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ゼオスの意志・積の選択・ルティスの告白 二頁目


「一応聞いておくけど大丈夫かルティスちゃん。顔色悪いぞ」

「ご心配なく。幾分か眠らせてもらったのでだいぶ良くなりました」


 積からの連絡とつながっている携帯端末を机の中心に置き、康太とゼオスの二人と向かい合う形で銀髪を携えた美女が椅子に座る。その顔色は言葉に反し優れておらず、康太は胸中であまり急かすことはするべきではないと思案。

 

「…………それで、貴方が得た情報というのはどのようなものだ?」


 ただ隣に座るゼオスの考えは康太の思考に反しているようで、腕を組み探るような声色を発する様子に加え、柄も知れぬ威圧感を覚えた康太の、非難するような視線が突き刺さった。


「大丈夫です康太さん。いえまぁ、本音を言えば結構疲れてはいるんですけど気にしないでください。報告を終えたら、今度こそぐっすり眠らせてもらいます」

「そうか。ならいいんだけどよ」


 そんな康太の思考を読み取ったルティスが僅かに陰りを帯びた笑みを浮かべ、少々不服ながらも康太が了承。浮かせかけていた腰を元に戻し、二人が自分に視線を向けているのを感じ、咳払いを一つしてこの積の主役は語り出す。


「えっとですね、まず初めにお伝えしておきたいのですが訓練したことで私は自分の異能を強化することができました」

「訓練?」

「はい。具体的に言うと、対象の記憶の気になる点に意識を集中し、より具体的な情報を映像として得ることができるようになりました」

「そりゃ凄いな。ありがたい限りだ」

「……そうだな。だが疑問が浮かぶな。それほど便利な強化を果たしたにしては、貴方の表情がすぐれないようだが?」


 修行の末に行われた強化は、康太が称賛するように聞く限りは便利なものであるように聞こえる。そんな彼らの意志に反しルティスは少々申し訳なさそうな表情を浮かべており、ゼオスが静かな声で問いかけると、二人に向き合っていた彼女は明後日の方向に目をそらした。


「いえ、その、これって便利な事ばかりでもないんですよね。意識をそちらに集中させるということは、他の情報は読み取れなくなるわけでして。狙った情報が外れだった場合、これまでよりも手に入る情報が少ないんですよね」

「……なるほどな。それで? 得た情報というのは?」


 そこから説明された内容を聞けばルティスが前置きをした理由も理解できた。要約すれば『欲しい情報が皆無であったらすいません』ということで、それを承知した上で頷いたゼオスが先を促す。


「はい。今回意識を集中させて得た情報に関しては主に三つです。一つ目は『ロムステラ翁と『裏世界』の繋がり』。二つ目は『シロバさん襲撃事件に関して』。三つめは『虹色の球について』です」


 続けてされた説明を聞けば、要するにあの場でルティスが口にした内容に関してで、康太の期待が視線に込められる。するとそんな彼の思考を読み取ったルティスが頷き、真剣な表情で口を開いた。


「まず第一に『ロムステラ翁と他勢力の関わり。これに関しては先に話した『裏世界』が結構密接でして、映像化してみた時に側にいた相手は、マクダラスファミリーの若頭アラン=マクダラスさん」

「若頭アラン=マクダラスっていうと、積の奴の報告にあった奴だな。それで?」

「はい。他にもいくらかいる様子でして、名前はわかりませんでしたがドワーフの姿がチラリと。それに汚れた帽子を被った、胡散臭い人の姿が確認できました」

「最高の情報じゃねぇか。ありがたい!」


 その内容は一つ目の時点で既に値千金に匹敵するものであり、康太が顔を綻ばせる。


「それで二つ目の情報に関してなのですが、襲撃者の姿が確認できました。これは一つ目の情報にもあった胡散臭い人ですね。そしてこのとき取られたのが」

『話の流れ的に三つ目。虹の球体ってところか』

 

 続けて語られた内容。それも重要極まりないものであり、その言葉を引き継ぐように端末越しの積が語ると、ルティスは神妙な顔で頷き、続けて右手を重ねると中指と人差し指を持ち上げ二人の前へ。


「はい。それでこの虹色の球体に関して何ですけど、あまり詳しいことはバークバク翁も共有していない様子でした。ただですね、効果が二つあるのはわかりました」

「二つ?」

「はい。一つが『対象の記憶を奪う』もう一つが『対象の強さを奪う』」

「強さ?」

「…………茨の王でいう能力や粒子術といったところか。他にも奪えるとするなら反則級の力だな」


 続く情報も貴重なものだが、ルティスの顔は優れない。


「ありがとなルティスちゃん。ついでに聞くと、その胡散臭い奴ってのはどんな奴かはわかるか?」

「………………わかりません」

「え?」

「すごく不気味な事なんですけど、彼の体には黒いクレヨンで潰されたような線が幾重にも塗りたくってあったんです。顔には特に。だからこそ、不気味な人なんです」


 なぜなら彼女は最も重要であると感じた情報を強化した自身の異能でもつかめず、その胸に不穏な影を落としており、


「それと…………すいませんゼオスさん。エクスディン=コルに関する情報は全くなくて」


 もう一つの不満点を口にすると頭を下げた。

 がしかしゼオスはその点に関しては気にしないと手で制した。

 なぜなら彼は知っているのだ。激しい戦いが行われる戦場に足を運べば、エクスディン=コルは現れると。


『情報に関してはそんなところか。ありがとな』

『お役に立てたのでしたら何よりです」


 斯くして今回の会談に関する報酬は提示され、疲れた表情を見せながら奥の部屋に消えたルティス。


『なら次だ。さっきちょっと話にしてたが、康太が襲われたらしいじゃねぇか。そいつについては?』

「既に話してた情報以上はなんとも。自分や周りの影を自由に操って硬度も水みたいな軽さから鋼鉄まで自由自在。シュバルツさんみたいな巨体だが、動きはサーカスの軽業師やら猫みたいに軽い。こいつはこいつで不気味だな」


 次いで康太が話した内容を聞くとしばらくのあいだ積は押し黙り


『明日の行動を纏めよう。俺に康太。それに優は、『裏世界』の中枢マクダラスファミリーに突入。今回得た情報も合わせて、事情聴取を行う』

「朝一に行くから待っててくれよな」

『残ったゼオスとそっちに行く蒼野は、ドワーフ関連を追ってほしい。とすると場所は――――鍛冶師の集う孤島『ナーザイム』だ。どっちもエクスディンやら面倒な影使いが現れる可能性がある。気を引き締めて、怪我人なしで一日を終えよう」


 今日一日を総括するように積は語り、ギルド『ウォーグレン』の面々は未来を見出す。明日の動きが、大きな分岐点になると本能で感じ取りながら。







 



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ギルド『ウォーグレン』主導の大依頼は此れにて二日目が終了。振り返ってみると結構濃密な日々を過ごしている気がします。

さて次回からの新たな舞台は鍛冶師の孤島『ナーザイム』。開かれる新たな世界をお楽しみください!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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