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未来都市『ガノ』 三頁目


「観光をするってもどこに行くんだ? 事前情報なしで来たからオレ達はここの内情に関しては全く知らねぇぞ?」

「ガノの観光をするというならそうだな…………やはり中央に出向くべきだろう。この都市は観光向けに作られていないが、あそこだけはそういう意図で回ることもできる」


 都市の主であるバークバクから返事があるまでのあいだ観光をすることを決めた一であるが、どこに行くべきかまでは康太やゼオス、それにルティスにはわからない。

 彼らに対しシリウスが行った提案は、未来都市のど真ん中にある繁華街。この場所に住む生身の人間の多くが集まる場所に出向くというものであった。


「……どう面白い?」

「もう隠す必要がないから言ってしまうが、繁華街にある店の経営はアンドロイドが全て担当していてね。衛生管理やらも含めて、全て彼らが行っているんだ。そういうのならば、少しは絵になるだろう?」

「人の思考が思ったほどうるさそうではなさそうですし、それなら私も行ってみたいです。お二人もそれでいいですか?」

「うっす」

「……問題ない」

 

 観光をするとはいえ本来の目的をこの二人が忘れるわけもなく、とくればルティスの人の内心を読む力はとても便利であり、最大限使っていきたいという思惑も揺るぎはない。

 それを使う上で人が集まる場所というのは最高の場所であり、本人が気分よくそちらに向かうというのなら、彼らが拒む理由は何もなかった。


「ならば案内をしよう。着いてきてくれ」


 三人の答えを聞き先導する形で歩き出すシリウス。

 それに続く彼らの視線は、決まった場所ではなく各々が見たいものに注がれていた。

 ルティスは見た目と比べると頭に響くことのないアンドロイドだらけの街並みに少々の不気味さを覚えながらもある種の安心感を覚え、好奇心を抱いた様子で道行くアンドロイド一体一体の顔を微笑みながら見つめ、康太とゼオスは周囲への警戒を怠ることこそなかったものの、康太は土産話に使えるものはないかと周辺全体を見渡し、比べるとゼオスの視線はどこか覚束ない。


「何か探してるのかねゼオス君?」

「……見たところここに咲いている花は少々外と違うようだからな。桜の木が生えていないかと思っていた」

「桜か。確かにここには珍しい花も咲いてるが、季節を弄って年から年中咲かせるような研究はしていなかったはずだ。残念だが桜の木は季節外れで花を咲かせていないだろう」

「…………残念だ」


 疑問に対してシリウスが説明をするとゼオスは落胆した様子を見せるのだが、それを見てシリウスは言葉にはせず顔にも出しはしなかったが、彼の変化にある種の微笑ましさを覚えた。

 それというのも彼の知るゼオス・ハザードという人間はもう鉄面皮で、一言で言うならば人間らしさが希薄であった。

 そんな彼の一般人と同じような感性の芽生えは、心から歓迎できるものであるように思えたのだ。


「着いたぞ。ここがガノ最大の歓楽街だ」

「ここがそうか。すげぇ人の数だがゴミ一つ落ちてねぇな。そこらへんもロボット、いやシリウスさんに合わせて言うなら、アンドロイドが働いてるってことか」


 一行はそのまましばらくのあいだ、空を突くような高層ビルの群れのあいだを通り過ぎ、十字路を曲がる。

 すると彼らがたどり着いたのはこれまで以上の規模の人が賑わう地。すなわちシリウスが告げていた繁華街で、しばらく従業員を見続けていると彼が言っていた通りの場所であることも分かった。

 仕事の種類は豊富で、そこで行われている対応は様々なのだが、飲食店ならば調理の仕方。宝石店ならば商品の進め方。八百屋ならば商品の並べ方が色濃く、一ミリのずれもなく繰り返される動作の連続は、戦士ではない人間では中々難しい領域に到達していた。


「あ、あの!」

「どうしたルティス?」

「その…………あの人から、とても禍々しい空気が出ています」

「なんだと?」


 そんな繁華街の様子を延々と見続け、時折ロボットであることを示すため近づき写真を撮ったりする一行であるが、そんな中でルティスが告げた内容を聞いた瞬間、表情を真剣なものに変える。


「……感謝する。どれだ?」

「今大きな店と店の隙間に入っていった人物です!」

「デカい通りを嫌って狭い道に入った。もしくはただの偶然。まぁ色々と理由はあるが、怪しむきっかけとしては十分だな」


 さてさて、実のところ男性陣は自分らの身に火の粉が降りかからないかどうかには気を配っていたが、町行く人らの表情にまでは気を配っていなかった。言うなれば相応に観光気分に浸っており、そんな中でルティスがした指摘は心底ありがたいものであった。


「行こうか」

「バレないよう距離はしっかりと取ったうえでな。安心しろ。米粒だろうがオレの目は逃さねぇよ」

「…………問題があれば瞬間移動で飛ぶ。短距離ならば、面倒な規制にも引っかかりにくいはずだ」

「その認識であっているよゼオス君」

「み、皆さんすごいですね。私、すごく緊張してるんですけど」


 ただそれがバレると少々恥ずかしいので、男性陣は必要以上に真剣な空気を纏い、幸いなことにその試みはある程度通じた。

 最も相手は見ている存在の胸中を探ることができるルティスなのだ。完璧に隠しきれたというわけではなく、少々話を合わされたところはあったのだが。


 とはいえ仕事の空気に戻ることができた四人は物音ひとつ立てずに一気に距離を詰め、裏路地へと侵入を開始。


(まだいるか?)

(はい。あ、今もっと狭い通路に入りました!)


 念話で会話をしながら後を追い、未来都市の薄暗い世界の奥へ。


(あれは?)

(ドワーフと言われる種族だな。ものづくりに非常に秀でている)

(それはわかるんッスよ。そうじゃなくてどこかで見た覚えがあるんだが…………)


 なんの変哲もない、どこにでもあるスーツに身を包んだ追跡対象はその奥で別の人物と出会うのだが、禿げあがった頭頂部に小さな体。それに対し髭だらけの老年らしき顔をした人物はシリウスが告げた通りの種族の人物で、彼らを象徴するように煤だらけの作業着を着こんでいた。


 問題は、その後に訪れる。


(……どうやらこの訪問。少なくとも何らかの秘密を握ることには成功したようだな)


 続いて現れた人物。

 それは黒いスーツにサングラスをした堅気とは異なる空気を纏った男。

 つい先日ゼオスと康太が出会った『裏世界』の人間であった。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


思うに四章の特徴の一つは三章までと比較した場合の展開の速さにある気がします。

そんなことを思わせる今回の話。ここでこれまでは関わってこなかった種族の登場です。


彼らがどのように関わって来るかは、次回以降で


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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