命の炎 二頁目
「だから何度言わせるつもりだ! この中で! 事件が起きてるつってんだよ!」
「そう言われましても。我々もここをそう易々と通すわけにはいかないものでして」
「落ち着け康太。怒鳴ったところで、こいつらは通しちゃくれねぇ」
周囲に何もない砂漠に存在する漆黒の壁を前にして、康太が吼える。
彼らが今現在いるのは、蒼野とゼオスがしのぎを削っている最果ての望郷の数少ない出入り口。
その場所で怒鳴り散らす康太を先頭に背後に善に優、そして聖野が控え、ラスタリアの兵士数名が彼らと共にいた。
「こうなりゃ力づくで!」
蒼野の反応がある内部へ入るため、上下共に泥で汚れた服を着る門番の男性と話をしていた一行であったが、内部へ入ることは許されず足止め。
そこで数分程交渉をしていた結果、痺れを切らした康太が舌打ちしながら銃を取りだそうしたのが現状だ。
「やめときなさい類人猿。アンタ入る方法を自ら潰すつもり?」
独立国家にはそれぞれの法があるのだが、黒い壁に覆われたこの町は作られた経緯から部外者が中に入るという行為に特に厳しく、『有事の際以外の入国』は誰一人として許さない程の徹底ぶりだ。
これを破った場合に待っているのは勢力同士の大問題で、それがわかっているからこそ優は無理矢理飛びこみたいのを必死に堪え、康太を静止し、最も頼りになる人物に視線を送った。
「ここで動かなけりゃ、蒼野が死ぬかもしれねぇんだぞ!」
「そんな事わかってるわ。みんな気持ちは同じよ。だからこそ中途半端なことはやめなさいって言ってんのよ」
「あ?」
優の言葉に首を傾げる康太だが、善の纏う空気を認識し手を引っ込める。
全員の気持ちが一致しており、なおかつ障害は明確。
ならば取るべき手段は限定されている。
「何とかならねぇか?」
とはいえ、何もなく通してくれればそれが一番良い。
なので善が自身の素性を明かし話しかけるが、門番の男は権力や立場というものにも一切屈せず、首を横に振った。
「ならんな。一つとして例外は許されん」
「そうかい」
その言葉を聞き善が息を吐く。
職務に忠実で権力にも屈することはない。自分たちのギルドの用心棒にしたいくらいの人材だ。
そんな事を考えながらもこの状況を打破するべく策の準備はどうかと意識を自身の耳元に移した所で、
「なっ!」
「善さんあれ!」
空高くへと紫紺の炎が舞い上がると、その場にいた全員がそれを確認した
「おいおい、こりゃこの国の入国条件に上がってる『有事の際』って奴じゃねぇのか?」
予想だにしない事態に巻き起こり全員の視線がそちらに向く。
そのままこの場で最も余裕のある善が空いた口が閉じられない男に話しかけると、男は目に見えるほど狼狽した様子を彼らの前に晒し、
「い、いやこれはだな…………その」
「なんだ、これでも入れねぇってのか? 廃禍が有事の際に外部の人間を呼ぶのは、中に保管している、数えるのも馬鹿らしいほどの危険物に悪影響を与えないためだろう? 俺らに任せりゃ、その願いは叶うぞ?」
「その…………だな」
善が冷静に『廃禍にとって最善の提案』をすると、垢まみれの男の額から冷や汗が流れる。
そのまま彼はどうするべきかと顔を青くしながら迷い続け、
「ひ、ひとまず長に聞いてみる。ここで、しばらく待っていてくれ」
そう言いながら、黒い壁の奥へと走りだす。
「おいおい、内部はかなりやばい状況だ。ひとまず俺や他数名も着いて行くから、入場後の対応もその長に聞いてくれよ」
「え!?」
慌ただしく中へ入り扉を閉めようとした門番の男であるが、気が付けば原口善は三人の部下を抱えたまま彼の背後に存在し、廃禍の中に侵入、
その姿に、彼は息を呑んだ。
「ここが廃禍。何というか……すごい場所ね」
その後入ってすぐに見た光景を前に、優が声をあげる。
ところ構わず積み立てられた、用途不明なものや見知った家電の残骸。
それらが巨大な山を作り、周囲にある扉も存在しない形だけの家の中では、人々が思い思いに暮らしていた。
ある者は壊れた機械の修理に勤しんでおり、ある者は夜と言うには少し早い時間にも関わらず仲間達と酒を飲み顔を赤くしている。
またある者は両手を合わせ、空に向かって何事かを呟きながら、お祈りをしている。
そのように様々な人々が存在しているが、それらの人々は全員部外者である康太達を避けながら動く点だけは一致していた。
「大体の方角はわかるか?」
「はい、ここから北西の方角に進んだところにいるはずですよ善さん」
「なら、そこまで邪魔なものをぶっ壊しながら進んで行きゃいいんだな」
「ちょ、ちょっと待ってくれあんた達!」
康太の言葉に善が咥えていた花火を握りつぶす。
とそこで彼らの存在を無視していた住人たちの視線が突如彼らの注がれ、慌てた様子で門番の男が彼らの前に出る。
「待て待て。そりゃダメだ!」
「大丈夫です、ご迷惑はおかけしません」
「いやさっきそこの男も言ったじゃないか。ここは危険物の宝庫なんだよ!そんなところで好き勝手に動かれると困るんだ! いつどこで危険物が爆発するか、わかったもんじゃねぇ!」
門番の男の指摘は最もなものであるが、入りさえしてしまえば障害はない。
なので善は襲い掛かってくるのならば住民全員を相手にするほどに意思を固めながら、反応があった場所へと向け一歩踏み出し、
「ならば、わしが目的地まで案内してしんぜよう」
「え?」
その時、そんな彼の真横に一人の老人が現れる。
「なんだこのおっさん?」
目を隠す程まで伸びた真っ白な眉毛に、地面を引きずるほどの長さの白髪。ゲゼル同様仙人のような空気を纏った老人は、泥で汚れたブルーシートを全身に巻くというみすぼらしい格好で彼らの前に現れたのだ。
「ほっほっほっほ、この場所に堂々と乗り込んで来るお客人は久しいの」
「善さん?」
「……まああれだ。何にせよ嘘はついてねぇってのはわかる。ぜひ案内してくれ」
「おいおいマジか」
粒子の流れが見えるため善は相手が嘘をついたかどうかが瞬時にわかる。
しかしそうではない康太や優は驚いた様子で善を眺めるが、そんな彼らに対し善は大丈夫とだけ答える。
「一つだけあんたに聞きたい。さっきの門番に限らずこの国の人たちは俺達に対してかなり冷たい。何に何故俺達に同行してくれる」
とはいえ安全を確保したい気持ちは善にもある。
なのでごまかしや偽りは許さない、そんな思いを視線に乗せて善は彼に対し話しかけ、それに対し老人は澄んだ瞳でじっと見返し、ニッコリと笑い、
「なあに、君たちと同じ理由じゃよ。わしもこの戦いが気になっておるんじゃ」
嘘偽りのない本音を語り、それから彼らは老人を先頭に先へと進み始めた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
今回は最終決戦前の善達の状況説明。
水を差すような話ではあるのですが、流石に完全放置はどうかと思い一話だけ使わせてもらいました。
さて! これにて物語は大詰め。
それに合わせて明日は連続投稿を行います!
最初の一話は午前中に何とか更新したいと思いますので、よろしくお願いします。




