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未来都市『ガノ』 四頁目


 此度の未来都市訪問の目的は、シロバ襲撃に関する事柄に深く関わっていると判断したゆえである。

 がしかし、今この瞬間、彼らはそれ以上の成果を既に収穫したと感じていた。


(どう見るゼオス)

(……シロバ・F・ファイザバードの一件は、俺たちの本命とも密接に繋がっている。そういう事だろう。これは思わぬ収穫だ)


 陽の光の届かない裏路地の端から見たのはなんの変哲もない、けれど胸中に悪意を飼うサラリーマンの男と、鍛冶を専門とするドワーフが顔を合わせる姿。そしてそんな場所に現れた見覚えのある黒服サングラスの男。すなわち『裏世界』の住民だ。


(オレの記憶にある限りだと、あの服装ができるのはマクダラスファミリーの連中だけだと思うんだが)

(……断定は危険だが、その可能性が高いだろうな)


 彼らの知る限り黒服サングラスのその服装は『裏社会』を支配している男たちの証である。無論それを知っているゆえに同じ格好をしている可能性はあるのだが、ここでその姿を見れただけでも大きな価値があると言いきれた。


(ルティス君、彼らの考えはわかるかい?)

(すいません。距離が離れすぎてて、しっかりと把握できません)

(声にしてもそうだな。あの野郎共、周りに音除けの機械やらを使ってやがる。これじゃあ望むような情報は手に入らねぇ)


 とくれば次に望むのはより詳しい情報。それが一行共通の考えである。

 そのために裏路地に潜伏したままルティスの力と自身の聴覚を頼りに情報を探ろうとしていた康太であるが、彼の思うようには進まない。ゆえに焦りが、汗となって頬を伝う。


(……捕まえて吐かせてしまえばいいのでは?)

(そのために拷問でもするってか? オレにそんなスキルはねぇぞ。あっても嫌だしな。それとも相手の内心を正確に読む力が…………あ)

(……俺も普段用いない力ゆえに気づくのが遅れたが、ルティス・ロータスに任せればいい話だな)


 がしかし、ここで彼らは気が付いた。

 自分たちが持っている力ではなく、なおかつ普段は滅多に使う事がないから気づかなかったが、そもそもの話としてルティスの異能は真正面から質問を投げかけた場合が最も効果を発揮するのだ。

 気になる人物が出た時点で、力技で全員を捕まえてしまえば、あとは適当な質問を投げかけてしまえばことは済むのだ。


(うし。ならやるか)

(…………)


 やるべきことをしてしまえば康太とゼオスの動きは速い。

 己が得物、強者の象徴たる神器を掴むと躊躇なく立ち上がるが、このタイミングで二人の肩を掴んだのはシリウスである。


(やる気があるのは十分だがね、少し落ち着き給え二人とも。捕まえられれば万事解決だが、失敗した場合が面倒だ。君たちの方の本命には大きく響いてしまうのではないか?)

(そ、そうですよ。それは困るんじゃないんですか!)


 彼とルティスが口にしたのは、失敗した場合のリスクであるが、それを聞いても二人に迷いはない。

 

(心配すんな。オレ達に失敗はねぇ。あいつらを見てみろよ。どこをどう見ても、そこら辺の一般人に毛を生やした程度だ)

(……シュバルツ・シャークスやガーディア・ガルフを下した俺達ならば、万が一にも負けはない。勢いに任せて動いても問題はなかろう)


 今の彼らにはそれまでにはなかった自信がある。それだけの経験を積んでいたのだ。

 それに関してはシリウスとて認めるところである。


(本当に落ち着くんだ二人とも。君らの言うことはもっともだが、前もってできる対策をせず飛び出るのは、たとえ十二分の勝算があったとしても愚者のやることだ)


 だがそれこそが落とし穴であるとシリウスは断定する。

 今の彼らは得た成果を活かしておらず、油断と慢心に体を浸からせていると、念話のまま強い言葉で叱る。


((…………))


 それを受ければさすがの二人も頭を冷やし、立ち上がりかけていた体を元の姿勢に戻し、その意識は『やっておくべきこと』に向けられた。


(悪かったシリウスさん。確かに驕りが過ぎた。オレとしちゃ顔を隠す程度はしておくべきだと思うが、どう思う?)

(……いや、たとえ顔を隠したとしても、ここに来るまでにある監視カメラで見られていたのでは意味がないのではないか?)

