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ゼオス・ハザードVS執事ロムステラ 一頁目


「バークバク翁は……下に降りたか。急がなくてはな」


 空中で体制を整えたシリウスが羽ばたき、逃げるバークバクの気配を感知し下降していく。その速度はバークバクが逃げる速度を上回っており、一階のエントランスに辿り着く頃には追い付いているであろうことが予想できた。


「…………気をつけろよゼオス君。ロムステラ殿はおそらく、我々が想像していたよりも遥かに厄介な曲者だぞ」


 その事実をしっかりと把握した彼が次に思い浮かべたのは最上階で残る戦友の姿。

 ゲゼル・グレアの遺産を継ぎシュバルツさえも下したゼオスに関してであるが、この場に他の誰かがいたのならば無用な心配であると笑い飛ばしていたかもしれない。


 しかし空気の壁を突き破りながら下降するシリウスは、どうしてもそんな気にはなれなかった。

 未だ腕を痺れさせるほどの衝撃が、対峙した老人が油断ならない強敵であることをありありと示していた。




「……悪いが時間がない。強引に突破させてもらうぞ」


 ところ変わって最上階。腰を抜かしたルティスを背後に控えさせたゼオスとロムステラの戦いは、一方的な展開を迎えていた。

 神器『レクイエム』を手にしたことで身体能力のみならず属性粒子や能力さえ強化されたゼオスは、床だけでなく壁や天井を足場にした立体的な戦闘を行い、老執事の抵抗を一切許さぬ猛攻を仕掛けていた。

 結果最初の数秒こそロムステラは均衡状態を保ち続けていたが、五秒ほどしたところで受け流しや防御しかできない『受け』の状態に回ることになり、さらに五秒経ったところで耐え切れずに肩や脇腹に漆黒の剣の切先が触れていた。


「……そこだ」


 続けざまに吹き出す鮮血が老人の体から力を奪う。それにより力を失った彼は片膝をつき、すかさず放たれた回し蹴りを受け流すことができず、真正面から衝突。真っ黒なステッキーで受け止めたものの衝撃に耐えきれず、赤いカーペットの上を滑っていく。


「……ルティス・D・ロータス」

「ひゃい!?」

「……調べてみたところこの都市の中では俺の瞬間移動は使えない。少々大変だとは思うが、エレベーターから下に降りろ。大量の虫に追われているようだが、お前を逃がす程度の援護ならばできると康太から念話が」


 そうして僅かなあいだではあるが背後に気を配れるだけの時間を得たゼオスが後退し、腰を抜かしたルティスの側に近寄り提案。しばらく時間を置いたことで這う程度はできるようになったルティスは頷き、


「ゼオスさん後ろ!!」


 ゼオスが最後まで言い切るより先に悲鳴を上げた。


「……針か。この程度」


 急いで振り返ったゼオスが目にしたのは、自分へと向け飛来する五本の針で、ゼオスはそれらを一つずつしっかりと落としていき、続けてそれらを発射したであろうロムステラのいる方角に視線を向け、目を細める。

 ロムステラの姿がなかったのだ。


「…………っ」

「おや気づかれましたか。流石ですね」


 本当に僅か、おそらくシュバルツを倒す以前ならば気づかなかったほど微量の敵意がやって来たのは彼の頭上からで、即座に上を向いたゼオスが目にしたのは、自身へと向け居合の構えでステッキーから抜いた白銀の刃。

 すぐに神器を掴んだ腕を持ち上げたことでその攻撃はゼオスに届かなかったが、予想だにしない重さにゼオスは顔をしかめ、そうしている彼の顔面に革靴が突き刺さる。


「……うまく気配を消すっ」

「吹き飛ばすつもりで蹴ったのですが、僅かに怯む素振りさえ見せませんか。貴方は本当にお強いのですね」


 が、ゼオスは一歩も引かない。

 鼻から血を出し歯を食いしばった彼は、追撃が撃ち込まれるよりも早く開いている左手でロムステラを振り払い、吹き飛んでいく彼に追いつくように疾走。ロムステラが康太の銃弾で砕かれた強化ガラスの窓の、原型を留めていた部分を足場として利用したタイミングで追いつき、剣を振り抜く。


