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ギルド『ウォーグレン』と『裏世界』 六頁目


 強さを求める理由は多種多様にして多岐にわたる。

 復讐をするため。生きのびるため。目標としている事柄を成し得るため。

 理由は人によって大きく違い、まさしく千差万別という言葉がふさわしいのだが、自身が強くなった瞬間を強く実感し、大半の者が悦に浸る瞬間がある。


「こ、こいつらっ!?」

「おいおいおいおい! ガキだと思ったがめちゃくちゃ強ぇじゃねぇか! 金額にあわねぇぞ!?」


 それが相手を一方的に蹂躙している瞬間であり、今蒼野と優が感じている高揚感の正体だ。


(視界が広い! 体が軽い! ちょっと前までと全然違う!)

(迫って来る攻撃が巣b手把握できるし、動きがゆっくりに見えるわね。ホント我が事ながら、遠い世界にきたもんだわ!)


 最前線を駆ける二人に迫る攻撃に手加減など微塵もなく、全てが全て、相手を仕留めるために本気であると把握できる。

 がしかし、先頭を走る蒼野と優は、その悉くを脅威とみなさない。

 一目見るだけで目にしている攻撃がどれほど厄介かを察知し、躱す、防ぐ、弾く、など最適な動作で対処する。

 驚くべきはその察知の範囲が単純な攻撃の危険度のみならず、触れてもいない正体不明の能力にまで及んでいる事であり、今の二人は、あらゆる攻撃の効果を触れるまでもなく野生動物のような嗅覚で嗅ぎ分け対処していた。


「優!」

「ええ。このまま一気に!」

「うごぉあ!?」


 先に感じた強敵らしき相手を前にしても刃の一振りで退けられる事実は、行っている本人にしても驚くべきことであり、黒鉄色の建物に挟まれた舗装された道を駆ける二人の顔には、数百人の敵に囲まれているにもかかわらず笑みが浮かぶ。


「俺達の苦難の日々は――――無駄じゃなかった!}


 数年ほど前と比べれば敵対者の生存にこだわらなくなった蒼野であるが、もちろん殺さずに済むならばその方がいいと思っている。

 ゆえにそれを成し得るだけの力を得られたのは存外の喜びで、発せられる言葉に籠る熱も優を上回っていた。


「おい!」

「おう! あとは頼むぜ!」


 とここで、彼らの順調な進行を防ぐように立つ影がある。

 その人物はトカゲを連想させる鱗で全身を覆い、その上から全身を守る銀の鎧を着た三メートル近い大男であり、『来いやぁ!』などと叫ぶと、両腕を持ち上げ威嚇する。


「優!」

「ええ!」


 よく見れば纏う気配が他とは違う、先ほど確認した強敵の一人であり、剣と鎌を持つ二人の腕に力が籠る。


「ん?」

「あら?」


 接触まであと一秒、ほんの一歩踏み込むだけで射程に入る。そのタイミングで同時に二人は感じ取った。仰々しい雰囲気で前に出たトカゲ男は、先制攻撃を仕掛けるようなそぶりを見せていない。

 言ってしまえば、ここまで多くの人らが藁のように吹きとばされている光景を見ているというのにおかしなことをしているのだ。


「風刃!」


 異変を敏感に察知し、それまでの者のように吹き飛ばすことを止めた蒼野が、剣に纏った風を不可視の斬撃として撃ち込む。

 それは数か月前とは異なる速さでトカゲ男に迫ると、着ている鎧を易々と砕き、その後ろにある右肩を浅く斬り裂く。


「!」

「蒼野!?」

「『呪い写し』とかその類の能力か? 自分に与えられた傷を相手にも与えるタイプだ!」


 直後に自分の肩を切り裂いた能力の正体を考察し、忌々しげな声が漏れる。

 がしかし、二人はこの厄介な能力者を相手にしても速度を緩めない。むしろたったの一歩で信じられないほどの加速を生み出し、二人の姿は二本の線に変貌。その急な速度の変化に、トカゲ男は反応しきれない。


