シロバ・F・ファイザバードの告白 二頁目
シロバが自信満々に告げた名前。それを聞いた時、蒼野と康太、それにゼオスは首を捻った。全く知らなかったゆえである。
優はそこまで明確な反応ではなかったが、少なくとも詳しく知っている様子ではなく顔を曇らせ、積だけは「確か未来都市の――――」などと口にする。
「まぁそうだよなぁ」
その様子にシロバは苦笑する。
彼らの反応は想定していた範疇に収まっているものではあった。がしかし、もしこの様子をこの話の中心人物たる老人が見たのなら、どんな反応が返って来るのか容易に想像できたのだ。
「さて、名前を聞けば最低限予想できるかとは思うんだけど、バークバグさんはG・ゼノン家の当主だ。貴族衆全体で見ても結構なお年でね。長寿族を除けばダイダスの婆ちゃんと並ぶ最年長組だ」
「……その人が犯人だと? 証拠はあるのか?」
「声を聞いただけ、ってだけだ。申し訳ないね。だからその辺も含めて捜査の依頼をしたいわけだがどうかな?」
ただこのまま認識の不一致があるままでは不都合なため、シロバはベットに体を預けたまま、本当にざっくりとだが説明。
ゼオスは疑問を投げかけたかと思えば返事を聞き押し黙り、
「……一つだけ不安材料がある」
「なんだい?」
「……記憶操作を得意とする相手なのだろう? ならばその記憶自体が植え付けられた偽りの可能性があるのではないか?」
続けて当然の疑問を告げるのだが、それを聞きシロバは笑った。ここが病室であることも忘れ、腹を抱えて笑う。
「し、シロバさん!?」
「ごめんごめん! そりゃそうだ当たり前の疑問だ! けどさ、それはないと思うよ。だって」
「だって?」
「あんな嫌味ったらしいねちゃつく声、わざわざ偽の記憶に使うもんか! 僕が逆の立場なら、もっといい声を使う!」
続けてそんなことを言い切ると、シロバは康太とゼオスに神器を差し出すよう願い、ゼオスがそれに応えゲゼル・グレアの遺品を取り出す。
「ま、それでも一応確認しとこうかな。はい、これで良し。あれが植え付けられた偽の記憶なら、神器に触れることで砕ける。けどその様子はないから、まぁ本当の記憶だろうさ」
そうして差し出された神器に触れ、シロバは彼らが抱いていた疑問も振り払う。
「…………わかった。受けるぜシロバさん」
「そうか。それがありが――――」
差し出された依頼を受けることを決めたのと、部屋に続く扉が押し破られたのは同じタイミングで、激流の如く押し寄せる人波に困惑するシロバを尻目に、蒼野達五人は窓を破り安全圏に退避。
「ゼノン家に関する詳しい情報と、持ってるゲスト用の入国許可証二人分は後で送るよ!」
「「はい!」」
自由落下に身をまかせ、シロバの姿が上へ上へと移動していく直前、五人は彼のそんな言葉を聞いた。
「さて、幸か不幸かはわからんが、放ってはおけない依頼が増えたな」
「しかもこれ、あんまり放置できない類の依頼じゃない? あの時の戦いの記憶を奪うなんて、絶対に嫌なことにしか使わないわよ。さっさと対処しなくちゃ!」
五人がキャラバンへと戻ったのは窓から飛び降りたそのすぐ後。ゼオスの能力『時空門』によるものだ。
直後に一度お開きにした会議を再開するために席につくと、康太と優が口火を切る。
「それはそうなんだが、受けた以上はできるだけ力になるとして、とりあえず調べてみないか? 情報なしで動くのはつらい」
「頼む」
急いで話を進めようとする二人を宥めたのは蒼野で、積が頷くと側にあったノートパソコンを起動。
『ゼノン家』『未来都市』『バークバグ』と、ほんの数分のあいだに得た情報を一通り入力していく。
「なんというか」
「……微妙だな」
が、結果は芳しくない。
未来都市という場所が世界中の最先端技術を集めた場所であること。それを統治するのが話に出ていた貴族衆のゼノン家であることはわかったのだが、内部の情報に関しては驚くほど集まらなかった。
「どういうことだよこりゃ」
「未来都市に関してなら少しだけなら聞いたことがある。といってもネットで得られる程度の情報の延長線上だがな」
