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G・ゼノン家当主バークバク 一頁目


「ゼオス。今回の作戦、お前はどう思う?」

「…………無茶苦茶だな。だがそれは、内容を見た全員が抱いている共通の感想なはずだ。そしてその程度のことは積もわかっているはずだ。その上で俺達に指示を出した。つまり」

「オレとお前を信頼してるってことか。なるほどそう考えれば見方も変わるな」

「…………原口善らしくなってきた、というところだろうな」


 朝日が昇るより少し早く、泊まっていたホテルから出た康太とゼオスの二人は、自分たちを監視している目や耳の類がないかを確認しながら動き出す。

 その際に話すのは返って来たメールに記された作戦。

 そこに記されていた内容はずいぶんとひどい力押しで、その上で『絶対』という垂れ幕を掲げる事ができない程度しか勝算が存在しない案であった。

 がしかし、人数制限に加え時間制限までされた上で行わなければならないとなれば仕方がないことで、貴族衆からやって来た援軍二人を置き去りに、二人は明かりの灯っていない街を駆ける。


「無理難題があの人らしいってか?」

「……ボルト・デインが統治する移動要塞『エグオニオン』の件。あれは今考えても無茶苦茶だ」

「ははっ、言われてみればそうだな! あの人は無茶無謀を無理やり通すことが何度かあった!」


 がしかし、駆ける二人の顔に不平不満は微塵もない。

 二年以上前に起こったミレニアムの乱の時にあった出来事を思い出し、『思えば遠くに来たものだ』などと年寄り臭いことをしてしまう。

 その際康太は破顔し、ゼオスは憂鬱そうに息を漏らす。


「最速最短で行く。遅れんなよ?」

「……神器を持っている以上、俺が単純な身体能力で後れを取ることはないと思うが?」

「うっせぇ。こういうのは好きに言わせろ!」


 違いがあるとすれば、過去と今の二人の関係性であろうか。

 二年前、いがみあっていたあの頃ではこの二人の間に会話はさほどなかった。あったとしてもそれは、互いを批判するようなもので、吐き出される言葉には常に棘が含まれていた。

 そんな二人は今、かつては決してしなかったであろう会話をしながら前へ。

 その姿は瞬く間に彼方へ消え、彼らは兄の跡を継ごうとする積の提案のために動き出した。




「貴族衆第二位。ノスウェル家当主シリウスが参りました」

「お、同じく。貴族衆第四位、ダイダス家の嫡子ルティスがやってきました!」


 時を経て同日の十三時五十分。予定の時刻より十分早く、彼らは目の前にある建物の中に入っていく。

 そこは此度の会合の舞台となる場所。

 すなわちバークバク・G・ゼノンの居城であり、この未来都市を象徴するような縦長の高層ビルは摩天楼を形成する他多数のビルを突き放し、その高さは千超え二千さえも遥かに超え、八千という数字まであと百と少しというところまで迫っている超高高度である。


 そんな建物の玄関ホールを潜ったシリウスとルティスは、真正面にあるロビーのスタッフに己の出自を伝え、それ等を耳にした者らは僅かに動揺したものの上へと連絡。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」

「ありがとう」


 受付に案内された先にあるエレベーター。

 ヘブンズゲート。すなわち『天の門』という大それた名を与えられた最上階へと直通のエレベーターに乗車すると、最上階を示す階層を撃ち込み扉を閉じる。


「怖いようなら、目をつぶっておくといい。そうすれば、すぐに最上階だ」

「は、はい。申し訳ありませんけどそうします」


 一分もかからず八千メートル近くを登るこのエレベーターは、普通に考えれば肉体にかかる負荷もかなりのものになるはずなのだが、そんな見え見えの問題をそのまま放置するほどこの場所の主人は耄碌していない。

 無駄な音を一切漏らさず、体にかかるはずの負荷を全て取り除かれたそれは、赤子が乗っても鳴き声一つ漏らさないと断言するほど最適化された空間だ。


「お待ちしておりましたシリウス様。それにもう御一方はルティス様でしたか。それでは、すぐにお二人が好きな紅茶をご用意させていただきます」

「ありがとうロムステラ殿。しかし必要ありません」


 みるみるうちに小さくなっていく人や建物を、ルティスが目を閉じる真横でシリウスがじっと見つめること数十秒。最上階へと近づいていることを示すように速度が緩慢になり、目的地に到着したことを示す軽い音が響くと、目の前の扉が開く。

 そうして普段通りの足取りで扉から出た二人を待ち構えていたのは一人の執事。

 黒のテールコートに身を包み、真っ白な手袋を嵌めピカピカに磨かれた靴を履く、真っ白な短髪をオールバックにまとめ、同色の髭を整えた人物。

 蒼野らも何度か呼ばれて伺ったお茶会において、食事の用意や片付け、場のセッティングなど身の回りの世話全般をしていた老人。『執事の中の執事』と呼ばれている、ロムステラという老紳士である。


 彼は二人を見つめると垂れ気味の瞳で笑みの形を作りながら親しげに話しかけ、けれどシリウスは申し訳なく思いながらも提案を断る。


「今回は、残念ながらそう悠長にしていられる暇はないので」


 理由は彼の視線の先。最上階に存在する唯一の部屋。執務室の開け放たれた扉の奥に。


「そう言うなノスウェル家。こいつの淹れた紅茶が絶品なのは、お前とて知っておろうに」

「それが顔合わせの時間に含まれなければ、いただくのですがね」

「カカッ、それは無茶な注文じゃな。お主とて貴族衆の当主というものが、どれほど忙しいかは知っていよう? いや、それをものともしないゆえにここに参ったか?」


 真っ赤なカーペットが敷かれた部屋で、一人掛けのソファーの上にてふんぞり返る彼は、シリウスはもちろんルティスより小さく、それどころか知り合いの中では最も小さな聖野よりもさらに小さな存在。

 まるで墨でも塗りたくったかのように瞳の中を真っ黒にして、刻んできた歳を示すように顔面を無数の皴で覆いつくし、色落ちすれどなお良さを示す衣類に身を包んでいるのは、貴族衆の面々の中でもごく一部を除き、正体を全く知らされていない秘密の塊を仕切るゼノン家の現当主。

 

「…………」

「おうおう。そう気を悪くするな。他愛ない世間話じゃ。それで、ワシと話すためにやって来たという事であったが…………要件はなんじゃ?」


 長きにわたり六大貴族に名を連ね、年月を重ねた今でもGの家系、すなわち六大貴族の真後ろに立つ、今のゼノン家を作り、成長させてきた大黒柱。

 千年という時、すなわちかつて起こった大戦を経験しなお生きているバークバク・G・ゼノンという古豪。否『妖怪』である。




ここまでご閲覧いただきありがとうござます。

作者の宮田幸司です。


ゼオスと康太にシリウスとルティスを加えた四人の旅は此れより終盤へ。

そのタイトルを務めるのは今回の話の中心たる人物バークバクです。

積の建てた秘策とは?バークバクとはどのような人物なのか?

全てがここで記されます!


それではまた次回、ぜひごらんください!

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