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ゼオス・ハザードVS執事ロムステラ 二頁目


 千年以上ものあいだバークバクに仕えている執事ロムステラ。彼を強者たらしめる理由は主に二つ。


 一つは纏っている練気『感応』の力。これは自身に向けられる視線や意識の強さを感じ取ることができるというもので、彼はこの力を用い、相手が自分から気が僅かにでも逸れた瞬間を狙いすます戦術を構築していた。


 もう一つは『感応』の力と併用することで効果を最大限に発揮する仕込み杖を用いた居合だ。

 撃ち出す数ではなく速度と威力に重点を置いた一撃は、たとえ相手が身体能力が強化されたゼオスであろうと、攻撃を挟ませないほどの鋭さを秘めていたのだが、真に恐ろしいのはその技量だ。

 意識が逸れている時に放たれるため気づくことが難しいが、彼の放つ居合には他者が真似することが難しい二つの技術が込められていた。


 一つは刃の種類。

 居合であるため当然の事ではあるが、敵対者に攻撃を撃ち込むにあたり、振り抜いた刃を鞘として使っている杖に戻すのは必須の動作なのだが、ロムステラはここに一つの仕掛けを施した。

 彼が撃ち出す刃は、鞘に入っている時点では決まっていないのだ。その時々に最適な形の刃を、居合を打ち込む直前に錬成している。

 ゆえに対峙する相手は、つい先ほど回避できていたはずの斬撃の距離が突然伸びて深手を負うことがあるし、斬撃であると思い込ませていたところで切れ味をなまくらと同じレベルまで落とし、打撃として放つことさえある。軽量化することで、第二打第三打につなげる事さえあるなど、ただの居合と言えど多種多様な変化を彼は加える。


 もう一つの特徴が撃ち込む際の接触地点である。

 真正面からど真ん中に打ち込むことで単純な力押しを演じることもあるが、大抵の場合武器の先端部分を彼は狙う。

 渾身の力で振り抜いた斬撃を相手の掌から離れ、力の入りにくい先端部分に絶妙なコントロールでぶつけることで、相手の手首や腕全体を痺れさせるのだ。 


 上記の事柄をその都度瞬時に判断し叩きこむ熟練の技術に加え、受け流しも含めた強固な守り。それに敵対者の油断を誘う温和な空気と物腰は、超広範囲攻撃持ちが相手でなければ大抵の相手に五分以上の戦いを強いることができ、表舞台立つことが極めて少ないためさほど知られていないが、ロムステラは間違いなく『超越者』の領域に辿り着いた一流の武人である。


「………………効いた、な」


 そんな熟練の戦士である老人は、けれどここで一つ大きな思い違いをしていた。


「……な、なんと!」

「………………ロムステラ翁、貴様強いな。いや違うな。これは単純に俺の失態か」


 殺すつもりは毛頭なかった。

 意識さえ奪えれば、あとは主の元に馳せ参じ、シリウスや康太を押しとどめ主を逃がすだけだと思っていた。

 彼のそんな思惑はうまく運び、今しがた確かにゼオスの頭部を床に沈めたのだが、彼は少々足を震えさせながらも立ち上がり、頭頂部から血を流し顔を歪めているが、なおも焦点の定まった瞳を自分に注いでいる。

 彼の頑丈さを見誤ったのだ。


「……油断していないなどと言いながらも、どこかで俺は貴様をレオン・マクドウェルやシュバルツ・シャークスと比べていた。『二人と比べれば劣っている』と決めつけ、全身全霊を傾けていなかった」


 ゼオスの纏う空気が密度を増し、二人がいる最上階の空気が張り詰め、対峙する老執事の胸に重い物が乗しかかる。

 次いで部屋を包む気温が一気に下がり口から吐き出す息が白くなったところで、彼は気づかされたのだ。


 確かにゼオスは油断していた。今しがた言った通り、ロムステラを他の者と比較し弱いと断じ、無意識のうちに手を抜いていた。

 だがそれは彼自身にしても同じだったのだ。

 彼は先ほど、『死なない程度の威力で頭を叩き意識を奪おう』とした。しかしそれは誤りであったのだ。若い身ながらも数多の戦いを潜り抜けた若き『超越者』ゼオス・ハザード。

