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茨の王を訪ねて


「……独立国家への視察?」

「ああ。急で悪いが頼めるかゼオス」


 その依頼がゼオスに出されたのは、春の訪れを告げる桜が散ってしばらくした時。

 ガーディア・ガルフが発端となった大戦争が終わってから二週間ほどした時の事であった。


「それにしてもここ最近は物騒だな。―――狩りとはな」

「手口もわからないってのも怖いわよね。アンタも気を付けなさいな。絶対にターゲットの一人に選ばれてるわよ」

「あぁ。じゃあ行ってくるよ」

「いってらっしゃ~い」


 蒼野が別口の案件のため外出し、残った優が朝一に受付に座る中、呼び出されたゼオスが最奥の部屋に連れていかれ、積に依頼内容を説明される。


「……詳細は?」

「ここに書いてある。見てくれ」


 続いて手渡されたのは数枚の紙片で、机の端に置いてあった自分用のコーヒーカップを手元にまで移動させ、時折わからない漢字や言葉の意味を積に教えてもらいながら読み進めた。


「……連絡の途絶えた『茨の王』とやらの安否の確認、か」


 その内容は要約すればゼオスが口にした通りであり、積は小さく頷いた。




 依頼主は『茨の王』という者が存在する独立行政法人『ロゼリ』とは別の独立国家『ホーク』で、積が急いで調べたところによれば、両者は同盟関係を結んでいるとのことであった。

 依頼主がそのような依頼を出した理由はというと、ここ数日、通信越しで話をする際、普段ならば必ず顔を出している先の人物が顔を出さないことが気がかりであったためとのことであった。


「……風邪なだけ、ということはないのか。いやそもそも、それはこうして依頼に出すほど重要な事なのか?」

「『超越者』にカテゴライズされるほどの男がいなくなったわけだからな。そりゃ騒ぐ。それに、お前は知らねぇかもしれないが『独立国家』にとって戦力の核がいなくなっちまうってのはな、四大勢力とは比べ物にならないほどの大事件なんだよ」

「…………?」

「四大勢力と比べて片手の数しかいない場合が多い特大の戦力を失うってことは、周りに対する防衛手段を失うってことと同義なんだよ」

「……なるほど。理解した」


 顔を出さないということがどれほど重大な事かを把握できていなかったゼオスは、それこそ漢字や言葉の意味を尋ねる時と同じような気軽さで尋ねかけ、けれど積の説明を聞くことで即座に事の重要性を理解した。


 そもそもの大前提として『独立国家』とは、何らかの理由があってこの世界を支配する四大勢力に所属していない都市のことを言う。

 そのような形をとった理由は、四大勢力に対する不信感や自分らの特色を生かした生活をしたいから、はたまた思いがけない理由であったりするものだが、彼らはその道を選ぶ代わりに、四大勢力の恩恵を受けれない立場にある。


 その代表的なものが敵対者から攻撃を受けた際の補填や戦力の投入であり、これらを受けられないため『独立国家』は常に自己防衛ができる必要がある。


 積やゼオスが見てきた中で例えるならば、

 移動要塞『エグオニオン』における武装した兵士にボルト・デイン。

 『倭都』の、四大勢力の一般兵と比較して遥かに練度の高い連携や強さを持つ武士に、幹部四名などである。

 

 このほかにも強力な防衛プログラムなどを設けている場合もあるが、兎にも角にも自分たちの住む地域に害をなす存在への対策というのは『独立国家』にとって必須であるのだ。


 今回依頼を出した独立国家『ホーク』と、依頼の内容に出ていた人物が所属する独立国家『ロゼリ』にしても同じで、『超越者』クラスの戦力に何かあったとなれば由々しき事態。

 それこそ同盟関係の解消や『独立国家』としての在り方さえ変える可能性さえ見えてくるのだ。


「依頼主がギルドを頼ったのは、どの勢力からの依頼も受け付けるっていう利便性ゆえだな。守秘義務に関しても他と比べてしっかりしてるしな」

「……それはいい。しかし」


 そのまま紙片に乗っていた内容を腕を組みながら改めて口にする積であるが、ゼオスにはなおも疑問があった。


「………………なぜこれほどの戦力を集める必要がある?」


 それは参加する面々に関する部分であり、書かれている通りならばギルド『ウォーグレン』の名前が最上段に書かれているそれには、さらに貴族衆のクロバ・4・ガンクが経営するギルド『アトラー』の名前。それにヒュンレイ・ノースパスの部下たちが立ち上げたギルドの名前が記されており、しかもそちらに至っては見覚えのある名前が選ばれていた。


「その意味に関してまではわからねぇな。気になるなら、失礼がない態度で依頼主やらに聞いてみな」

「…………………」

「ま、そこまで気負う必要はねぇさ。書かれている通りの依頼なら荒事もないただの視察なんだ。観光気分で楽しんで来いや」

「……積」

「ん?」

「……覚えている限りで、俺たちが『独立国家』に関わる依頼で平穏無事に済んだことがあったか?」

「あー」


 言われて思い返してみれば、ミレニアムによる革命戦争時に訪れたエグオニオン。内部調査という名目で訪れた『バク王国』、ほかにも大小さまざまな依頼で、彼らは文化や貨幣の違いで『独立国家』絡みの依頼は苦労した。

 それを思えばゼオスの指摘を否定することはできず、


「ま、お前も含めて一流なんだ。何とかなるだろ」


 そう言ってゼオスの危惧を切り捨てるしかなかった。

 その返事に対し小さなため息を吐くゼオスは、しかし依頼を断る気にもならず、手早く支度を済ますと、ワープパッドを使うこともなく、瞬間移動を行おうと神器を抜き、


「あ、待てゼオス。書かれてる集合場所は人通りがある程度ある駅のはずだ。そのまま出ると人の迷惑になるから、ビルの奥とかに移動しろ」

「……心得た」


 積の発言を聞き、座標を変更。


「久しぶりだな」

「……よろしく頼む」


 移動するとすぐに近くにあったチェーン店のカフェに入り連絡場所の変更をこれから来る二人に伝え、しばらく時間を潰していたところで、ギルド『アトラー』の代表として燕尾のマントを羽織った赤髪の男クドルフ・レスターが現れ、


「僕さ、ギルドに所属しているって大々的には知らせてないはずなんだけど、彼らは何で知ってるのかな?」

「『独立国家』は我々とは全く別口の情報網を持っている。その影響だろう」

「ふーん」


 そしてもう一人、死んだヒュンレイ・ノースパスが遺した一人息子。シェンジェン・ノースパスが、クドルフ・レスターに続いてゼオスの前に登場。

 顔を合わせた三人は、目的地である独立国家『ロゼリ』へと向け移動を始めた。













ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


夜分の投稿になってしまい申し訳ありません。本日分の更新です


というわけで始まりました四章本番に入る前の日常編最終章。話の内容は本編にあった通り。

これまでにないメンバー構成による物語の始まりです。


依頼にあった『茨の王』なる人物には何が起きているのか?

このメンバーが起こす化学反応は?

そして荒事なく無事彼らは帰還できるのか?


ちょっとのあいだ、普段とは違う面々の活躍を見ていただければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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