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ギルド『ウォーグレン』と『裏世界』 三頁目


「……はぁ」

「康太?」

「どうしたのよ?」

「お前ら、いつでも戦えるようにしておけ。連中、無駄に血気盛んだ」


 向かってくる二人の黒服サングラスの姿勢は表向きは取り繕っているものの、危険察知の才を持つ康太からすれば実にわかりやすいものであった。

 突如頭上から降って来た五人に対し敵意を隠そうともせず、視界に入らないよう細心の注意を払ってはいるものの、所持している武器に手をかけている。

 その姿は面倒な異分子を排除する様子そのもので、康太に急かされ、蒼野やゼオスが得物に手をかけ、


「どこだか承知か、なんて言われりゃ、承知ですとしか言いようがないな」


 男らが近づくにつれ、空気の中に含まれる熱が強烈になっていく。

 しかしそれが取り返しのつかない地点に到達し爆発するよりも早く、積が投げた物体が蒼野とゼオスのあいだを抜け、前を歩いていた方の黒服が掴む。


「上で発行された許可証とやらだ。これでいいんだろ?」


 ともすれば男たちの纏う空気が明らかに変化し、それを瞬時に嗅ぎ取った積が、ゼオスや蒼野をどかし先頭に立ち確認。


「問題がなけりゃ視察を行いたいんだが、どうだ?」

「……許可する!」


 念押しするように問いただす積に対する返答には苛立ちが含まれており、しかし彼らは素直に応じた。


「お仕事ご苦労さん」


 その様子を見届け、それだけ言った積が二人の肩を叩き先に進む。続くゼオスは無言かつ無反応で。蒼野は一礼をして、優は小馬鹿にしたような笑みを、康太は明確な敵意を振りまきながら先へと進む。


「入ってすぐに面倒なのに絡まれるのは想定外だが、まぁ無事に着いたな。ああそれと、無駄な争いだけはやめてくれよ。特に後ろ二人」

「「はーい」」


 その様子を最前列に立つ積が叱り、つい数か月前までいがみあっていた二人が同じように返事をする。


「ここが『裏世界』か」

 

 気持ちの籠っていないそれらを前にして思うところが彼にはあったが、そちらに意識を割く余裕は今はなかった。

 別エリアから別エリアへとつながっている、巨大な掘削機が作り上げたであろうう通路を抜け、訪れた場所が一望できる小高い丘に辿り着く。

 そこで目にしたものは、落下の最中に既に目にしたものばかりだ。

 けれど近づくことにより感じられる空気に臭い、耳に飛び込む人々の喧騒や生活音が、空から見た時とは比べ物にならないほど、彼らとこの場所の距離を結び付け、新たな世界に辿り着いたことを自覚させる。


「服は普通な感じよね。今のアタシらの格好でも問題なさそう」

「ああ……そうだな」


 とそこで、優が気になっていた点について口にする。

 この場所に住む住民の服装に関しては実に多種多様で、加えて言えば汚れたり皺が寄っている様子もない。それらを知ったことで蒼野らはこの町に溶け込めることを確信し、兄の跡を継ぐように黒いコートを着ていた積だけが少々目立つ可能性に頭を悩めたが、無視をする。


「よし行くか。積はどうする? 待ってるか?」

「服装くらいでガタガタ言われることはねぇだろ。情報収集一択だ!」


 その可能性を投げ捨て五人全員が最寄りの坂を慌てた様子もなく歩いて下り、町の中へと体を埋める。そのタイミングで空を見つめた蒼野の口からは衝撃と感嘆の混じった声が、これに関しては仕方がないだろう。

 既に理解していたことではあるが、この場所を包むように頭上に広がるのは間違いなくここに来る前直前、鬱蒼とした木々に塞がれるよりも前に見た、昼下がりの澄み渡った空の姿なのだ。


 まさか地続きで同じものが存在しているなどとは思ってもいなかったので、この反応は当然と言えば当然である。


(おい蒼野。既に言っているがな、あんま外から来た奴と思われないようにしろよ)

(悪い。そうだったな)


