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鍛冶師の島の冒険 三頁目


 夜が更け、誰もいない自室でコタツにもぐり息を吐く者がいた。

 一般成人男性と比べると頭一つ分以上小さな身長と、一般成人男性と比べると遥かに発達した、それこそ木の幹のような両腕を持っているその人物は、鼻から下を真っ白な髭で覆い隠し、煤だらけになったバンダナから除く瞳は鷹のような鋭さを秘めている。


「さぁて、俺たちの力を見せつけてやろうじゃねぇか」


 持っていた湯呑を置き立ち上がった彼は、部屋の隅に張っておいたポスターを眺めながらそう告げ、自身の頭をタコだらけの掌を固めて作った握りこぶしでゴンゴンと叩く。

 その時顔に張り付いていたのは好戦的な者が浮かべる類の笑みであり、彼の性質をまざまざと示していた。


「こんな時間に誰だ?」


 来客を告げるチャイムが届いたのはそのタイミングで、春先ゆえにまだ仕舞っていなかったコタツから体を出した彼は、不審に思いながらも玄関まで歩き、ドアノブを捻り扉を開き、向かい側に立つ人物をその目に収め、


「ここで出てくれなくちゃ全部台無しだったから、本当によかった!」

「おめぇは…………」


 何か告げるよりも早く、彼のもとに訪れた古賀蒼野は心底安心した様子でそう告げた。

 その表情に加え発する声の調子は心の底からこの出会いを喜んでいるようで、敵対関係にあるこの家の家主。すなわち世界中で数十万人確認されているドワーフ達の長ガマバトラは、困惑と敵意の混ざった声で彼を見つめた。




 聞き込みをしばらく続けたところで、蒼野は強い違和感を覚えた。それはこの町の住民の自分らに対する態度である。

 大前提として蒼野はガマバトラの発言を信じていた。

 電話越しとはいえ堂々と言い放った以上、この町に住む鍛冶師の大半は自分達と敵対することになると覚悟しており、聞き込みをするだけで刃を交えることになると覚悟していたのだ。

 しかしどれだけ調査しようとも自分らに対し敵対心を持つ者は現れず、その結果を彼は不審に思った。

 だから考え方を変えた。

 「もしかしたら、言葉通りの『敵対』ではないのかもしれない」と。


『…………根拠はあるのか?』

『俺達が出会った鍛冶師の態度が一番大きいかな。全力で迎え撃つってことはさ、言い方を変えれば『逃がす気はない』ってことだろ。それならその意志を通すために情報伝達は迅速にするはずなんだ。なのに誰も敵意を抱いた様子をみせちゃいない。だから単純に真正面からぶつかる『戦争』じゃないと思ったんだ………………それに』

『…………それに?』

『力を見せつけ、追い払う。それを成し得るだけなら、他にも手段はあると俺は思った、こういう風に』


 その後、蒼野がゼオスの前に差し出したのは『『ナーザイム』ウェポンフェスティバル』と名付けられたお祭りに関して書かれたチラシで、この場所に住む多くの職人たちが、観光客を満足させるため、武器商人や戦士たちを魅了するために、選りすぐりの逸品を披露すると書かれていた。


『…………ここに俺達を呼ぶと?』

『そう俺は予想してる』

『…………出なければいいだけの話では?』

『確かにな。けど考えてみろよ。鍛冶師の島の代表直々の指名を受けて断るとする。その上で『貴方と『裏世界の関係を断つために居座らせてください』なんて、都合がよすぎると思わないか?』


 続けて蒼野が言った先を考えれば、辿り着く結末にゼオスは息を吐く。


『…………その場合でも職人たちに追われるということか? ならばどうする? 相手の策を見抜いたとして、対応がなければ待つだけだぞ?』


 本音を言えばゼオスは蒼野の考えが完璧なものだとは思っていない。しかし可能性がゼロでないと言える以上この状況を阻止するための策を練る必要がある、なので尋ねてみると、


