表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1063/1358

蒼野とゼオスと鍛冶師の島 二頁目


「なるほどなるほど………………私の知らないところで、ずいぶんと面倒なことが起きてたんだな。いや巻き込まれたとなれば、今や私も当事者の一人か」

「はい。それで、記憶を失われる前後に関する情報などはないでしょうか?」


 思わぬところから飛び出した手がかりを前に一時は動揺した蒼野とゼオス。しかしすぐに気を取り直すとゼオスが記憶喪失に関する事柄について知っている限りのことを説明し、腕組みをして聞き役に徹していたアルが手元に置いてあったコーヒーを啜るとしきりに頷く。

 直後に蒼野が行ったのは形式上の質問で、しかしあまり答えに関しては期待しているものではなかった。シロバの際と同じく、大きな手掛かりに繋がることはないと踏んでいたのだ。だが、事態は彼の予想を覆す。


「私にはないな。残念ながらごっそり奪われてる」

「……そうか」

「がしかしだ、教えられる情報はあるぞ。なにせ相手の正体が監視カメラにはっきりと映ってたんだからな!」

「え、え、本当ですか!?」

「……相手は俺達が思っている以上に気の抜けた馬鹿なのか?」

「いやそういうわけではないと思うぞ。この建物内には至る所に監視カメラが仕掛けられてるんだが、所長である私しか知らない場所がいくつかあるんだ。そのうちの一つに相手が偶然引っかかったってわけだ。探知術除けなんかもかけてるから、まぁ当然と言えば当然な結果だ」


 それに対する同じ顔をした二人の反応に対しアルは弁護をするが、だとしても有力な情報を落とすのは褒められることではない。それこそシロバの件にしても致命傷に至らないとはいえ同じようなミスを相手はしており、強張っていた体の力を緩め、座っていたソファーに残っていた力も預けてしまった。


「まぁなんにせよ見てくれ。これが事件当時の状況だ」


 そうこうしているうちに映された映像は今二人がアルと一緒に過ごしている所長室に関するもので、机を挟み二人の男が話をしていた。

 一人は蒼野とゼオスと共にこの映像を目にしているアル・スペンディオ。もう一人は深い皺を幾重にも重ねた小さな老人。溶鉄系の作業を行うための制服を着こみ、煤だらけの頬を手の甲で拭うドワーフで、二人は真剣な顔で何かを話している。

 かと思えばコーヒーが空になったアルが補充をするために立ち上がり、踵を返し自室の隅に置いてあるコーヒーメーカーに近寄っていく。


「ゼオス!」

「……これが記憶や能力を奪う力の正体か」


 状況に変化があったのはその時だ。

 壁をすり抜け、二人の会議の場に新たな参加者が現れる。

 その存在は下半身にあたる部分を煙のように朧気なものにして、細長い胴体に屈強な両腕。それに目の部分を星型にした、ピエロを連想させる顔をした異形の精霊で、赤と黒のボーダーで全身を包んでいた。

 そして蒼野達三人が見守る中で大きく腕を振りかぶったかと思えばアルの胴体をしっかりと捉え、傷一つなく振り抜いたかと思えば虹色の球体を掴んでいた。


「これが!」

「…………例の虹色の球体の生成方法か。味方が襲われている映像を見て言うのもなんだが、勉強になるな」

「本当に不謹慎だなお前…………いやまぁいい。とにかくこうして私は記憶を奪われたってわけだ」


 映像で見た決定的な瞬間を前に声を上げる蒼野とゼオス。彼らの物言いに対しアルは口を尖らせるが、自分の油断が招いた結果ゆえ、それ以上強くは言えず自身の金髪を掻き毟る。

 兎にも角にも二人はこうしてアルの疑問に対し答え、


「それで俺達がここに来た理由なんですけど、どうやらこの件にはドワーフが深く関わっているらしいんです。そしてその証拠を今しがた目にすることができた」

「……ここに来た俺達が行いたいのは敵方の戦力の確認だ。それ次第でこちらの対応も変わる。アル・スペンディオ。このことに関して何か知っていることはないか?」


 自分たちのターンが回って来たことを自覚し、ここに来た目的を説明。それを聞きアルは狐のように細く伸びた瞳を開きこそしなかったものの眉を顰め、口をへの字にして腕を組み唸った。


「怖い顔に声を発してどうしたんですかアルさん? 一応言っておきますけど、何も知らないからって攻めるようなことはしませんよ?」

「……それとも俺達の質問に問題があるのか?」

「あぁうん。どっちかというと後者だな」


 その意味を探るように別々の質問を繰り出す蒼野とゼオス。するとアルは顔を右手で抑えながらそう告げ、


「その答えを私は知ってる。だから説明するんだが………………」


 これまた二人にとって都合がいい返答を返す。しかし彼の顔はなおも曇ったままであり、ここに来て同じ顔をした二人の青年の顔も同調するように訝しいものへと変化。

 そんな二人に対しアルは自分がたどり着いた結論を説明する。


「そもそもの話をしておくとな、俺とさっきの映像に映ってる人物。ドワーフ達のまとめ役であるガマバトラさんって人なんだが、彼と話してたのは新しい兵器の開発についてなんだよ」

「新しい兵器?」

「ああ。だがそれは少し置いといてくれ。あとで説明する。問題なのはその仕組みではなく、用意する数とかけてる人員で、いやそれも後にしてだ………………結論を言ってしまうと、おそらく大半だ」

「………………大半?」


 外堀を固める事から始まった話は紆余曲折しながらも核心へと迫り、しかしなおもしっかりと把握することができずゼオスは疑問の色に染まった声をあげ、


「そうだ。この孤島『ナーザイム』で働く鍛冶師の半数以上。いや七割近くが、お前たちが探ってる件に関わってると私は見ている。しかも他者による脅しなどではない。前向きな意志でだ」

「……なんだと」

「な、七割って………………七割ってことですかぁ!?」


 何らかの確信を持って言い切るアルの言葉に、ゼオスは耳を疑うような気持ちになり、蒼野は支離滅裂な言い方をしてしまった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


アルさんとの会話フェーズ。その中で今回の話の確信に至る力がついに説明されます。

さらに今回の戦いの敵対者がどれほどのものかもわかり、物語は中盤戦へ。次回はそのようになった理由や数などについて説明し、更に一つ大きく進めていければと思います。


最後に今年一年、『ウルアーデ見聞録』にお付き合いありがとうございます。

来年もしっかり続けていこうと思うのでよろしくお願いします!!


それではまた次回、ぜひご覧ください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