定)

(できないわよね。これに関しては)


 積のあまりに慣れた様子に見ていた者達の中にはそう口にする者さえいたが二人は顔を背け沈黙。


「まず最初に言っておくと、マクダラスファミリーの本家には二日後に行く。今日は情報収集を中心に色々と動いていく」

「情報収集つったって何の?」

「当然虹色に輝くあの球体に関してだ。今回の件の裏に潜んでるのがバークバクで、マクダラスファミリーとつながってるんだろ。で、その事実を俺たちが知ったと。なら次の奴らの手はなんだ?」

「アンタはその一手が『邪魔になったアタシらを潰すこと』だと言いたいわけね」


 説明を始めると思考の大半をそちらに傾け、優の答えを積は肯定。


「そうだ。だがそれだけだと受動的すぎるからな。こっちからも動いて賞金首の類を見つけた場合捕獲し、持ってる情報を吐かせることもやっていく。そうすりゃ欲しい情報が手に入る可能性は幾分か増すだろうし、危険な奴を地上にあげないっつー目的も済ませられるからな」


 一度の行動で三つの得を得られることを持ち上げた三本の指で示す積。

 続いて積はこの町の自分らと変わらぬ年齢の人々が犯罪者の取り締まりから離れた分野。単純な最近の事故やニュースなどに関する情報を集めてくれることを説明。

 なぜそのようなことをしてくれるのか気になった康太が尋ねると、彼らは『昨夜のお詫びをしたい』と告げた。


「少人数行動の最大のメリットはフットワークの軽さだ。何かわかったら俺に連絡。その上で次の指示を出す。できる事ならマクダラスファミリーに訪れる前に『死神』を含めた『裏世界』の厄介な猛者の大半をとっつ構えるぞ」


 こうして彼らは再び手を合わせ軽快な音を発した積の物言いを聞くと直後に解散。

 各々の役割を果たすため、エリアの壁さえ超えて動き始めるが、積のこの作戦は空振りに終わることになる。


 朝昼だけではない。夜も交代で動いたにもかかわらず彼らは有力な情報を一つも得られなかった。

 いやそれどころではない。

 その日は犯罪者の一人さえ見付けることができず、各々のエリアで看守の役割をしていたはずの黒服サングラスでさえ姿を消していた。







 


 







ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さぁ始まりました『裏世界』編。今回の話、最終日以外は目立ったイベント一つあるだけなので、一気に進めていきます。

次回は早くも訪れた二日目。彼らに待っているものとは?


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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