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ゼオスの意志・積の選択・ルティスの告白 一頁目



 午後八時を過ぎてしばらくした頃、康太がルティスを背負い、ゼオスと共にホテルの一室に足を運ぶ。

 新幹線一つを用いて行われた大爆発による被害の確認を行い、負傷者の配送や周囲への説明を行った彼らは、戦闘を行った際とは別の意味の疲労に身を包み、向かい合うと息を吐いた。


「…………ルティス・D・ロータスは?」

「まだ奥の部屋で寝てるぜ。オレとお前でエクスディンに不意打ちされないように看病だな…………っと、積からの定時連絡だ。オレが出る。お前はここで見といてくれ」

「……承知した。シリウス・B・ノスウェルのことの説明も頼む」

「わかってるって」


 残るシリウスはというとノスウェル家での業務さえ後回しにして六大貴族各所に連絡。臨時の長としてこの地の混乱を収める任に就き、未だに最前線で動いていた。


 エクスディン=コルによる新幹線爆発事件。これによる被害状況は予想と比べ幾分か軽いものであった。


 第一の理由は未来都市ガノの堅牢さ。全世界が目指す『ありえる未来の一つ』のサンプルとして作られたこの場所は、ただの道であったとしても、他の場所以上の強度を誇っていたのだ。

 とはいえ被害規模を縮小化できた最大の理由は二つ目、すなわちゼオスの尽力によるところが大きい。

 彼が瞬時に展開した紫紺の炎は瞬く間に周囲一帯を包んで凍らせ、周囲一帯を爆発を外部へと逃がさないための牢屋へと変えた。

 ただ如何に素早い対応ができたとしても、残念なことにゼオスの専門は氷や鋼属性に見られる物体の強化ではない。そのため百メートルを超える新幹線に詰まっていた火薬の勢い全てを受けきることはできず、爆炎は上へと伸び、罪のない人らを害するという結果に至ったのだ。

 がしかし、ゼオスを責めることは誰にもできない。なぜなら彼のとっさの機転がなければ死者の数だけで一万人を超えている可能性があり、それを想えば多くの人らが裏表なく彼を称賛するであろう。


『ゼオスの様子は?』

「大層ご立腹だよ。これ以上を望むのは、オレとしては贅沢過ぎるとは思うがね」


 ただ本人がそれで『良し』と言えるかといえば話は大きく変わってくるもので、積と電話をする康太のすぐそばでは、らしくもなく怒りを露わにするゼオスが机に上に頬をついていた。


『あいつはクールな奴だ。そこらへんは整理がついてる。問題はエクスディンの野郎についてだろうよ』

「あぁそっちか。まあ気持ちはわかるが」


 ここで問題となるのは『これほどの被害の事件の首謀者であるエクスディン=コルはどうなったか?』つまり爆風に呑まれた彼の行方。さらに言えば回収されたはずのバークバク・G・ゼノンについてだが、先に結論から言うと康太やゼオスは辛酸を舐める結果に終わった。


 どのような手段であるかはわからずとも、一手で勝負を決めると誓ったゼオスは漆黒の剣を強く握り両の眼で照準を合わせ、しかし爆発と同時にエクスディン=コルの狙いがルティスであることを察知すると、彼が引き金を絞るよりも一歩早く康太が展開した盾の前に移動しそれらを対処。

 そうしている間に彼の姿は跡形もなく消えており、けが人の救助後に周りを見たところ、高熱で溶けた転送装置の部品が出てきたことで逃げ延びられた絡繰を理解した。


「問題はこっからどうするかだろ?」

『………………』


 今回の事件の顛末、それを語り終えたことを示す一言を告げ、話は次の段階へと進んでいく。

 康太の言った通りこの爆破テロ事件により事態は一気に深刻化した。

 これまで彼らは、『裏世界』を表舞台に引き上げるという名目で動いていたが、ギルド『ウォーグレン』が主導となり少数の協力でこれを行えたのは、端的に言ってしまえばこの時点では荒事になっていなかったから。争いのない平和な状況であったゆえである。

 この大前提が今回の件で崩れたのだ。

 もしこれが数人の少年少女による襲撃程度ならば、彼らが単独で対処できる『些細な争い』として処理できたであろう。しかし世界中が忌み嫌う戦争犬の魔の手によるもので、結果として百人近くの死者が出たとなれば話は変わる。