 彼の意識を本当に奪おうと思うなら、それこそ『頭をかち割る意気込みの一撃』を打ち込まなければならなかったのだ。


「……行くぞ」

「っ!」


 そのような考えに思い至った直後、ゼオス・ハザードが駆ける。

 先ほどまでの比ではない。たったの一歩で十メートル近く離れていた距離を詰め、交差する瞬間に打ち込んだ一撃でロムステラをエレベーターの扉に叩きつけ、


「……ふっ!」

「ぬぅ!」


 衝撃で凹む扉など微塵も意識せず放たれたゼオスの追撃をロムステラは上に跳躍することで回避。


「……凍てつけ」


 天井に張り付き体制を整えるロムステラへと向け続けて放たれた紫紺の炎は、広範囲を覆うように薄く伸ばされ、触れたもの全てを極寒の冷気で凍結。だが目標であるロムステラは分厚い風の膜を自身の目の前に展開して身を守り、真っ黒なステッキーの柄を利き手で強く握り真下へと跳躍。空中で腰を落とし居合の姿勢を構築。


「失礼!」


 そのまま再度放たれた抜刀術は小手先の技術など一切用いていない、最速最強の一撃であった。


「――――――そこだ」


 がしかしそれは、レオン・マクドウェルから習った見るものの目を奪う受け流し。剣の面を滑らせ軌道を変えて弾く動きで、明後日の方角へと逸らされた。


「み、見事」


 あまりの美しさに率直な感想が漏れたロムステラは、姿勢を崩した直後に撃ち込まれたゼオスの鋭い蹴りを空中を蹴ることで躱して距離を離し、そのまま凍った地面に着地するのを確認するとゼオスが疾走。


「此度は、次の衝突で幕でございますゼオス様」


 己が放てる全身全霊、必殺の一撃が届く射程にゼオスが踏み込むより前に彼は恭しく頭を下げ、そうあいさつを行い、


「……全身全霊で迎え撃つことを誓おう」


 ゼオスは真正面からそれに立ち向かうことを宣言。

 さらに一歩前に進んだ瞬間、


「御免!」


 老人の纏う空気が太陽の日差しのような温かな物から、突き刺すような殺意を帯びた物に変化。

 白銀の刃はゼオスの首を断つ軌道を迷いなく描くが、対処するためにゼオスが手にする神器を振り抜き、纏っていた紫紺の炎が目標に触れた瞬間、衝撃が迸るよりも早く白銀の刃は飴細工のように溶けて消えた。


「むん!」


 しかし老執事ロムステラは微塵も驚かない。

 ゼオスが真っ向から迎え撃つと言いきった時点で真っ向勝負では勝ち目はないと理解しており、居合で振り抜く際に捩じった体の勢いを殺さず、体を半回転させながら撃ち込んだ空気を裂く勢いの鞘は、再びゼオスの脳天へ。


「おおぉぉぉぉっ!!」


 対峙するゼオスはそれに対しても真正面からぶつかっていく。

 剣を握らず空いていた左腕。そこから伸びる籠手を着けた左手の裏拳を迫る一撃に撃ち込み、ロムステラが持っていた鞘を粉砕。


「そこです!」


 その展開までロムステラは予期しており、ゆえによどみなく神速の第三打が放たれる。

 居合を打ち込む直前に刃を生成しているという特性上、たとえ手にしている武器が溶かされたとしても、彼は新たな武器を即座に錬成できる。

 そのため体をさらに半回転させている間に新たな武器を生成し、三度ゼオスの命脈を絶つために振り抜き、


「……なるほどな。攻撃の度に、その都度最適な武器を作っていたのか」


 けれどそこに目標としていた少年の姿はなく、背後から聞こえてきた声を耳にして理解した。

 彼は今この瞬間、自分の強さの絡繰を一つ見抜いた。

 すなわちそれは、錬成したのを見た直後に動き出し、回転する自分を上回る速度で背後を奪ったという事実にほかならず、


「羨ましいですな。若さというのは、いつだって老人を惹きつける」


 長き年月を培って得た技量。それを上回る膂力の差を前にしてロムステラは苦笑し、そんな彼の顎をゼオスの放った拳が捉えた。


「……気に入らん間違いだったゆえに言わせてもらう」

「おや?」


 一つだけ予想外だったのは体は動かないものの意識は奪われていなかったことで、


「……俺が貴様の秘策に気づいたのは動体視力だけを頼ったわけではない。粒子の圧縮が肌で感じ取れたため。その後の動きを淀みなく行えたのは経験で得た技術の賜物だ。運動能力だけを頼りにしているわけではない」

「これはこれは、失礼しましたゼオス様」


 続けて行われた文句を耳にすると、ロムステラは笑いながらそう返した。

ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSロムステラ後半戦、いかがだったでしょうか。

本音を言うともう少し外連味を加えたかったのですが、深夜になってしまったため断念。少しだけ心残りです。


ただそれでも二人の戦いはコンスタントにまとめられたとと思うので、その点はよかったかと思います。

次回はバークバクサイド。未来都市を舞台とした戦いも大詰めです。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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