ウェポンフェスティバル 二頁目
蒼野やゼオスがいる会場一帯に嵐が吹き荒れる。邪魔な遮蔽物など一つとして存在しない戦場を埋めように。
その勢いはすさまじく、耳を支配する轟音と、並みの者ならば一歩前に進むことさえ全身全霊を捧げなければならないだろう風が絶え間なく襲い掛かる。
「わかっちゃいたけど、やっぱり規格外だなシュバルツさんは」
「……今更だな」
この会場を包む嵐は、一般的なものと比較した際、無視できない違いが一つあった。
降り注いでいる物体が水や風ではなく、敵対する者を仕留めるため開発された強力無比な兵器なのだ。
あるものは着弾地点を中心に核融合の柱が立ち昇り、あるものは吸えば即死の毒ガスが込められていた。またある者は貫通力に特化しており、武器や盾鎧を食い破り、その先にある肉体を抉る手筈であった。
そのように殺意に塗れていない物ももちろんあったが、その場合は発動した瞬間相手を捕獲する機構が備わっていたり、相手の抵抗力をあの手この手で奪う仕掛けが施されていた。
他にも威力だけではなく数を頼みの綱としている兵器も存在しており、それら全てが爆心地の中心へと向け注がれる光景は、見る者達が発する言葉を自然と減らす。
「す、すげぇ」
「嘘みたい。こんな光景が生で拝めるなんて………………」
しかし彼らが息を呑むことになった最大の理由は、それ等が織りなす爆発と轟音によるものではない。
たった一人で、しかも徒手空拳で降り注ぐ全てを退ける破格の強者。『最後の壁』シュバルツ・シャークスの並外れた強さに対してである。
「どうしたどうした。弾幕が薄くなってるぞ! その程度で私を倒せると思っているのか!」
「く、クソ! どうなってるんだこいつは!?」
「同じ人間とは思えねぇ~~!?」
それは観客からすれば夢のような、立ち向かう鍛冶師からすれば悪夢のような光景であった。
現代における錬鉄技術に科学分野、他にも様々な武器作成関連技術が集ったのがこの鍛冶師の島『ナーザイム』であり、必然作られる武器は、最高品質の一品ものばかりである。
その全てがただの拳で全て制圧されている。
あるものは真正面から殴り飛ばされ、あるものは空の彼方に消えていった。またある者は地面に叩きつけら原型を失っている。
「す、凄まじい衝撃です! 司会席から見える光景は常に歪んでおります! まるで世界の終わりが目の前で起きているかのような力の奔流が伝わってきます!!」
そうではない物ももちろんあったが、それ等は全てシュバルツの行う足踏みと拳が生み出す衝撃により明後日の方角へと吹き飛び、結果的に彼の体には一撃たりとも当たりはしなかった。
「攻撃止め! これ以上は無駄なことくらい、おめぇらだってわかってんだろ!!」
観客たちの目を惹き息を呑む『超越者』最高位の暴力が一分ほど続き、ガマバトラの厳つい声が会場に木霊する。
「これ以上同じことを続けたって、意味なんかねぇってな!」
「が、ガマバトラさん!」
「けど俺達悔やしいです!」
「お、なんだなんだ。楽しかったが終わりか?」
続くガマバトラの発言に対し、鍛冶師たちは泣き言を吐き、シュバルツは少々落胆の色を感じられるも充足感も感じられる声を。
「だから――――今度は接近戦だ! 若い衆は前に出ろ! 傷一つでもつけれるもんなら、末代まで称えられる栄誉だ!!」
返答は、荒々しい獣の笑みと共に。
それを聞くと若々しい見た目の青年と、ドワーフの年齢換算では『幼い』という言葉が当てはまる小さく、けれど筋骨隆々の老人の身なりをした者達が次々と前に立ち、それぞれの手に、一癖も二癖もあることを想像させる得物を持つ。
「いいな。とてもいい。君たちのその気迫に敬意を称し、こちらももう少し本気で戦おう」
対するシュバルツの返答は掌からひり出した水が示していた。
それらは油断なく身構える挑戦者の前で地面に落ちることもなく虚空に浮かび、美しい円を描いたかと思えば二本の水色のロングソードを形成し担い手である彼の両手に。
