ウェポンフェスティバル 三頁目
『シュバルツさん。一応釘を指しておきますけど、開始早々圧勝なんてことはやめてくださいね』
『おいおい私はガーディアじゃないんだ。流石にそのくらいのことは理解してるさ』
此度の祭りにおいて一般人に紛れ参加するシュバルツは、自身に一つだけ制約をかけていた。
それが鍛冶師たちが繰り出す兵器の数々を先手を取って破壊しないことである。
どれほど熾烈な攻撃を繰り出されようと、祭りの延長線上ということを忘れてはならない。
これが蒼野とゼオス、それにシュバルツの認識で、ガマバトラ達鍛冶師もそのつもりで参加していた。
逆に言えば制約はその程度で、その上でシュバルツはこの祭りを『楽しむ』気概でいたのだ。
(………………………………今のは)
その程度の心構えであったため、見たこともない摩訶不思議な現象に遭遇するなど、思ってもいなかったのだ。
(なんだ?)
手にしていた水属性を超圧縮した剣。それが瞬く間に消え去った。
それ自体は驚くべきことではない。
この世界に存在する数多の術技や能力であれば、そのくらいのことは当然のように行えるのだから。
しかし今しがた抱いた感触は、これまで一度も味わったことのない不思議な感覚で、知的欲求がシュバルツの意識を傾ける。
「さぁて、千年前のリベンジをさせてもらうぜ怪物野郎!」
「流石に待ってはくれないよな!」
シュバルツとしてはこの現象の正体を突き止めたいところであったが、ガマバトラがそれを待つ理由はない。
コックピットの中で黒革張りのレバーを複雑怪奇に動かすと、機械の兵は指示に従い動き始める。
「例えるなら…………前後左右に同時にたった一歩で移動している感覚、本来なら一つしかできないはずの事柄を三つ四つ重ねてる印象だなこれは」
その動きにもなんとも言えない奇妙な感覚を覚えそう評するが、さらなる解明を行うよりも早く状況はさらに動く。
ガマバトラの搭乗しているロボット以外のおよそ十体が、左右に分かれたのだ。
「囲むつもりか?」
普段ならば阻止するはずの動きを祭りの場ということで見逃し、するとそのロボットらは観客として戦いを眺めていた鍛冶師たちが持っている様々な武器を強奪。
「…………無人機だな。そういう感触だ」
一切の躊躇なく繰り出される遠距離攻撃の数々。
そこには不自然なほど隙間がなく、発せられる空気に熱はない。
ゆえにそう断じたシュバルツは迫る攻撃全てを新たに作り上げた水のロングソードで切り崩し、
「そこだ!」
「おっと。またか」
かと思えばガマバトラが、味方の攻撃全てを数多の六角形が重ねて作り上げた障壁で防ぎながら距離を詰め、再びシュバルツの持つ剣を解した。
「………………ああなるほど。違和感の正体は術技やら能力の重ね掛けか」
「ちっ、気づいたか」
「そりゃまあ、目の前で何度も披露されればな」
するとここで、先ほどまで抱いていた違和感、その正体にシュバルツが気が付いた。
「どれほどの積んでいるんだ?」
「二千、ってところかな。苦労したんだぜ。ここまで集めて学習させるのはな」
「だろうな!」
ガマバトラが心血を注いで作り上げた最新鋭の操縦型のロボット。
その最も特異な点はメモリーに内蔵し再現可能となった術技や能力の数だ。
「お前さんは間違いなく最強クラスの『超越者』だろうよ! 一つ一つのスキルも磨き抜かれてる! それはきっと、ロボットじゃ真似できない物だろうさ!」
「………………」
「だから俺は、それを補えるだけの数を揃えた! その成果がこいつだ!」
この発想は彼がアルと行った共同制作、蒼野達が腕に装着している籠手を作成している際に閃いたもので、二メートルを超える巨体の心臓部分には籠手の中にあるものとは比べ物にならない大きさのメモリーが張り付けられている。
そこに二千を超える術技や能力のデータは内蔵されており、使い手の指示はもちろん様々な設定を施すことで、それらを自由自在に扱うことができるのだ。
