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ギルド『ウォーグレン』と『裏世界』 五頁目


 突然起きた爆発の規模はとても狭い。

 よく育ったスイカ一つ分程度の小規模のもので、周りに与える余波もさしたるものではない。


「そ――――」

「蒼野!」


 とはいえそれは、周囲に与える被害に関する話である。

 当たり前であるが爆発の中心部となる一では爆音と閃光にふさわしいほどの威力が迸り、爆発に飲まれた仲間の安否を案じる声が彼らの口から漏れるのは当たり前のことであろう。


「――――いた! 人混みから少し離れた位置! そこに襲撃者がいる!」


 しかし完全に不意を突かれた奇襲と言えど、『裏世界』という場所が危険な土地であるということは、前評判の時点でわかっていた。

 ゆえに五人の若人はみな警戒の色を濃くしており、それは緊張から体を強張らせていた蒼野とて例外ではなく、いち早く犯人らしき人物を見定め、姿勢や表情に視線を頼りに考察を進める。


「使ってるのはボタンっぽい。それが風の壁に触れた瞬間に爆発した!」

「わかった」

「対処するわ!」


 いやそのような諸々の理由さえ、もしかしたら今の彼らには不要かもしれない。

 ほんの少し前まで彼らは、この星でも有数の強者と時には競い、時には肩を並べたのだ。今更一般人程度が行う奇襲を相手に、後れを取るはずもなかった。


 培われた経験を示すよう、まだ二十歳を超えていない五人が日常と非日常の切り替えを瞬きより遥かに早く行い、先頭を走る優が、突然の爆発で固まった人々の隙間をかき分け、飛び跳ねる。


「そ――――――」


 獲物を定めた狩人の動きに迷いはなく、手中から発した水属性粒子を、身の丈を超える水色の半透明の鎌に変える動きに乱れはない。


「こ!」


 指定された位置にまで瞬く間に駆け、大きく振りかぶった鎌を振り抜く。

 その先にいるのは頬にまっすぐな傷を負ったタレ目にメタボ寄りの腹をした中年男性だ。


「うごぉあ!?」


 浅葱色の羽織に黒いジーンズを履いた男の首に迫った切れ味を完全になくした刃が迫り、男が反応し回避行動に映るより早く直撃。優は首筋に刃が触れた瞬間に真横に振り抜かれるはずの鎌の軌道を真下に変え、勢いよく整備されたコンクリートの地面に叩きつけた。


「さーて、話を聞かせてっ!」


 そのまま事情聴取に移ろうと余裕のある笑みを浮かべ見下ろす優であるが、そんな彼女の胴体に衝撃が迸る。

 これまで戦った強敵らと比べれば遥かに劣り、さしたるダメージのない、しかしその場で踏ん張ることができない程度の衝撃に襲われた彼女は宙に浮かび、かと思えば足をほつれさせることもなく着地。


 再び行われた奇襲まがいの攻撃を前にして視線を上げれば、そこにいたのは自分よりも僅かに幼いであろう、グレーの学生服に身を包んだ少年の姿。


「……どういうことかしら?」


 自分より幼い少年にいきなり攻撃されることに対しての困惑はある。彼女目線ではその少年と接点がないのでなおさらだ。

 けれど優を本当の意味で困惑させたのは別の事情。

 すなわち今しがた現れた新しい襲撃者の姿を、先に自分らに攻撃を仕掛けた中年男性は鬱陶しげに見つめ舌打ちしている事実。つまり彼らは協力者ではないということだ。


「いやちょっと、ちょっとちょっと待って! どういう事よコレ!?」


 動揺はまだ続く。

 自分や仲間達を狙う敵意、その数が時を経るごとに増えていくのだ。しかもその速度は尋常ではない。ものの数秒で周囲にいる百人以上から敵意を注がれる。


「ゼオス、時空門で奴らが持ってるのを一つでも奪えるか?」

「……承知した」


 全く予期していなかった事態に対し、蒼野や康太はすぐに反撃できるよう己が得物に触れるのだが、そのタイミングで積は気が付く。自分らを狙う面々は敵意を向けてくる前に、持っている携帯端末を必ず眺めていると。

 なのでそれを奪い取るようにゼオスに言うと、彼はその期待にすぐさま応え、先の見えない黒い渦を展開。周辺にいる人の持っている物をすぐに奪い取った。


「懸賞金マーカー……なるほど、これがいきなり狙われ出した理由か!」


 すぐに画面をのぞき込めばそこは黒を基調とした簡素なつくりのサイトで、自分らの顔写真にいくつものゼロが並んだ数字が記されており、サイト名に間違いがないのならば、この『裏世界』に飛び込んでものの一時間ほどで、彼らは懸賞金首になっていることになる。


「……もしこれがお前や優の無駄な煽りのせいなら、俺は切れるが文句ないな?」

「流石にあれだけのことでここまでの面倒ごとになったとは思いたくねぇな!」


 彼らを囲う人の数は既に五百人を超えていた。

 いかに腕に自信があると言っても数を揃えられれば相応には苦戦する。

 それはもちろん避けたい事態であったし、そもそもの話としてこの初日の時点では目立つことは極力控えたかったのだ。


「退くぞ。今日はここまでだ」


 ならばそのような選択を選ぶことに躊躇はなく、積の発言に対し反論する者はいない。


「で、どうする? 条件付きでこの人数相手の逃げ切りは面倒だぞ」


 問題は『言うは易く行うは難き』この問題を、ハンデを背負った上でどう突破するか。より具体的に言うならば――――――彼らはこの状況を『神器』なしで乗り越えることを目指していたのだ。


「持ってる能力の強さで簡単に変わっちまうけど、見た感じ強い『気』を発してるのは両手の数で数えられるくらいだな」

「ならアタシとあんたの二人で一気にいけるわね。今回に限ってゼオスと康太の二人は見学してるよーに!」

「後ろは任せていい。好きなだけ暴れろ。できる事なら、二度と歯向かってこないくらいやれ」

「「了解!」」


 そのため普段ならば最前線に立つ康太とゼオスの二人を残る三人が挟み、号令を聞いた蒼野が風を、優が細長く伸ばした水を纏い、僅かにだが腰を屈め地面を歪ませ、周囲に舞う空気に自身の意識を乗せるよう脳内でイメージ。


「賞金は! 俺のものだぁ~~!」


 一番前に立つ男の下卑た声に合わせ、炎に雷。銃弾に刃に光線が入り乱れながら飛来し、


「「!!」」


 その全てを易々と覆し、蒼野と優の二人が破竹の勢いで駆け抜ける。


 それは、彼らが苦戦しいられる戦いの日々を乗り越え、こうして神の座を巡る戦いに身を置くことができるまでの強さを得た、何よりもわかりやすい『証』であった。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


一夜過ぎてしまい申し訳ありません。疲れと深酒の影響で眠ってしまいました。

そうそうないことだとは思うのですが、次からは気を付けていきたいと思います


さて本編では戦闘と共にまたも新しい情報が開示。この辺りについては地上に戻ってからですね

戦闘に関してはもう一話二話ほどお楽しみください


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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