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未来都市『ガノ』 一頁目


「……ここが未来都市か」

「透明のドームに包まれた大都市って感じだが、明確な他との違いまでは分からねぇな」


 時は遡り康太とゼオスが蒼野や積と別れて数分後、シリウスとルティスを連れ、彼らは目的地である未来都市『ガノ』の前にいた。

 整備された石畳の地面を踏む彼らの前には外部への情報規制を極限まで高めた未来都市唯一の入り口があるのだが、そこから見上げた都市の様子を目にした康太の感想に込められている熱量は、さほど強烈なものではない。


 見上げた彼らの視界に映ったのは透明のガラスらしきものに保護された内部の様子なのだが、そこから見える光景は確かに圧巻だ。

 空を突くような摩天楼が聳え立っているが、その表面の材質は外から見るだけでガラスや鉄とは違う未知の物質であることが把握でき、極限まで磨かれたそれらは、太陽の光を反射し七色に輝いている。

 その周りには空を走る電車のため、光属性を固めたらしきレールが無数に敷かれており、他にも至る所に存在する空飛ぶ巨大な板の上に、豪邸らしき建物が作られている。


 がしかし、それ以上のものはない。

 事前に康太やゼオスが想像していた発展具合は目にしているものを遥かに上回るものであり、それこそ一目見ただけではわからない謎の物体が視界に飛び込んでくるものかと思っていたのだ。それと比較すると、現実の範疇に収まっているこの光景には少々の失望さえ感じてしまう。


「なんか肩透かしだな。それともあれか? 目に見えない形ですごい発展が進んでるってことなのかね?」

「……どういう事だ」

「パソコンやらを筆頭に、情報処理能力の有無ってのは結構でかいじゃねぇか。そういう目に見えない面が優れてるって話さ。それならよ、外からじゃわからなくてもおかしくないだろ?」


 言いながら康太が視線を向けた先には銀の長髪を蓄えた絶世の美女が居り、その視線の意味を異能『読心術』によりすぐに理解したダイダス家の時期当主ルティスは、申し訳なさそうに首を横に振った。


「実は、前々から招待状は届いていたのですが、中に入るのは私も初めてなんです。ですからその、この時点でお役に立つことは何も…………」

「っと、そうだったのか。悪いな」


 俯き、綺麗に整備された石畳の地面をジッと見つめながら、沈んだ声で謝罪を行うルティス。

 それを見た康太が頭を掻き毟りながら謝罪を行うと、彼らを包み込む空気は重いものになっていく。


「となると内部の様子について知っているのは私だけか。これは責任重大だな」


 ここで声を上げたのはそれまで状況を見守っていたシリウスで、本当に僅かな差ではあるが最年長の彼は穏やかな笑みを浮かべながら声を上げ、三人の視線が注がれる。


「康太君の期待にすぐに応えられないのは申し訳ないがね、まあ中に入ってからの楽しみにしておくのがいいだろう。少なくとも、理解をすれば相応の驚きがあることは保証するよ」


 続けて明るい声でそう話しながらウインクをすると場の空気が和らぎ、それを見届けた彼はいの一番に先へと進み持っている通行証を提示。やって来た人物が若きノスウェル家の長であることがわかるとグレーの制服に身を包んだ警備員らしき人物は慌てた様子で敬礼を行い、その様子を見てクスリとした笑みがルティスと康太の顔に浮かんだ。


「……俺が行こう」


 続けてやって来たゼオスに対するリアクションは、シュバルツ・シャークス討伐の功労者ということもあり少々どころではなく驚いた様子を示し、続いてやって来た康太とルティスに対しても同じように動揺。


「これが未来都市『ガノ』の内部か」

「思ったほどの驚きはありませんね……」


 その姿を前にさらなる面白さを感じたルティスと康太に先ほどまでのギクシャクとした様子はなく、彼らは順に内部へと入ることができたのだが、抱いた感想自体に変わりはない。


 綺麗に整備された芝生に汚れ一つ見当たらない道路標識や建物が目に飛び込み、他所では感じられないほどの清潔感には少々の驚きを抱くが、それ以上のものは外から見た時と同じく感じられない。

 無論空飛ぶ豪邸には驚くし、中に入ってすぐに目に飛び込んできたビジネスマンらしき人の数には驚きはするのだが、やはり康太やゼオスの想像を超えることはなかった。


「あ、あれ?」

「ん、どうしたルティスちゃん」


 しかしこの時点で彼らが驚くべき事態は既に起きており、その事実に最初に気が付いたのはルティスであった。

 彼女は自分の頭を小さくて皴や染み一つない綺麗な掌で包むと、初めて起こった事実に困惑するような声を上げる。


「あ、驚かせてすいません。大丈夫ではあるんですけど、ちょっと気になっちゃって」

「……気になる?」

「はい。私の異能って、よっぽど内心を隠すことが巧かったり、何らかの能力を使っている人以外は、その身に纏うオーラの形と文字になって透けて見えるんです。この辺りはお二人とも知ってらっしゃりますよね?」

「まぁ、そりゃな」

「ですけど…………ここにいる人達はそれが巧い人が多いなって」

「……つまり、見えない連中が多いのか?」


 続けて事情を説明した結果をゼオスがまとめるとルティスは頷き、それならばこの場所が他とは違うという事にも納得できた。

 『読心術』などそう易々とできるものではない。それを軽々と行える人間がそれだけ多く集まっているという事実は、確かに驚くべき事実であった。


「…………いや待て。なんかこいつらおかしくねぇか?」

「……康太?」


 しかし続く康太の発言が、事態がゼオスの想定を大幅に上回る状況であることを物語る。

 狙撃手として類まれなる動体視力を持つ彼は、ただの人ならば持っているはずのないものを町行くビジネスマンが備えていることに気が付いたのだ。


 彼らが体の至る所に、見えにくくしてはいるものの確かに持っているもの。

 それは無数のネジだ。

 それこそ頭部にまでネジを止めたような跡があるのだ。


 そこに先ほどルティスが投げかけた情報を合わせ答えに同時に辿り着いた時、康太とゼオスは思わず顔を見合わせ、


「え? え? どうしたんですかお二人とも?」

「気づいたか。ならルティス君のためにも答え合わせをしよう。君たちの予想は当たっている。この場所にいる九割以上の者達。その正体は人を模して造られたロボット――――――端的に言ってしまえばアンドロイドなんだ」


 正答であることを示すよう、そう口にした。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


皆様お待たせしました。積達が切り拓く『裏世界』編の裏側。

ゼオスと康太が仲間を連れ動く『未来都市』編の開幕です!

早速説明されたこの都市の特異性、次回はそちらに迫りながら話を進めていければと思います!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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