 ガーディア・ガルフやミレニアムを相手にした時のような全面戦争には至らないにしても、事件に対処するための特別部隊が作られることは想像に難くない。


『…………エクスディンの件については手を離すしかないな。だが『裏世界』の併合だけは俺たちの手で進めていこう。これは絶対だ』

「まぁそのあたりが妥当な線だろうな」


 とはいえ積も『ハイそうですか』と軽々しくは言えなかった。

 この件を無事自分達が主導で解決すれば、兄の夢であった『神の座』を手に入れることができるゆえに。それがわかっていたからこそ康太もため息一つで肯定することしかできず、


「…………待て康太」

「ん?」

「……エクスディン=コルは俺達が仕留めるべきだ。そうだろう?」


 けれど康太の持っている電話越しに聞こえてきた内容を聞きゼオスが異論を唱えた。


「どうしたいきなり。積の奴がクールと言ったお前らしくも」

「……奴はヒュンレイ・ノースパスを殺した男だ」


 その様子を見て半笑いで探るような口調で尋ねる康太であるが、最後まで言い切るよりも早く彼の側にいるゼオスは口を開いており、


「お前…………」

『………………』

 

 康太と電話の向こう側にいる積が何も言えず押し黙る。シュバルツを撃破する前は本当に最小限しか話さなかったゼオスが、まさか一個人に対する仇で動くなどと口にするとは夢にも思わなかったのだ。


「理由は本当にそれだけか?」

「……………………何が言いたい?」

「危険察知が働いたわけじゃねぇからこれは何の根拠もねぇ、本当にただの勘だ。だけどよ、他にも抱えてるものがあるんじゃねぇか?」

「…………………………」


 ただ康太は、そこで追及するのを止めるような男ではなかった。ゼオスが突然、普段なら決して言わないであろうことを言い出した理由の追及を行い、


『康太。今の状態はスピーカーがかかってるのか?』

「いや、かかってねぇな。あいつが割り行ったのはただ耳がいいだけだ」

『そうか。ならスピーカーモードにしてくれ』


 ゼオスが答えるよりも早く、積の真剣な声が康太の耳に届く。すると素直に従った康太が画面をタッチし、ゼオスは肘を置く机の上へ。しばらくしたところで積が語り出す。


『ゼオス』

「……なんだ」

『個人的な視点だけで言うなら、俺も戦争犬を自分たちの手で仕留めたい。けどな、私情だけで動くわけにはいかない。わかってくれるな』

「………………」

『だからな、ここからは対応を変える。まずはどれだけの援軍が必要か知るための情報収集だ。あの馬鹿の件で対応が大きく変わってくるのは間違いないが、どれだけの規模が必要なのかもわかっちゃいねぇ。お前には、そのあたりを調べるために動いてもらうぞ』

「!」


 ゼオスの予想では積がする提案は自分にとって不都合なものであった。しかしそんな予想に反し彼の提案はゼオスの意志を汲んだものであり、俯きかけていた頭を持ち上げる。


『まぁしっかりとした本決定はもう少し後だけどな。あぁそれと、これは決定事項だから先に言っとくか。明日の予定なんだがな、康太は俺達と合流だ。マクダラスファミリーの本部に伺う準備を行う』

「そういう事ならオレが適任だろうな。けどいいのか。今のゼオスを一人にしとくのは…………」

『少し危険だろうな。だからそっちには蒼野を寄越す。それでエクスディンらについて捜索だ』

「…………承知した。それで、『本決定』はもう少し後と言っていたが、どういうことだ?」

『そりゃお前、まだ聞いてないことがあるだろ』

「?」


 積の提案に関してもゼオスが口を挟むようなところはさしてない。ただ一つ気になる点があるとすれば積の発した言葉に関してであり、さも当然という様子で積は反応。


「私の情報が必要、という事ですよね?」

「……なるほど。ルティス・D・ロータスの握る情報か」


 此度のガノ訪問の戦果。それを握る少女が目を覚まし上半身を起こしたのを見て、ゼオスと康太は察した。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です


中盤戦開始。先日までの話で得た情報のすり合わせ、それに今後の彼らの行動に関する話ですね。


被害規模一万人の死者百名についてですが、現実世界で起きた場合と比べ対処はかなり甘いです。

これはこの世界でこういう事件があるのは当然であると彼らは知っているためです。なので今回の件以上に大きな事件があれば、当たり前のように騒いだりしています。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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