続いて敵意など微塵も存在しない穏やかな表情を浮かべ身構えると、その姿を契機として声にならない獣のような咆哮をあげながら、百人を超える若者たちが駆け出した。
「祭りのプログラムに参加するなんていつぶりだろうな。こういう楽しさは終ぞ忘れてたよ」
ガマバトラが口にした、士気の上昇を促す発破がけ。その効果は確かなもので、彼に挑む者達の気迫は戦場でも中々目にかかることができない域に達していた。
がしかし悲しきかな。彼らは戦士ではなく鍛冶師なのだ。
「心地いい闘気だ。胸躍るよ!」
中には戦士として従事しているものもいたが、相手がシュバルツとなれば並大抵のものでは相手になるわけもなく、刃の部分をチェーンソーのように高速回転させ切れ味が増した刃も、腕が千切れる勢いのジェット噴射を行い一撃に全てを捧げた巨大な鉄槌も、最先端技術を盛りに盛り、変形機構を基本としたさまざまな仕掛けを施した三節棍も、全てその効果を披露した上で真正面から叩き切られた。
「さあ、次はどうする?」
そんな時間がおよそ五分。第五波が終わり千人近くが手にしていた武器だけを失ったところで、彼らは熱に浮かれた頭が冷めていき、理解させられてしまう。
「相手が数々の伝説を刻んだ怪物だってのはわかるよ。けどよぉ………………」
「持ってるのって、神器じゃないよな? ただ水を圧縮して固めただけの剣なんだよな?」
「ここまで差があるものなのかよぉ…………!」
『超越者』という人類が至る最高位。
その中でもさらに上澄みたる存在を前にすれば、自分たちの作った武器など塵芥に過ぎないのだと。
この場は戦場ではない。
ゆえに死傷者はもちろん怪我人の一人さえ出ていない平和な空間である。
だが祭りの一環であり観客たちがかつてないほどの興奮を見せているにせよ、自分たちが積み上げてきた研鑽の日々全てが、蝋燭の火を消すかのように易々と否定されているのは紛れもない事実で、鍛冶師たちの心に癒えぬ傷が刻まれ、
「おめぇらどけ」
「が、ガマバトラさん?」
「データは十分手に入れた。あとは俺と仲間達であいつを何とかしてやる」
彼らが負った無念を振り払うべく、『ナーザイム』に住む鍛冶師たちの憧れが前に出るのだが、その姿は常日頃のものでは非ず。
貴族衆や今は墜落した独立国家バク王国が中心となって開発していた、コックピットに乗り込み操縦するタイプのロボット。
それらを縮小させ、シュバルツに並ぶ程度にまで縮めたそれに体を埋めた彼は、自身が作り出した品々を両手や肩に装着し、周囲に同じような形のロボットを複数台侍らせ、
「行くぞ。怪物退治だ!」
この場を取り仕切るまとめ役としてではない。追い続けていた目標に挑む戦士としての意志を発し、手元にあるレバーを操作。
「なに………………?」
直後、シュバルツは驚愕から目を見開く。
鍛冶師の長ガマバトラ。彼を乗せた二足歩行の人型ロボットは、実に奇妙なことを仕出かしたのだ。
ジェット噴射を行ったわけでもなければ二本の足を用いて高速移動したわけではなく、瞬間移動をしたわけでもない。
摩訶不思議、原理を説明できない方法で一瞬で距離を詰めたかと思えば前動作なしに蹴りを撃ち込み、しかし見事に反応したシュバルツは片方のロングソードで防御。
直後、あらゆる武器を易々と斬り裂いたそれは解れて消えた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
さくしゃの宮田幸司です。
遅くなってしまいましたが少々久方ぶりの更新、シュバ公大暴れの巻です。
今回の話では結構淡々と書かれていましたが、同じことを蒼野やゼオスがしようとした場合、もっといろいろと策をめぐらせる必要があります。
能力の使用やら動き方に関してですね。
そういう意味では、まだまだシュバルツは雲の上の存在です。
次回はそんなシュバルツVSガマバトラ。
皆様のお眼鏡にかなうものをお出しできればと思います
それではまた次回、ぜひご覧ください!!




