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バークバク・G・ゼノンを捕獲せよ 三頁目


 康太が異なる四色の戦闘型ロボットを引きつけた一方でシリウスとルティスの二人が先へと進む。

 もはや妖怪バークバクとの距離は目と鼻の先にまで迫っており、あと一度、決定的な隙さえあれば捉えられるというところまで彼らは距離を詰めていた。


「とうとうここまで来よったか。忌々しい奴らよの」


 そのタイミングで追走劇の終わりはやって来た。

 康太から離れることおよそ数十メートル。五度の曲がり角と八度の侵入者撃退用の罠を退け、青白い明かりは終わり、強烈な照明に照らされる中で二人は目標を視界にとらえる。


「ほんの数分ぶりのはずなのですがね。随分久しぶりに人の形をした貴方を見た気持ちですよバークバク翁」

「ほざくではないか。だが貴様らの命運もここまで。古賀康太がいないのであれば、おぬしら程度儂だけでもで十分じゃ」


 そう告げるバークバクの背後にあるのは様々な機器が繋がれた転送装置であり、それに乗せれば全てが終わってしまうことを悟り、シリウスが己が身に雷を纏う。最優先を目の前の老人ではなく、この追い詰めた状況を覆す転送装置であると定めたのだ。


「聡いな。がしかしそれならば理解しているはずだ。この場はお荷物を連れたまま切り抜けられるほど甘くはないぞ?」

「ルティス君ッ!」


 しかしバークバクの言う通りシリウスは既に気づいていた。この状況で自分がされて最も嫌なことはなんであるか。自分らにとっての弱点を。


「カカッ、二人だけでこの場に来たのが運のつきよ!」

「シリウスさん!?」

「平気だ。心配するな!」


 勢いよく振り返り、彼女の背後から迫っていた数匹の蚊を焼き切る。それを皮切りにこの場における攻守は出来上がった。

 ルティスだけでなく自分にも襲いかかる、明らかに毒の類を秘めた無数の蚊やムカデ。これを撃退するためにシリウスは雷を用い防御に専念。無論合間を縫って雷の槍などを投擲するのだが、バークバクが張る数多の昆虫で形成する守りを超えるには至らない。

 つまりこの場における敗因の全てを妖怪の言葉が示しており、


「……ならば、もう一人加われば話は変わるな」

「ナヌッ!?」


 その状況を打破する一駒。老執事ロムステラを下したゼオスが、バークバクの側にある壁を砕き現場に辿り着く。

 

「貴様!」

「……これで終わりだ」

 

 そこから先は瞬きほどのあいだに。

 バークバクがシリウスらに向ける物とは違う殺意で染まった無数の虫たちを仕向けるため腕を動かすが、ゼオスはそんなバークバクの動きを完全に無視して転送装置を破壊。そうして余裕を得たところで自分の側に近寄って来る虫の悉くを紫紺の焔で焼き尽くし、千年にも渡り生き延び続けた妖怪を追い詰める。


「……これは、抜け殻の類か」

「ほ、本体が離れました! ゼオスさんが空けた穴に逃げていきました!」

「……無駄なことを」

 

 なおも足掻くバークバクではあるがルティスの目がしっかりと捉えており、自身がここにやってくるために作り上げた横穴の中にゼオスは移動。数メートル先に進んでいる羽虫であるが、目だった障害もないためすぐに追いつき、


「……っ!?」


 そのまま捉えようと腕を伸ばした瞬間、ゼオスの体が真横に吹き飛ぶ。

 それは何らかの打撃武器によるものではない。銃弾の嵐でもない。真横の壁を粉々に砕いて吹き飛ばすような爆発であった。


(……厄介だな)


 もしも打撃や銃弾のような『点』攻撃ならばゼオスは容易く対処したであろう。がしかし爆発のような範囲攻撃ならば話は変わり、負傷に関しては服が焼ける程度ではあるが、衝撃により吹き飛ばされることでバークバクとの距離が開いてしまう。

 無論その程度で諦めるようなことはないが、ゼオスはこの時、胸の奥である予感を覚えていた。

 それは不吉の訪れを感じさせるもので、


「……!」


 予感は現実へと変わっていく。

 ゼオスが開いた道とは別、先ほど爆発が起きた壁の向こうに巨大な影があるのだ。

 即座に視線を向けるとそこにあったのは見事な流線を携えた見たこともない形の新幹線で、数多の武装が、これがただの輸送機ではないことを示していた。


「こういうおもちゃは使ったことがねぇんだけどな。ま、勘で何とかなるだろ」


 その内部にいる男。今回に限り車掌を務める彼はやる気のあまり感じられない声を上げながら頭を掻き毟るが、仕事ぶりに関しては実に迅速であった。

 ゼオスがこちらに意識を向けている隙に、既にバークバクを新幹線から伸びるロボットハンドで捕まえており、内部にまで収納していたのだ。


「いや待て。てかあいつ」

「……邪魔をするならば押し通るまでだ」


 無論そのまま逃げることをゼオスが許すはずもなく、それを男も承知しているゆえに追尾性能が備わった数多の弾丸を発射。

 それらを難なく斬り伏せ巨体へと迫るゼオスは、けれど車体に触れる直前に弾かれた。


(……広範囲を覆える電磁シールドの類か。面倒だな)


 その正体を即座に看破し、面倒と言いながらも一太刀で斬り伏せられる確信を持つゼオスは、


「よぉ。久しぶりじゃねぇの坊主。元気にしてたか?」


 直後に突如現れたこの列車の車掌の姿を見て、一瞬ではあるが呼吸を忘れる。


「……貴様は」 


 真っ赤なくせ毛と無精ひげを伸ばしたその男は、鷹のように鋭い眼光で地上に着地したゼオスを見ているのだが、発せられる言葉は妙に馴れ馴れしい。


 いやそれも当然か。


 なぜなら彼らは旧知の中。


 男は死にゆくはずだった幼い頃のゼオスを拾い生きるための術。すなわち殺しの技を伝授した。


 だが今ゼオスの頭を埋めるのは、彼がヒュンレイ・ノースパスを殺めた仇であるという事実。


「エクスディン=コル!!」


 『十怪』の一角、『戦争犬』エクスディン=コルが彼の前に現れた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。


バークバク・G・ゼノン追走に関する話は今回で一段落。加えて言えば四章前編の序盤もほぼ終了です。

そのタイミングで現れたのは戦争犬エクスディン=コル。

これを持ちまして彼は各章に顔を出したことになります。

レオンさんやら主要人物は当然できている事ではありますが、そこらへんを除くと割とこの称号を持ってる人は少なかったりします。一章登場の壁はでかい。


何はともあれ少年少女の物語も大詰め。様々な因縁を清算しましょう!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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