『俺に一つ考えがある。ただ情報が足りなくってさ。予定通りならチラシの祭りは明後日だ。だから明日はこの案の補強に時間を費やしてほしい』

『…………それはお前の言う案次第だろう』

『わかった。俺が考えた案っていうのはだな――――――』


 寝床に腰掛けた蒼野は『これこそが最善の案である』とでも言いたげな様子で自身の策を披露。

 しかし次の日の朝になると、ゼオスが情報収集に出る前には、不安から胸を抑えていた。




 時刻は現在に戻る。

 対峙する蒼野とゼオス、そしてガマバトラ。彼らの前に漂う空気は剣呑で、一触即発という言葉がふさわしい状況であった。それこそボタンのかけ間違えをするような些細なきっかけで、爆発することが目に見えていた。


 その状況が一秒二秒と保たれていたのは、二人を厄介な脅威と認識し無闇に手を出さなかったという理性的な理由や自宅を壊したくなかったという私的な理由。

 それに蒼野のあまりにも毒気のない笑みを前に、なんの警告もなく手出しすることを躊躇ったなど、ガマバトラ側の理由は様々だ。


「夜分に失礼いたしますガマバトラさん。実は折り入ってご相談が」

「『裏世界』から手を引けって内容ならお断りだ」

 

 対する蒼野とゼオスが手出しをしない理由は交渉をするために他ならないのだが、遠慮がちに話し始めた蒼野に対するガマバトラの態度は頑なだ。それこそ事前に集めた情報の通りに。


「……それは既に聞いた。俺達がしたい相談はこのチラシの件だ」

「………………そのチラシがどうしたってんだよ」


 ただ先ほどまで自分が見ていたチラシ、誰にも話していない二人を撃退するための策を堂々と差し出さられればガマバトラとて言葉に詰まり、その隙を見逃さなかった蒼野が言葉を挟んだ。


「そもそもの話、いきなりこっちの提案を呑んでくれって言うのも失礼かと思いまして。なのでまず友好関係になろうかと」

「友好関係だとぉ? おめぇら気は確かか?」


 その内容を前に耳を疑った様子を示すガマバトラ。


「はい。それでですね、詳細としてこちらから――――――」

「!!?」


 しかし彼は蒼野が行った提案を聞くと顔色を変え、善し悪しを問われると、


「………………………………いいだろう。できるもんならやってみろってんだ!!」


 益不利益で判断するならば不利益しか存在しない提案を受けてしまった。




 そして一夜が過ぎウェポンフェスティバルは幕を開ける。

 街の中心地。催事に利用することも想定して作られた町一つが収まるほど巨大な広場では、鍛冶師が腕を尽くして作り上げた逸品が披露され、戦いとは無縁の人々を沸かせ、商人や戦士たちを唸らせた。


「それでは本日の最終プログラム! 皆様が気になっていらっしゃるであろう威力コンテストを始めたいと思います!」


 祭りは盛況な空気を保ったまま最終プログラムに入り、待ちわびた舞台を前に歓声が上がる。

 しかし直後に困惑の声に代わる。


 舞台に立つ存在。それは蒼野でもゼオスでもない。それどころか戦士の出で立ちでもない。

 真っ黒な袴を履き白装束に身を包み、烏帽子を被った端正な顔つきの青年。

 そしてその真正面に座るのは、中肉中背のなんの特徴もない青年で、武器の威力を試すにはあまりにも心もとなかったのだ。


「これより、死者憑依の義を行います」


 指定の位置に二人の人物がついたのを確認し、司会の女性が厳かな声色でそう宣言。


「この日この地に、しばしのあいだ蘇り、数多の武器の力を受けるもの。それは――――先の戦争で最後まで抵抗した『最後の壁』シュバルツ・シャークスです!」


 続けて呼ばれた名を聞き、観客たちは騒然とした。


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


大変申し訳ありません!

昨夜少々調子を崩してしまい、この時間の投稿となりました。次回は明日投稿するのでよろしくお願いいたします。


本編の方は次回から終盤戦。久方ぶりのシュバルツ大暴れ回です。

三章の空気の理不尽な空気を少しでも思い出してくれればと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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