(その点については安心してくれ。『ガノ』がどれほど優れた文明を築いているとはいっても、動力源は電気だ。ここに来るまでにあるカメラは、全て弄っておいた。これなら異変には思われても私達にはつながらない。認識疎外の力は持っているかね?)

(いえ。持ってないです)

(………………同じく)

(あ、それなら私がその類の効果を帯びたアイテムを持ってますよ。何があっても対応できるよう、予備を合わせるとちょうど四つあります!)


 そうして話を進めていくと戦闘面以外のスキルがからきしなのが浮き彫りになり、二人はさらに己を恥じる。

 とはいえ最低限の準備ができることは喜ばしく、康太とゼオスの二人はルティスからアイテムを受け取るが、すると表情をなんとも言い難い物へと変貌させる。

 彼女が渡したのは目元を隠す曇りガラスの丸眼鏡に付け鼻。そして鼻から蓄えた真っ黒な髭という、いわゆるジョークグッズであったからだ。


(し、心配なら私が阻害系の粒子術を使っておこう。神器を相手に能力は効かないとはいえ、属性粒子のものでも重ね掛けをしておけば効果はあるはずだ)


 続けてシリウスが雷属性を用いた認識疎外を使うと四人は準備を終えたことを悟り、二人を指さしながら怒りをあらわにしているドワーフを見ながら好機を待ち、


 ――バークバク・G・ゼノンからの連絡が届いたことを示すバイブ音がやって来たのはその時だ――


「何者だ!?」

「話を聞いてる奴らが居やがったか!!」


 慌てた様子でそちらに意識を向けた四人に先立ち、声を上げる件の三人。

 彼らは鉄槌や刀。それに銃などの各々が持つ得物を手にすると臨戦態勢に移行するが、その動きはあまりにも緩慢だ。


「一気に決めるぞ」

「……承知した」


 油断するなと言われたものの、圧倒的な実力差があることは疑いようのない事実である。

 敵対する三者が一歩踏み出した瞬間には勝利までの道筋が前に出る二人の脳裏には浮かんでおり、勢いよく詰め、勝敗は瞬く間に決する。


「これ、は!?」

「え、煙幕ですか!? み、みなさんどこに!?」


 その未来を覆い隠したのは周囲一帯を包む、伸ばした腕さえ見えなくなるほど濃い真っ白な煙であり、康太が、ゼオスが、シリウスが、次に行うはずであった一手を取りやめ、状況を探る。


「来るぞ! 前からだ!」


 己が身を襲う脅威をいち早く察したのはやはり康太だ。

 無音で迫るものの正体。すなわち無数の銃弾が自分らに迫っていることを察知し、空気の揺れを頼りに迫るもの全てを弾く。

 シリウスはと言えば全身に雷を纏い触れた弾丸が体内にめり込むより早く叩き落し、ゼオスは神器の能力で得た圧倒的な身体能力を頼りにシリウスと同じことをした。


「……そこだな」


 いやそれだけではない。

 彼はルティスの悲鳴のした方角へといち早く向かい、声の中心へと向け手を伸ばす。


「っ!?」


 その瞬間彼が認識したのはルティスの体を引く何者かがいる事と、自身の脳天へと刃が迫っている事実。

 それは彼にどちらを取るかを選ばせており、


「……くだらん」


 だが今のゼオスは『どちらか』などと言った相手の誘いには乗らない。

 数多の戦場を乗り越えた彼の力は、『超越者』クラスの中でも最高位付近、すなわち埒外の領域に達しかけている。

 であれば迫る刃を手の甲で弾き距離を詰め、しっかりと姿が見えない相手をルティスの体から剥がすことを一呼吸のあいだに行うことさえ容易である。


 それを成し得たと同時に白煙は晴れ、後に残ったのは無傷の四人の姿。逆に言えば追いかけていた三人は既に撤退しており、


「ゼオス」

「……どうやら、この件には一筋縄ではいかない相手が絡んでいるらしい」


 加えてもう一人、手練れが紛れていることを彼らは把握。

 此度の一件が一筋縄ではいかないことを改めて理解させられた。


 

 


 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ゼオスらによる襲撃とその顛末、短いながらも満足していただければ幸いです。

今回襲ってきた相手、その正体もまた次回以降で。


……こうして書いていると後に後に溜まっていっており、期待を上回れるか少々不安ですね。

それらに対して何とか応えられればと思います。


さて次回はいよいよ本題へ。

当主バークバク・G・ゼノンから送られてきた内容とは?


 それではまた次回、ぜひご覧ください!

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