それだけでもこれまで存在した様々な兵器を凌駕する性能であるが、その真価は積み込んだ能力を一度に複数同時に発動できる点で、シュバルツが抱いた違和感の正体もそこにある。
要するに彼は初めて出会ったのだ。
手にしたロングソードを破壊するために、移動のために、はたまた守りを固めるために、毎回二十を超える力を行使しては重ね、その効果を倍増させるという経験に。
「そこまで能力を使い続ければ燃費だって馬鹿にならないだろうに。無茶苦茶な設計だな」
「燃費に関しては気にする必要はねぇな。既に対策済みだ」
「無数の戦士から力を奪い取ったのも、そのためだな」
「…………えらく現世の事情に詳しいじゃねぇか。まさかお前は」
攻撃の手を止め、向き合いながら会話を行う両者。
その時発せられた言葉を聞きガマバトラの声は震え、
「…………今気にすることではねぇな。重要なのはお前さんを今! 俺の手で! ここまで追い詰めたってことだ! さすがのお前さんでも、この数の能力やら術技の重ね掛けは厄介なはずだ。だから抜きな! 神器を!!」
しかしすぐに頬を両手で叩くと気を取り直し、数多の力を宿した右腕を掲げながらそう宣言。
「いやそうでもない」
「え?」
けれどもその腕が効果を発揮することはなかった。
音を超え、光さえ引き離す、人類史上最強の男を討つべく鍛え上げた彼は、ガマバトラの積みあげた努力を易々と凌駕する。
ガマバトラが瞬きを一度だけしたところで搭乗していた機体の四肢は粉々に砕かれ、周囲に散開していた無人機も両断。
彼が築き上げた全てが今この瞬間、あまりにも呆気ない終わりを迎え、
「気になっていたからすぐには仕留めなかったが十分な情報が手に入ったからな。祭りの締めにもちょうどいい時間だし、ここらで終いとしようじゃないか」
「最初から…………最初からできたってことかよ。お前さんは、俺を嘲笑うのか」
「ん?」
「いくら力を積もうと…………猿真似に意味なんてないと!!!!」
「いやそんな気は全くないぞ。方向性はともかく、やってることはすごいと」
「俺の努力は――――――無駄だってのか!!!!!!」
気楽に言いきるシュバルツに対し地面にうずくまっているガマバトラの声は震えている。
そこに込められてる感情は怒りや悲しみに留まらず、
「…………そうだな。一つだけ私から言えるとするなら」
「た、大変だ。今の一撃のせいで一発漏れ出やがった!?」
シュバルツはそんな彼の前で膝を折ると優しく語り掛ける。
かと思えば一発の巨大な弾頭が空へと打ちあがり、青年の悲鳴が会場全体へ。
観客たちがアクシデントに悲鳴を上げ、蒼野とゼオスが落下してくるより早く目標に辿り着き、周囲へ被害を出さず全て終わらそうと考え視線を頭上に移し、
「うん。ちょうどいいな。蒼野君! ゼオス君! 君たちは待っていろ。いい機会だから、以前話してた奴を見せるよ!」
けれどそのまま動き出すより早く、シュバルツが制止。
「顔を上げて見ていてくれ」
「…………何をする気だ?」
「君が知らない可能性。私から送る道標さ」
続けて四肢を地面に張り付け項垂れるガマバトラに語りかけると、神器に似せた水の大剣を作成するとしっかり掴み、空の果てへと昇っていく巨大な弾頭を睨み、雲一つない青天の空を思わせる晴れやかな声で言い切った。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
ガマバトラの作り上げた秘密兵器の真価発揮! そして崩壊まで描かれた一話です。
なお、冒頭でガーディアはサラリとディスられる模様。
次回で『ナーザイム』編の主題はおそらく終了。シュバルツが彼に伝えたいこととは?
蒼野とゼオスに披露したいものとは?
それではまた次回、ぜひご覧ください!




