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ギルド『ウォーグレン』と『裏世界』 一頁目


「……やはり考えてしまうな。これでよかったのかとエルドラ。君はどう思う?」


 自分らの前で会場を後にする五つの未だ未成熟な影。それを見届け、会場に誰もいなくなったことを把握した上で、貴族衆の長であるルイが隣でしゃがんでいるエルドラに静かに尋ねる。


 実のところ彼らに提示した試練は必要のないものである。

 確かに大多数の一般市民は彼らの事を詳しく知らないだろう。となれば憂慮した事態は間違いなく起き、着任してしばらくのあいだは不平不満を募らせるかもしれない。


 がしかしである、この会合で集まった世界中の有力者たちが、新たに神の座に就く原口積に協力する姿勢を見せたのだ。政治にせよ他分野の事柄にせよ、彼らが今以上に力を貸せば世界が円滑に回っていくことは容易に想像でき、長い年月をかければ、大勢の人らが彼を新たな神の座として認めるだろう。


「いいさ。だって俺らは――――これがあいつらが人々に歓迎されるために必要だと思ったんだからな!」


 そこまで頭を働かせ弱音を吐くルイとは対照的に、豪快な笑い声を木霊させるのはエルドラで、彼は今回の依頼が自分らのわがままであることを把握した上で『それがどうした』と言い切った。


「積に蒼野、ゲイルにシリウス、それに俺の息子だってそうだ。あいつらの世代はイグドラシルだけじゃねぇ。ゆくゆくは俺らの跡まで継いで世界を引っ張るわけだ。そんな大役を担う一番手ならよぉ、せめて歓迎されてほしいじゃねぇか!!」


 「爺婆のおせっかい」などと言われる行為であるのはこれまた承知の上だ。

 だが神の座の死去と共に千年続いた治世が終わりを迎え、これから新時代がやって来るのならば、人々にはそれを諸手をあげて歓迎してほしいと願ったのだ。

 それがこの星に住む人々にとって為になることであり、そんな時代を引っ張っていくことになる少年少女にとっても幸福なことであると彼らは考えたのだ。


「……大丈夫だよな。これで彼らの身に何かあったら、私は一生引きずるぞ」


 そんな風に未来を見据えた話ができるのは、彼らが襲い掛かる危機や不幸を無事に乗り越えられるという大前提があってのものである。

 その点に関しては今日にいたるまでの間に十二分に考察しており、『彼らならばなんとかなる』と確信を持ったゆえにだした依頼であったのだが、ルイは親友の豪快な笑いを前にして不安に襲われ、それは言葉という形になって零れ落ちる。


「……さぁ? あいつらに語った通り、あっちはあっちで大変そうだしなぁ」

「おい!」

「冗談だよ冗談! 安心しろって!!」


 返されたあまりにも無責任な言葉に、反射的に怒気を孕んだ声を発してしまうが、それを前にしても竜人族の王である親友が見せる態度は変わらない。誰にも縛られることのないマイペースを貫きながら、フローリングの床を少々軋ませながら立ち上がり首を回し、


「あいつらはあのシュバルツ・シャークスを下して、二人のガーディアを説き伏せたんだぜ。むしろこの程度の依頼くらい、こなしてくれなくちゃ困るぜ!」


 堂々と、絶対の自信を乗せて言い切ると、またしても豪快に笑い始めた。


「それよりもだ、こうやって俺と駄弁ってる余裕があるってことは今日はもうフリーだろ? なら久しぶりに飲みに行こうぜ飲みに!」

「悪くない提案だがいい場所に心当たりはあるのかね? 私と君が一緒に飲んでたら、それだけで新聞の一面を飾るし、ネットやらテレビで騒がれるぞ?」

「竜人族が経営してる居酒屋があるんだ。そこならほら、まだ一般客は警戒して近づかねぇ。麦酒の新作があるんだ。感想をくれよ!」

「まぁそういう事なら」


 こうして最後まで会場に残った二人も姿を消す。余談であるが二つの勢力の長が酔いつぶれた様子は次の日の一面を飾り、襲い掛かる取材陣の人波にルイは心労をさらに重ねた。




「似通ったところはいくつもあるけど、違う場所も大勢あるってことだったわよね。で、それが課題の一つよね?」

「『周りを観察する目は、よく育てておけ』だっけか。言ってることは最もなんだが、ここまでデカい依頼で、ぶっつけ本番でそれしろって言うのは卑怯な気がするな」

「だな。それにしても『十怪』の一角にあんな意図があったなんてな」

「まぁ鉄閃さんのことを思い返せば妥当っちゃ妥当か」


 最後まで会場に残っていた二人がそのような会話をしていたなど露知らず、ギルド『ウォーグレン』のキャラバンに戻った五人は、衝撃的な会話の数々を思い出す。


 世界中で恐れられる『十怪』の一角『マクダラスファミリー』。

 他の面々と違い『個』ではなく『集団』としてその座に名を刻んでいる彼らの正体を五人は聞いた。


 曰く『裏世界の管理人』


 広大な地下世界の治安維持全般を任される立場であり、そのような重要な立場を邪魔されては困るため、多くの人ら遠ざけるため、彼らは『十怪』の名を背負った。言うなれば人除けに利用したとのことである。

 それは鉄閃に対する首輪の意味合いを筆頭に、神教全体に警鐘を鳴らす意味でパペットマスターを登録し、賢教による一個人の推薦で『泥棒王』を登録したような、各勢力の事情が含まれる行為であったのだ。


「個々人に対する説得は別として、『マクダラスファミリー』の長に話を付ければ大方は片付くはずなんだよな?」

「……そうだ。だがそううまくいかない可能性は十分にある。二人の警告を忘れるな」

「わかってるって」


 私室から出てすぐに四次元革袋をしっかりとつけ、アルから貰った籠手を腕に嵌める蒼野とゼオス。

 そのまま自分らを乗せたキャラバンの操縦をするために移動しながら思い出すのは、ルイが語ったある不安要素についてだ。


「完璧にこなすとなったら、そっちの調査も必須よね」

「まぁな」

 

 『裏世界』と地上は、通常ならば完璧に切り離されているはずだという。

 それこそたとえ地下でどれほど大きな悪事をやっていたとしても、ガーディアらが世間に公表できないほど裏の裏に潜っていたのだ。


 がしかし、その大前提にして常識が、崩れ始めている。

 ガーディア一派が表舞台から消えてほんの数日後から、彼らの姿は地上の至る所で確認されている。

 ガーディアがシュバルツらとともに捕まえた銀行強盗などがその一例で、彼のような存在は世界中の至る所で確認できているらしいのだ。


「積」

「あぁ――――行くぞ!」


 そのような事になっている真相はどのようなものであるのか。




 そこまでの内容を頭の中で思い返し整理し終えて一度だけ深呼吸をすると、積はキャラバンの舵を握った。

 

  今、五人の若人が新たな世界へ旅立つ。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


本日分の更新は試練を与えた二人の胸中説明。そして五人の準備回となります。

正直できる事なら今回のうちに『裏世界』に足を踏み入れればと思ってたのですが、それができずちょっと残念。

とはいえ次回こそ新たな世界に突入! 少しのあいだお待ちいただければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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