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蒼野とゼオスと鍛冶師の島 四頁目


「突然失礼します。ギルド『ウォーグレン』に所属している古賀蒼野と申します。ガマバトラさんですよね。実は一つ尋ねたいことがあってご連絡させていただいたのですが……」


 十分な照明に包まれた様々な実験器具が置かれたアルの私室。

 その奥で差し出された端末を受け取った蒼野は、事前にアルから聞いた情報もあり、恐る恐るといった手つきで端末の向こう側にいる人物に話しかける。


「おうガマバトラだ! ギルド『ウォーグレン』って言うと…………おう! おうおう! ボンボンと一緒に籠手を作った時に渡す相手だったな。どうしたいきなり! あいつらが頼りないから電話してきたのか!?」


 できるだけ刺激しないよう落ち着いた声で話しかける彼に返されたのは、力強さに勇敢さ。それにまっすぐな性根を嫌が応にも感じさせる老人の声で、強い勢いに押された蒼野の腕は、反射的に受話器を耳元から離していた。


「あ、いえ。そうではなくてですね一つ聞きたいことが」

「聞きたいこと! そりゃなんだ!!」


 つい先ほどと全く同じ質問を口にする蒼野が思い浮かべたのは、自分らと同年代の、長身に眼鏡をかけた暑苦しい青年の姿で、そこからさらに『押しの強さだけならばこちらの方が上か』などと考えたりしており、


「えっとですね、この『ナーザイム』では神器を作る理由として、なんらかの目標があるってことだったんですけど、それって一体なんなんですかね!?」


 しかしすぐにそんなことを考えている暇はないと考えた蒼野は、気を取り直し受話器越しの声を上回る勢いで質問。


「…………そうか。お前さんが報告にあった、俺達を追ってる連中って奴らか」


 直後に返された鋭く磨かれた刃物のように殺意と敵意に染まった声を前に蒼野は身震いした。

 それは発せられた声の質だけが問題なのではない。今したが発せられた声には一切の迷いがない、確信の色が含まれていたのだ。


「な、なんで…………」

「勘だよ勘。正直賭けだったんだが、その反応を見るに正しかったみたいだな」


 戸惑いに染まった声に対する返答は頭を抱えたくなる内容であったが、蒼野は一度そんな自分の感情を切り離し、ガマバトラというドワーフに対する認識を更新。


(ルイさんとかの理屈型じゃないな。エルドラさんとか壊鬼さんタイプ。直観重視型だ)


 端的に言ってしまえばこのガマバトラという男は、なんの根拠もない直感に己の全てを賭けられる相手なのだ。そして声の強さや立場からして、その確度はかなり正確であることも把握できる。


「ま、それはそうと答えておくか。俺達が神器の作成を目指す理由はな、言っちまえば過去の雪辱を晴らすためだよ」

「……………………え?」


 『これは強敵である』と会うまでもなく理解した蒼野は凄まじい速度で頭を回転させ、必要な情報を手に入れるための策を張り巡らせるのだが、直後にそんな彼の思惑をど真ん中から打ち砕くような言葉が、受話器越しからは聞こえてきた。

 ガマバトラは今、間違いなく蒼野を敵対者と理解した。その上で彼は蒼野の質問に対する答えを寄越したのだ。


「な、なんで?」

「なんでとはおかしなことを聞くじゃねぇか。お前さんが聞いたから答えたってだけだ。なんだったら頭下げられる立場とさえ思ってるぞ俺は」

「いや、その…………それは正しいかもしれないんですけど」


 思わぬ展開が続き素直な戸惑いが口から零れる蒼野は、


「それに、別にどっちだって変わらねぇからな。お前さんらは俺の敵だろ? それが決まってんなら、お前さんに何を言おうと関係ねぇだろ」


 続く言葉で更にガマバトラというドワーフに対する認識を深める。

 要するに彼にとって、蒼野を敵と認識した時点で、あとは何を言っても問題ないのだ。

 つまりそれは『どれだけの情報を握られたとしても、蒼野とその仲間をを絶対に殺す』という宣戦布告であり、


「そ、その相手は。その相手は誰なんですか!?」


 状況が自分らにとって悪い方に勢いよく転がっていくのを蒼野は感じ取り、それでもなお何らかの情報を掴むのを諦めきれない蒼野は腕を伸ばし、


「……俺は、いや俺達は千年前の戦いの参加者だ。ここまで言えばわかるだろ現代の英雄殿」


 最後にこれまでと同じように馬鹿正直に、しかし何らかの含みを感じる声でガマバトラは返答し、二人の通信は終わった。


「……蒼野」

「最悪だ。こっちにとって不都合な結果ばかりが残った。おそらくここ一日二日のあいだにでかい戦いが起こる」


 振り返ってみれば最初から最後まで延々と振り回される一方で、単調な電子音を耳にしながら真っ白な天井を仰ぐ蒼野。


「とりあえず気晴らしでもしたらどうだ? 煮詰まった時は、そういう事をすると解決策が見つかるもんだ」

「……戦場の確認も兼ねてだな」


 そんな彼を労わるアルとゼオスの発言を否定する理由はなく、周りに殺気を放つ相手がいないことを把握しながら、蒼野はゼオスを連れ、真っ白な箱のような建物から飛び出した。


「…………気にするな蒼野。この展開は元々、俺の中では想定していたことだ」

「どういうことだゼオス?」


 こうして外に飛び出した二人であるが、周りに誰もいないことを把握したところでゼオスは蒼野にだけ聞こえる声でそう説明。


「……………………エクスディン=コルを呼ぶ最も簡単な方法は、大規模な戦闘行為だ。『ナーザイム』一帯を巻き込む戦いであれば、奴がやって来る可能性は十分にある」

「いや待てゼオス。それじゃあ大量の死傷者が!」

「…………奴を放置するよりは百倍マシなはずだ」


 続く発言を聞き蒼野は制止する構えを見せるが、ゼオスの意志は鋼鉄のような固さを見せ、


「………………蒼野。あれは」

「………………………………マジかよ」


 そのまま多くの工房が並ぶ大通りに飛び出た時、二人は言葉を失った。

 二人から少し離れた位置にいる、太陽の光をのびのびと浴びる青年。その顔に二人は見覚えはない。

 だが気を抜いているゆえか体から発せられている練気。それにははっきりと見覚えがある。


「ほー、これが最新の武器か。貴方がたの素晴らしい腕に科学という別分野を加えたと。興味深い!」

「来て早々にそれを掴むたぁいい目をしてるなあんちゃん。どれ、それに免じて販売価格を一割負けてやるよ!」

「マジか。いやしかし今月の金が」


 工房が出してる露店に他の人同様に立ち寄り、気になる商品を手にして店員と他愛のない会話を広げている青年。

 それは姿かたちこそ違うものの、間違いなく変装したシュバルツ・シャークスであった。


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ガマバトラとの会話回。

疲れが目立ったせいかちょっとうまくいかなかった気もするので反省。とはいえ厄介な爺であることはなんとなーくでも伝わったのではないかと思います。

後半は物騒な発言をするゼオスに突如現れるシュバルツ・シャークス。

『ナーザイム』での冒険はここから新たな展開を迎えます。



それではまた次回、ぜひご覧ください!

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