 けれどその反応を積は念話で叱る。

 なぜかと言えば、それがバレた場合の周囲の反応は、予想しかできないところではあるが、あまり望ましいものではないと踏んでいたからである。


 彼らを包み込む空の色に、着ている衣服は、確かに同じだ。

 実際に町の中に入れば、中で遊ぶ子供の様子は地上と同じように活発あるし、井戸端会議をしている主婦の様子も似通っている。


 だがどれほど似通っていようとも、やはり地上と違うところはある。

 どこまでがこのエリア特有のものであるかまではわからないが、建物が頑丈な鋼鉄で作り上げられている点は、わかりやすい違いであろう。

 加えてつい最近になり、『裏世界』の住民が外の世界で悪さをするようになったという事実と、一度閉じ込められれば二度と上へは這い上がれないという厳しい制度。


 これらの事実を結び付けた積は『この『裏世界』に住む人々は、ルイやエルドラは口にしなかったが、『地上』に対する憧れがあり、そこからやって来た人らに対する『嫉妬』があるのではないか』と予想した。


「………………あそこの飲み屋に入るぞ。そこで情報収集をする」


 ただそのあたりに関して意識を割き過ぎ、おっかなびっくりしていてはこの裏世界の現状やここ最近の事情についての情報が手に入らない。

 それは望む結果ではないと自覚しているため積は素早く周囲を見渡し、ワイン樽を机代わりにして、昼間からアルコールの提供をしている店舗を発見。

 四人を連れ中に入りメニューを見るとアルコール以外のものも確認でき、そちらに口を付けている面々もいることを把握。


「ミルクをもらおうか」

「俺はリンゴジュースで」

「アタシも~」

「コーヒーを頼む。ミルクと砂糖は入らねぇ」

「……ジンジャエール」

 

 やって来た店員に対し好き勝手に注文をした後、店員の仕事ぶりが確認できるカウンターに並んで腰かけ、顔を真っ赤にしながら話をする大柄な男達の話に耳をそばだてる。


「優」

「うん。そっちもお願いね」


 そんな中、優と蒼野の二人は感知術を駆使し、一方は付近を流れる水道に、もう一方は屋内だけでなく外に吹いている緩やかな風に粒子を乗せ、より多くの情報を手に入れるよう画策。


「それにしてもあれだな。外は――――」

「そういや知ってるかい? 隣のエリアの――――が」

「ああ、それならあそこのベーコントーストは格別で!」


 そうして少々の時間を過ごしていると様々な情報が流れてくるのだが、それらはまさしく玉石混交で、微笑ましい内容を前に蒼野の口元が緩む。


「へいお待ち! ミルクに二人分のリンゴジュース。コーヒーのストレートにジンジャエールだ。他のご注文はありますかい?」

「おすすめがあればそれを人数分で」

「かしこまりました!」

「……しまったな。量に結構な差がある。こんなことならオレもそっちにしときゃよかった」


 そのタイミングでビール用グラスに注がれたミルクにリンゴジュースとジンジャエール。それにコーヒーカップに注がれたブラックコーヒーがやって来て、積が追加の注文を。続いて彼の隣に座る康太がふとぼやくのだが、


「ところであんちゃんらは何でここへ?」

「え?」

「見たところ二十歳未満だろ? そんな子らが昼間っから酔っ払いが蔓延るうちに入るのは珍しくてな。ちと気になっただけだ」


 彼らはカウンターに飲み物を置いた、この店のマスターらしき中年の言葉には思わず身を強張らせてしまった。まさかここまで早く自分らの素性を突かれるような事があるとは思っていなかったのだ。


「ちょ、ちょっと情報収集をな」

「「!?」」


 直後に積や康太は顔色を変える事になる。

 脂汗を額に浮かばせ、思わず感知術を解いた蒼野の、おそらく反射的に発した杜撰な言い訳を耳にしたためだ。


「……馬鹿が」

「~~~~」


 これには顔色や動揺を走らせなかったもののゼオスも苦い言葉を送るしかなく、おそろいのアップルジュースを飲んでいた優も内心で頭を抱えた。


「情報収集って言うと――――もしかして『外出券』についてかい」


 がしかし厄運転じて幸を運ぶ。

 彼らはここでいきなり、気になるワードを耳にすることになるのだ。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


やっと話始める事が出来ました『裏世界』!

まずは色々な課題に関する情報収集を

それにしてもこういう時に酒場を利用するっていうのは、どこの誰が始めた文化なのでしょうか?

絵になりますし、口のすべりやすさを考えれば納得できる文化なのではありますが、ちょっと気になったりもします


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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