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未来都市『ガノ』 二頁目


 何をもって『最先端』とするか。人々が迎える『未来』の形とするか。この問いは実に難しい。


 他では実現不可能な超技術こそ『最先端』であると唱える者がいるだろう。

 乗用車や電車などの移動手段のバージョンアップこそ『最先端』であると言う者もいるだろう。

 他にも様々な形で、人々は『最先端』、すなわち望む『未来』を思い浮かべるはずだ。


 それに対する未来都市『ガノ』とこの地を収めるG・ゼノン家の答え。

 それは『より快適な生活の追及』。言うなれば『手間暇を減らし、楽をすることの特化』である。


 『戦い、強くなることこそ至上の命題である』

 神の座イグドラシルはそのような考えを世界中に浸透させ、その思いが実現する世界を作り出した。結果この星に住む人々の根底には、それに準ずるDNAのような物が生まれたと言っていいだろう。 

 しかしである、神教設立よりも遥かに前から、この星のみならず多くの星の人間の肉体に刻まれている習性がある。


 端的に言ってしまえばそれは、『人間という生物は面倒ごとを嫌う』というものである。


 言い争いや議論などに限らない。

 料理に関しても、かける金額は同じ。手間暇をかければ絶品の料理ができるとわかっていても、簡単に作れることやまずまずの味で満足する。ないし妥協してしまう。

 洗濯や食器洗いなどの日常的な仕事も、科学を迎え入れ徐々に全自動化していった。

 車や電車を筆頭とした移動手段の開発などその最たるもので、軽く走ったほうが断然早いとわかっていても、利便性を筆頭とした様々な理由でそれを避ける者達が存在する。

 いや、ことは科学の有無だけにはとどまらないだろう。

 属性粒子の追及。能力の開発。神の座イグドラシルが支配していた世界では、それ等の大半は強さの追及に使われていた。

 それは賢教の時代においてももちろん当てはまるのだが、便利な生活を送るため、日々研鑽していた面も間違いなくあった。


「一番身近もので言うならそうだな…………私たちの前にいるあの人は、決まった範囲の掃除を時間一杯行う責務を背負っているんだがね」

「は、はい」

「実は彼はそのあたりに関するプログラムを全て撃ち込まれたアンドロイドなんだ。だから彼は誰の指示もなく落ちてるゴミを黙々と広い、伸びてきた草を刈るという作業を一年中やっている。他にも様々な作業をたった一人でできるアンドロイドが、この未来都市には存在してる」

「うぉ、すげぇ! 手首が外れて丸鋸が出てきやがった!?」

「ここの情報は本当に極秘なものばかりでね。こうやって好き勝手話せて、色々なリアクションを取ってくれるのは、私としても見ていて楽しいよ」


 楽をするという事柄を極める。それによる新たなる時代の創成。

 それがG・ゼノン家の抱える命題であり、その手段として指令を与えれば全自動で動く労働力。すなわち『ロボット』を選んだのだとシリウスは説明。ルティスや康太の反応を見つめ顔を綻ばせる。


「…………最先端とは言うが、それは見た目の話か? 単純作業だけならば、既に人型ではなくとも機械に任せている場所もあると聞くが?」

「まさか。ここから見える巨大な十字路があるだろう。先ほども似たことを言ったが、そこで窮屈そうに歩いている人型の大半はね、細かい指令をされた上で、商談に挑むように設定されたアンドロイドだよ」

「…………俺が思っているより広い範囲の事ができるという事か。なるほど、確かにそれは極秘情報だな」


 続く問いに対してもシリウスはさも当然と言うように答えるが、そこでこの都市の様々な情報が極秘扱いな理由をゼオスは正確に理解した。


 あらゆることが可能な人型ロボットというのは、確かに便利な存在だ。

 がしかし、これに関する情報が拡散され、結果的に別のどこかが同様に作り上げ社会に投入した場合。待っているのは役目を追われた多くの社会人の雇用の喪失のはずだ。


 そうなれば世界中に行き先を失った人らが溢れ出し、残された数少ない椅子を暴力によって奪い合うのは想像できる。

 その波の影響がより大きな枠組み、すなわちギルドに貴族衆、そして賢教や神教にまで届けば、ミレニアムやガーディアの時とは別の形で、大きな戦いが起こることも考えられる。


 最も、そこまで深く考えず市場の独占を狙っている可能性も十分にあったのだが、それについては口にしなかった。

 不用意な火の粉をあたりに飛ばさない、この辺りについてここ最近ゼオスは学んだのだ。


「さてと、色々と聞いてたオレが取り仕切るのもおかしな話なんだが、これからどうするシリウスさん? 確か当主であるバークバクさんに対する聴取…………いや会合の機会は、まだ取り付けられてないんだろ?」


 とここで、内部に入ってから延々と外周を歩いていた四人は足を止めた。

 そこにあったのは向き合って座れるのにおあつらえ向けの二台の細長いベンチで、一方に康太とゼオスが。もう一方にシリウスとルティスが肩を並べて座り、此度の訪問における最大の目的に触れる。


「残念ながらね。しかしだ、少々小ズルい自覚はあるが、今回は事が事だから『六大貴族当主』の看板を大いに活用させてもらった。生きてきた年数、老獪さ、そして何より当主としての手腕。そのどれにおいても彼は私を遥かに凌駕するが、これならば無下には扱えまい」

「ですけどどのタイミングで返事が来るのかまではわからないんですよね?」

「早急に返事を、とは付け加えたので遅くはならないだろうがね。それだけは不安点だな」


 シリウスの対応に関して康太やゼオスに不満はない。ただやはりどれほどの時間がかかるのか不鮮明な点は、康太の頭を悩ませる。


「……調査でもすればいいだろう。当主の座に会って話をすることが最も重要な点であるにしても、他にも調べることはいくらでもあるはずだ。内部に入れた今ならば、それが自由にできる」

「そりゃそうなんだが、あっちはあっちで心配だろ。オレとお前が抜けたって、結構問題だぞ?」

「……それだけこちらの情報に期待しているという事だ。それに、土産話を作ると思えば十分な価値があるはずだ」

「アイツらにする土産話を募っても、あっちが無事じゃなけりゃ意味ねぇだろ」


 対するゼオスの返事は見方によっては楽観的にも思えるもので、隣に座る康太の口ぶりや声色には、自然と棘が混ざる。


「……ヘルス・アラモードもいるし、奴らはお前が心配するほど軟弱ではない。それに土産話の相手はあいつらじゃない。アビス・フォンデュだ」

「なに?」

「……中々得られない情報を話してやれば相応に喜ぶのではないか?」

「……………………お前、無駄に交渉事が巧くなってきやがってるな」


 だがゼオスの言葉に込められた信頼の念。そして鼻で笑って捨て去りにくい提案を出せば康太も即断することはできず、


「わかったよ。ただ実際に向かうかどうかは、毎日行う定期連絡を聞いた結果決めるからな。異論はねぇな?」

「……問題ない」


 最大限譲歩した提案を聞き、ゼオスは頷いた。


(あの、シリウスさん)

(どうしたんだいルティス君)

(ここで得た色々な情報って、外で話してもいいんですか?)

(無論ダメだ)


 そのような話を肩を並べながらしている康太とゼオス。

 その光景を真正面から見据え、シリウスとルティスはそんな念話をしていた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


引き続きガノ編となります。

この場で一応言っておきますと、作品内であげた例が完璧だとは作者も思っていません。

そーいう考え方もあるのね、なんていう風に見ていただければ幸いです。


さて序盤は終わり次回からは中盤戦。

サクサクと話を進めていきましょう!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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