「!?」

「封印術!! 暴乱封風!!」


 直後、蒼野がトカゲ男の体に触れ、そう叫ぶ。

 すると展開されたのは無数の風の帯を重ねて形成された先を見通すことができぬ球体。それは外部からの干渉を避けるように強烈な風を発し、周囲にいた面々を吹き飛ばしながら地面に触れ制止する。


「外部との隔離に関する効果を付与してある封印術よね。痛みとか精神的な不調はある?」

「ないな。やっぱその類の能力は苦手みたいだ!」


 そうして厄介な相手を退けた時には後ろから迫る追っ手の大半も振り切っており、残る連中とは真正面からぶつかるようなことはせず、軽くいなしながら町にまでたどり着く際に使った通路を進み、やって来た場所まであと一歩のところにたどり着く。


「あら? 上への扉が閉じてるわね?」

「そんな時はこいつの出番だな!」


 とここで、自分らを閉じ込めるためか、上へと通じる道を防ぐよう、分厚い鉄の蓋が二つ三つと閉じていく。それは大抵の者にとって舌打ちをしたくなる事態であるが、蒼野にとっては障害足りえない。


「時間回帰!」


 無機物の時間ならば一週間近く戻せる力を持つ蒼野が、己が力の真骨頂たる希少能力の名を唱え、青い縁を備えた半透明の丸時計がぶつかっていく。

 すると録画映像の逆再生の如く鉄の蓋は再び開き、


「貴様ら!」

「最初に会った黒服…………とは違う感じだな!」

「ええ。武器を持っていない。拳がメインかしら?」


 あとはできた道を登れば全て終わり。初の『裏世界』探索は、少々問題はあれど無事終了。というところで立ち塞がるのは、見覚えのある黒服とサングラスに身を包んだ、けれど少々容姿が違う男であった。

 彼は服の上からでもわかるほど体を鍛えており、顔に浮かんでいる出来物や角刈りに整えた髪の毛からして、体育会系の体自慢という様子であった。


「おっと!」

「これまでの相手とは違うわね!」


 その予想が正しいと示すように男の動きは機敏で、しっかりと二人を捉えた上で距離を詰め、勢いよく振り抜かれる拳は整備された床を軽々と砕いた。


「先に行くぞ。いいか蒼野?」

「ああ。少し厄介ではあるけど、この程度なら俺と優で十分だ」

「頼んだ」


 だがガーディア一派と戦い乗り越えた彼らからすれば十分に対処できるレベルであり、蒼のは打ち込まれる攻撃全てを手にしている刃のない剣で易々と捌き、その隙に康太、積の順番で上へ。


「ちぃ!」


 ここで、男が蒼野と優の前で掌を地面に置く。

 その姿にはこれまでと違う何らかの行為が秘められているのを感じ、二人はやや警戒の色を示すとこの時初めて足を止め、


「ふん!」

「え!?」

「いきなりだな!」


 次の瞬間、地面が隆起し大量の鋭い突起を蓄えた木の根が現れる。

 その勢いは数階建ての建物がすっぽり収まるほど巨大な通路を埋め尽くすほどの勢いで、しかし蒼野と優の二人は難なく躱し、生み出された植物の足場として脱出口へ。


「………………茨だと?」


 とここで、ゼオスが足を止める。

 このタイミングで行われた攻撃の姿。それを前に、頭の中で数日前の記憶が蘇る。


「ゼオス!」

「……すぐ行く」


 ただこのタイミングで行う適切な行為が何であるかと問われれば迷う必要は露ほどもなく、ゼオスは先に登った四人に着いて行くように、地上へとつながる道を進んでいった。



 こうして彼らの『裏世界』初訪問は終わりを迎えた。







ここまでご閲覧ありがとうございます

作者の宮田幸司です


蒼野と優の独断場回。

頭のおかしい強敵を超えた彼らは相応の強さを手に入れました。

ただの一般人相手には苦戦しない段階まで上がり、一角の強者相手にも戦えます。

まぁガーディアなどと比べたらね


そして最後にはゼオスが気になることに気が付いて終了。

次回は情報開示回。得た情報やらまだ語っていない情報をどんどん見ていきましょう


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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