「延長線上? どういうことだ積?」
「『未来都市』って名前に『最先端技術』って単語を合わせたらわかるかもしれないが、ここには本当に世界中のありとあらゆる未知の技術が集められてるんだ。ただ、そういうのはやっぱ、一般公開できないだろ?」
「なるほど。だから外部からだと都市の内情に関しては、外側からは知れないってわけか」
「『入国許可証』なんて仰々しいものがあるのも、そのせいなのね」
「けどここまでわからないことだらけだと中々動けないな。シロバさんからの情報とアカウントの提供を待つとして、先に本筋の『裏世界』を進めて、動くのはちょっと後にするか?」
積は僅かに知っていることを話すがそれが内部に潜入する際に役立つ情報に繋がるわけではなく、優や蒼野が唸る。
「まぁ情報を待つのは当たり前だがな、後回しにはしねぇ。この二つに関しては並行して進める」
が、この場を取り仕切る積の考えは二人、いや康太やゼオスも含めた四人とは異なり、『待ち』の姿勢など微塵も見せない速攻戦を提唱。
「明日一日を情報収集に使う予定は変えねぇけど、明後日には両方の攻略に進むぞ」
「……リーダーはお前だ積。だが無理のある計画ならば付き合いきれん。詳細を示せ」
「康太とお前を未来都市に回す。で、残った面々で『裏世界』の攻略に動く」
堂々と自分の考えを説明するが、これに対しては康太が特に渋い顔をした。
「理屈さえ納得できるなら、どれだけ不平不満はあれど賛同するつもりだったんだがな、それには反対だな。シロバさんの案件に重点を置きたいのかもしれんが、『裏世界』に行くメンバーの中からオレを外すのは容認できねぇ。何が起こるかわからん野蛮な場所で、オレの直感無しはキツイだろ?」
直後の説明に関しては蒼野や優も同意できるものであり、非難の視線が積に向けられる。
だが積は動じない。自身の兄がしていたように、腕を組み、胸を張る。
「まずは勘違いを正そう。俺はシロバさんの依頼に重点を置いてるわけじゃねぇ。『裏世界』では神器が目立つっていう事情と戦力の均等な分配。ここらに関してはしっかり考えたつもりだ」
「……正気か? 言い方は悪いが、俺と康太の二人だけで残るお前らを打倒できる自信があるぞ?」
どころか一切の迷いなくそう言い切り、耳を疑った様子で反応するゼオスを前にしても意見を曲げない。
「そりゃ俺ら五人だけで分配した場合の話だろ。だから今度の『裏世界』訪問時にはこっちに援軍を加える」
「援軍って……それはやめた方がいいんじゃないのか?」
「この依頼をアタシ達の力で成し得たと世間に公表するなら、援軍はいない方がいいって話じゃなかったっけ?」
蒼野と優が誤りのない正答を口にしても微塵も揺るがず、
「そりゃ援軍が名の知れた人物の場合だ。表に出すことのできない類の奴を同伴させるくらいなら問題ない」
「そりゃそうかもしれないが、名前も知られてない奴で、そこまで強くて都合がいい人がいるのか?」
「……ガーディア=ウェルダは貸出中だぞ? ガーディア一行やアイリーン・プリンセスの四人は、死人扱いだから援軍としては期待できん」
「わかってるって。だがな、もう一人いるじゃないか。俺達に都合よく力を貸してくれるだろう、あほみたいに強い奴がな」
あらゆる意見を跳ねのけ、「秘策有り」とでもいうような策謀に満ちた笑みを浮かべた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です。
前回から続いたシロバの依頼に関してと今後の動きに関して。
未来都市の詳細についてはもうちょっとだけ引っ張ろうと思います。
そして話は今後の動きについて。
これから色々と変わってはいきますが、少なくとも次回の動きは今回の話で語った通りです。
さてさて、積が自信を持って言い切る援軍とは
そして彼らの動きの成果は
次回に続きます!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