「……!?」

「おや、どうかされましたか?」


 が、そのタイミングでゼオスは違和感を覚える。普段とは違う感覚が剣を握る右腕に迸っている。

 端的に言えば痺れているのだ。

 その影響で掌から漆黒の剣を落としかけるゼオスは、右腕に意識を注ぐことでそれを阻止。厄介な状態になったことを呪いながらもロムステラに意識を戻し、


「そこです」

「…………っ!」


 再び居合の構えから振り抜かれた一撃が、ゼオスへと迫っていた。

 無論これもしっかりと防ぐゼオスであるが、さらなる痺れが右腕を襲い、神器を掴む掌に思うように力が籠らない。


「………………舐めるなよご老体」


 がしかし、それでもゼオスは攻めの姿勢を崩さない。

 右腕が使えないとはいえ様々な要素で彼はロムステラを上回っており、腕に装着している籠手に込めたデータで生成した爆発効果を秘めた剣を左手で掴むと、再び前進。利き腕を失ったにもかかわらず両足と左腕だけで一方的に攻め続け、ロムステラに反撃の隙を与えない。


「もちろんですよゼオス様。ですが貴女は勘違いをしておられる」

「……なに?」

「私の目標は貴方を倒すことではございません。最も厄介な貴方を、この場所で抑えることです。そうすれば我が主は、必ず逃げ延びるでしょう」


 だがこの展開さえ自らの思惑通りであると老人は語り、ゼオスも今更ながらに気づかされる。

 老人の目的に自分の撃破など含まれてはいなかったのだと。彼の目的は主の護衛。つまり――――


「……時間稼ぎか!」

「そこです」


 直後、たどり着いた答えを口にするゼオス。

 だがそうやって事の真意に意識を割いていたことを見透かすように三度目の居合が放たれ、これに対しゼオスは受けには回らない。一歩引いて確実に躱す。


「…………っ」


 はずであったのに、斬撃はゼオスの体を袈裟に斬り裂き、少なくない量の鮮血が宙を舞った。


「……どういう事だ」

「詰みです、ゼオス様」


 思わぬ展開に困惑を示し自身の身に起きた事態の解明に努めるゼオスであるが、老人は待たない。

 確かに彼は防戦一方であった。だが追い込まれながらも後退する方向を自身の思うがままに誘導した結果、這ってエレベーターにまでたどり着こうとしていたルティスの側にまで近寄っていた彼は、日光を反射するほど美しい銀の髪の毛を鷲掴みにしようと腕を伸ばし、


「……どうやら俺は侮られているらしい」


 その腕が目標に届くよりも早く、ルティスとロムステラのあいだにできている僅かな空間にゼオスは割り込む。

 瞬きほどの時間さえいらない、時空を超越したかのような速度で。


「いえいえ。私は微塵も貴方を侮ってはいませんよ。むしろそれは」


 しかし老人はそれほどの速度を目にしても微塵も驚かない。むしろ予期していた様子で腕は既に引かれており、仕込み刀が込められたステッキーの柄を掴むと、これまでの比ではない勢いで抜刀。姿を現した白銀の刃が美しい弧を描く。

 とはいえ刃の走る軌道にいたゼオスは、ルティスを掴みながら後退ではなく真横へと跳ぶことを選びしっかりと躱し、


「貴方の方ですゼオス様」

「………………!?」


 その展開すらも予期していた老人は居合の勢いをそのままに、自身の体を独楽のように回転。

 空いていたもう片方の手に掴んでいた真っ黒な鞘を避けたゼオスに叩きつけ、彼の頭部を真っ赤なカーペットに沈め、


「千年前の戦争を生き延びた者はみな怪物。覚えておくとよろしいかと」

 

 勝利宣言をするように彼はそう言いのけた。

 

 

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ゼオスVSロムステラ開幕。今回もサクサクとした店舗で進めて終わらせられればと考えています。

さて今更ながらにこの四章のコンセプトを一つ語らせていただくと、在野の強豪、というよりも表舞台に立つことがなかった強豪を描くことにあります。


ロムステラはもちろんの事、『裏世界』で生きる少年少女もその枠ですね。

そういう相手と軽快なテンポで戦っていく。そういう展開が好きな方は、特に楽しんでいただけるのではないかと思います。

もちろんストーリーの大筋にも色々な仕込みがあり、楽しめる仕様を目指しています。


というわけで次回はVSロムステラ後編なのですが、明後日は仕事で帰ってこれないためお休みをいただきます。

そのため次回の更新は12月14日になるので、お間違いがないようお気をつけください


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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