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ギルド『ウォーグレン』と『才能育成都市』 五頁目


 蒼野と優が襲撃者と対峙する一方で夜闇を斬り裂くように『白』が空に帯を描いていた。

 それは空を見上げている誰にも正体を知られることなく、広大な『才能育成都市』全体を動き続けており、ほんの一秒ほどで夜空に真っ白な線が十本二十本と増えていく。


「本当に置いていってよかったのか? ここの子供たちは結構強い奴が多いんだぞ?」

「たとえそうだとしてもあいつらは負けねぇよ。俺たちがどれだけの場数を踏んだと思ってんだ」

「なるほど。確かにそう、だ!」


 凄まじい速度で移動するその物体の正体は、光の属性粒子が雷の属性粒子に混ざったことにより速度面が強化されたヘルス・アラモードであり、脇に抱えている積の発言を聞き、僅かに残っていた迷いを断ち、移動に対しさらに意識を注ぐ。


「待て。あそこに怪しい奴がいる。近づいてくれ」

「あいよ!」


 それほどの速度に揺らされながらも積の瞳はしっかりと周囲を捉えており、真下にいる人影一つ一つを事細かに確認していく。すると彼が目に留めたのは、誰もいない公園の滑り台の上で、右目を右掌で抑えて芋虫のように丸まっている、自身とさほど年齢が離れていないセーラー服の少女である。

 気になるのは手で隠している右目から延々と垂れてきている赤い液体と荒い呼吸で、必死の形相も相まってこの件に関わりがないにしても凄まじく怪しい少女へと向けヘルスは急降下。

 音は置き去りにすれど白い帯まではかき消せないため少女の視線はヘルスへと向き、かと思えば自分の真正面にまで迫って来た積へと慌てた様子で移動。


「おい、お前大丈夫なのかそれ?」


 やや高圧的に見下ろすような構図で体を丸めている少女へと話しかける積。すると変化はすぐに訪れた。

 移動しながらも通信機越しに聞いていた不可視の脅威の形。『捩じって、圧縮して、潰す』というⅢ動作が、自分の体に襲い掛かったのだ。


「おおっとっ!?」

「サンキューヘルスさん」

「期待してくれてたんだろうけど先に合図くらい欲しかったな。き、肝が冷えた!」

「え? え?」


 発生と同時にそれを潰したのはヘルスが掌に纏った『青』の雷だ。

 神器と同じ『あらゆる能力を無効化する特権』を持つそれは、僅かにだが捩じられかけていた積の左腕に触れるだけでその効果を発揮し、危機的状況を瞬く間に救ったのだ。


「…………」

「ひっ!?」


 さて、今の積の服装や髪型は善の装いを真似ている状態だ。

 となればワックスで固めたガチガチの髪の毛に黒い学ラン。そしてサングラスから解き放たれた鋭い瞳は相手を畏怖させる武器となり、その効果を示すように右目から掌を外した少女は勢いよく後ずさり、滑り台から落下。


「手間が省けたな!」

「…………まぁ、荒事にならず済んだのなら御の字ってとこか」


 打ち所が悪かったのか目を回しながら意識を失い、その姿を滑り台の飢えから見届けヘルスと積の二人はなんとも言えない顔をした。


「ん?」

「これは…………」


 彼らにとって思わぬ変化が起きたのはそのタイミングだ。

 気絶した少女の胸から、夜闇をはじき返すほど強烈な光を放つ虹色の球体が現れたのだ。

 それにより思わず目元を覆う積とヘルス。


『積』

「蒼野か!」

『ああ。今襲撃者を鎮静化させたんだが、そしたらいきなり虹色の球体が出たんだ。何かなと思って触ってみようとしたら霧散しちまって…………面目ない!』

「いや、無事ならそれで十分だ。ひとまず優の援護に向かってくれ。そっちも大丈夫そうなら合流だ」

『…………わかった』


 そのタイミングで入った通信を聞き、明確な根拠こそなかったものの彼は確信した。

 今、自分の目の前に浮かんでいる物体。

 これこそがシロバ襲撃やゼオスの抱いた違和感、他にも様々な騒動に大きく関わる『何か』であると。


 ゆえにその正体を探るべく彼は踏みしめるように地面を歩きながら虚空へと向け手を伸ばし――――


「! あぶねぇ!」


 虹色に輝く謎の球体。それに伸ばした右腕の先が触れようとしたその瞬間、ヘルスが勢いよく彼の体を引く。


「ゴホッゴホッ…………なん、だ一体!」


 思わぬ出来事ゆえに咳き込み困惑する積であるが、喉に置いた右腕。すなわち先ほどまで球体へと向け伸ばしていた腕の肘から先が中ほどまで切り裂かれ、鮮血が滴り落ちるのを認識し事態を把握する。


 同時にヘルスが己が認識するよりも早く事態の急な変化に気が付いており、自分は今、九死に一生を得たのだとも理解。


「マジか…………」


 焦燥感を募らせた声を上げるヘルスに従うように同じ方角に首を向けると、そこにいるのは襟首を立てた黒いコートで足元までを隠した、髪の毛を短く切りそろえた一人の男。

 彼はヘルスの声を聞くと彼方へと向けていた視線を二人へと移動させ、すると瞳孔が縦に切れた翡翠色の瞳が晒される。


 そんなこの男の正体を積とヘルスは知っている。


「『裏世界』の…………死神!」


 二度目の突入を行うにあたり優が調べた『裏世界』の危険人物。

 中でも特に際立つ五人を彼女は説明したのだが、その中で『最も強く、最も危険』と強調されていた存在。


 そんな男が今、二人の前に突如現れたのだ。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


蒼野&優サイドから移動し積&ヘルスサイドへと移行。

追っていた標的の対処は早々に、二人の物語は此度の話の核へと迫ります


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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