ヘルス・アラモードと『ギルド『ウォーグレン』 二頁目
顔の輪郭まで隠せる、能面を想像させる白を基調とした仮面を被り、安物の黒いフードで全身を包んだ一行。
彼らは目的地へと続く通路を慌てた様子もなく歩き、数分したところで抜けきるのだが、ヘルスを除いた三人は、露わとなった目的地の光景を前に息を吐いた。
「資料で前もって確認はしたけど、これは凄いな」
彼らの視界を埋め尽くしたのは、お椀状に切り拓かれた土地を埋め尽くすように広がっている白い霧である。
それは数メートル先の光景を朧げにするほどのぶ厚さを伴っており、住民たちの支えとなるようにガス灯の光が至る所に点在している。
建物に関しては先日見たような鋼鉄で作られたようなものではなく、レンガやコンクリートを固めて作られたものが多く、全体的に寒色よりの色合いのため、町全体に暗い影を落としていた。
「外はまだ十時にもなってないのに、こっちは深夜みたいに暗いのね。前行ったところとは大違いだわ」
「町を覆う背景は各々の町が好き勝手に決めていいことになっててな、ここの場合は静謐かつ秘密主義かつ威圧感を醸し出す空気を纏わせるために、二十四時間ずっと夜にしてるんだ」
『巨大な墓地のように重苦しい場所』という感想を胸中に抱いていた優であるが、ヘルスの言葉を聞き、先導する彼について行き町の中に入れば、彼の言っていることもよく理解できた。
確かにこの場所は優の思った通り重苦しい場所であるのだが、濃霧に包まれたからといって町としての機能が死んでいるわけではないのだ。
外を歩く主婦の人々に活気の色はなくとも落ち込んだ様子はなく、数メートル先をはっきりと見通すことができない町の中にも関わらず、子供たちは外で走り回っていたりしている。
ただ事故を恐れてかこの場所には車や電車の類はない様子で、人々は移動に関する文明の利器を使えないようにはなっていた。
「市長にあたる人物が望むような世界を自治区に描けるのか。で、エリア間の移動も大変だけど可能だと。そう思うとあれだな。なんというか、ワクワクするな」
「……おっと、それは人前では言わないようにしろよ蒼野君。一発で外部の人だとバレて、ひと騒動起こすことになる」
仮面の奥で顔を綻ばせる蒼野は、外の世界以上に様々な特色がある『裏世界』の実情を昨日調べた情報と、今しがた歩いている現地の様子を見てそう呟くのだが、それを耳にするとヘルスは周囲をしっかりと見渡した後、らしくもなく厳しい声でそう呟いた。
「どういうことだ。その意見に不都合があるのか?」
「あぁ。ものすっごい不都合な言葉だ。そうだな。一つ『裏世界』の常識として知っておいてほしいんだが、十代くらいの若者なら別だが、中年以降の連中に対して今の言葉は言わない方がいい」
「だからどうしてなんだよ!」
再び念押しするようにヘルスが言うと、康太が少々イラつきを覚えた様子を示すのだが、対するヘルスの声に普段の怯えはない。真剣そのものだ。
「簡単さ。『裏世界』は確かに広い。けどさ、どこまで広げて特色を出しても、それは限られた閉塞した世界の範疇なんだ。年をとればとるほど、その事実を嫌う人が増える。噛み砕いて言うなら、オープンワールドのゲームと、それ以外の差ってところかな」
続けてヘルスが言う例は、いうなれば行動できる範囲に関する話題であった。
地上には道路や海、それに空があり行く手を阻む事がある。けれどそれは、個々人が努力すればどうすることもできる障害だ。だから人はそのための努力を行い、自由を得る。
が『裏世界』にそんな自由はないとヘルスは断言する。
ここに住む人らは自分らの住むエリアから出るだけでも相応の準備が必要だし、エリアを分ける道は、広いとはいえ閉塞感を覚える通路だけである。
そこに不満を持つものらが、自分らが住む世界を前に『ワクワクする』などと言う意見を言うはずがない、というのがヘルスの警告の意味であった。
「まぁタブーに関しては色々教えるとして、そこまで不安を覚える必要はない。なにせ」
「上機嫌に話してくれるのはいいんだけどよ、一つ確認だ。お前さん、ずいぶんと詳しげに『裏世界』に関して話すじゃないか。そりゃ一体どういう意味で?」
それを受けながらも積は疑問を投げつけ、仮面の奥の声がはっきりと答えるのだ。
「俺にとって『裏世界』は歩きなれた庭に等しいってことさ」
彼らにとって、あまりにも都合が良い戦士であるということを
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
遅くなってしまい申し訳ありません。そして今回も文量が少なくて申し訳ない。
本来なら町の様子だけでなく本題まで入る予定だったのですが、少々体調を崩してしまいました。
本編とは関係ない内容になってしまうのですが、昨今は朝夜とお昼の温度差が不安定で大変なので、皆様もお気をつけいただければと思っております。
早めに治していつも通りの量を執筆できればと思っているので、少々気長に待っていただければと思います。
次回はこの町に来た本来の目的に入ります。お楽しみに!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




