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蒼野とゼオスと鍛冶師の島 三頁目


 惑星『ウルアーデ』に住む人間という西部tは大なり小なり戦う力を備えており、その影響もあって戦うことが三度の飯より好きな場合が多い。とはいえ大勢の人が死ぬ戦争を好んでいる者となれば数は一気に減る。

 『戦いの好き嫌い』と『人の生き死』にに関して言えば、別問題と考えている者が多いという事である。


 だが当然ながらそのどちらも大好きである存在も一定数は存在する。。

 戦い、人を殺めることを悦とするエクスディン=コルを筆頭に、戦争が起こることを望む思考の人間も間違いなくいるのだ。


 その中でも最も数が多いのが、武器に関する商売を行う者達であろう。

 武器商人も鍛冶師も、武器を扱う人がいて初めて成立する商売であり、買い手がいなければ自分たちの生活が成り立たない。だから好き嫌いからではなく、自分たちが生きるために戦争を求める。


 この考えを鍛冶師の島『ナーザイム』に当てはめれば、自らが至った結論は当然であるとアルは語り、蒼野もゼオスもすぐに言い返すことはできなかった。


「い、いやまさかそんな………………」

「証拠ならある。というよりお前たちの話を聞いて彼らの不審な行動とつながったんだがな、ここ最近ナーザイムにいる鍛冶師たちの動きに奇妙なところがよく見えたんだ」

「奇妙な動き?」

「普段はいがみあってる鍛冶師連中が手を取りあって協力したり、普段は『科学なんて頼らん!』なんて言って絶対に顔を出さない頑固者がこの研究所に通う様になったりしてるんだ。そういう奴らの中には『作りたい武具にかかる費用がどれほどのものか』なんて相談してくる奴もいるんだがな……そうか。裏に貴族衆の本家が控えてたのか。そりゃあんな法外の値段を聞いても、諦めないわけだ」


 説明の内容は現場にいるアルだからこそわかるものであり、顔を歪めこそするもののこれまでと変わらずコーヒーを啜る彼の言葉に、蒼野とゼオスは頭を抱える。


「……研究の内容はどのようなものなのだ?」

「こういうのって口外禁止だから他には言いたくはないんだが………………ことが事だ。仕方がないな。あいつらのやりたいことってのは大別するなら二つだよ。一つは最新の無人戦闘機。いわゆるロボットの開発。ここにいる鍛冶師の技術全てを結集したような化物を作って、それを量産しようって計画だ」

「そりゃまた恐ろしい計画ですね。進行具合なんかもわかったりしますか?」

「科学面での協力者として参加したからわかるが、最初の一体を作るだけなら八割方といったところだろう。ただコスト面から量産は無理だって話したんだが、そこをどれだけクリアできるのかはわからんな。貴族衆と言えど、馬鹿みたいに金がかかるアレの量産は難しいと思うんだが」


 続くアルの発言により一層頭を痛める蒼野だが、感情の赴くままに動いたとしてもうまくことが進まないことくらいは理解できる。

 なので少々の呻き声こそあげるもののそれ以上何かを言うことはせず、視線で先を促すと意図を汲み取ったアルは再び話し始める。


「もう一つに関してはこの『ナーザイム』が抱えている基本原理。最強の武器への追求だ」

「……最強の武器?」


 ただその意味をしっかりとは把握できずゼオスの口からは探るような疑問は発せられ、


「彼らは目指しているんだよ。人の手による神器の生成を」


 核心を突く答えに蒼野とゼオスは息を呑む。

 なぜなら二人は、それ以上に何か言われるよりも早く想像してしまったのだ。

 『ナーザイム』に住む数多の鍛冶師が協力し、本当に神器を生み出してしまった場合の未来。貴族衆の後押しもありそれらを量産し世界中に牙を剥く姿を。

 それはきっとミレニアムやガーディアが行ったような大戦争の再来であり、


「か、完成度は!?」

「なんとも言えないな。何せ目標はあの神器だ。能力の付与に関しては科学的な面でなんとか再現しようとしているが完ぺきには程遠いし、硬度面に関しては果てがないな。色々と手を尽くしちゃいるが、ビックバンを受けても壊れない硬度ってのは全く再現できん」


 慌てて質問をするのは蒼野であり、アルの返事はというと彼らにとっては都合がいいものであった。


「……そうか。だが」

「安心はできないよな。どうするべきか」


 だが二人の胸に湧いた不安は消えない。

 どれほどの人間が関わっているかまではわからないが、かなりの数の鍛冶師が神器の生成に挑んでいる。今はまだ未完成かもしれないが、もしかしたら明日明後日に天啓が浮かび、急激な成長が行われるかもしれないのだ。

 そう考えてしまえば、蒼野が抱く不安に間違いはないだろう。


「…………一つ気になるのは」

「ん?」

「……なぜここに住む鍛冶師が神器の生成に挑むかについてだ」


 だがそこでゼオスは待ったをかける。それはまさに今しがた口にした点について気になったからだ。


「そりゃ武器を作る鍛冶師として当たり前の試みなんじゃないか。なんたって武器防具っていうカテゴリーにおいて神器は最強の物だからな。目指してもおかしくないだろ?」

「……だが彼らも商売で鍛冶師をやっている面も大きいはずだ。そうなればかかる費用はともかく時間に関する問題が出てくるはずだ。そこまでしてなぜ神器を求める?」


 要するにゼオスはかける労力と得る結果が見合っていない点が気になっているということで、答えられない疑問を前にして蒼野は視線をアルに。


「…………詳しいことまでは知らないぞ。だが昔聞いた話によると目指してるものがあるらしいぞ」

「目指しているもの?」

「あぁ。どうやら彼らには超えたい壁があるらしい。それを超えるために必要なのが神器なんだろう」


 その超えるべき人物が誰であるか聞きたいところであったが、聞く必要はない気がした。二人に語るアルの表情が『これ以上はわからない』と語っていたのだ。


「その人物に関して聞くなら鍛冶師たちの長であるガマバドラさんに聞くべきだろうな。共同開発に携わってた縁で話を通せるはずだから、すぐに連絡してやるよ。忙しい身だが、それくらいの質問には答えてくれるだろ」


 とはいえアルとて恐ろしい計画の一端を担っていた罪悪感はあるのだろう。座っていたソファーから立ち上がると机に置いてあった端末を掴み取り、慣れた様子で連絡。


「連絡が付いた。さっきの質問について聞いてみるといい。だけど気をつけろよ。頑固さが特徴のドワーフの中でも、ガマバトラさんは一際頑固で起こりやすい。面倒ごとは起こすなよ」


 この問題の着地点はまだ彼らには見えていない。

 ただほんの半歩とはいえ先に進んだ気だけはしており、蒼野がアルから端末を受け取った。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


引き続きナーザイム編。孤島に住む鍛冶師がなぜ戦いに参加するのか。そしてその目指す先が一体何なのか。

色々こねくり回したりしていますが、神器に関してはコスト度外視でただ単に目指したいっていう人ももちろんいます。

究極の一への憧れは、男なら誰でも一度は夢見るでしょう。


次回はナーザイム編の最重要キーパーソン登場回。お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください

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