『果て越え』の先の日常 三頁目
ガーディア・ガルフらがその日のうちに行わなければならない依頼というのは、原則として前日の夜八時にまとめて送られてくる。これは先に述べた通りだ。
「銀行強盗か。その程度の仕事を私は火急だとは呼ばないのだがね」
「なんだガーディア。お前最後まで読んでないのか?」
「?」
「同様の手口が今日だけ、というより二時間のうちに五件。各場所で数億円もの現金に証券なんかが、金庫から盗まれてるらしいぞ」
ただそれとは別に、火急の用事として送られてくる依頼というのがあり、彼らからすれば実に残念なことに、およそ50%ほどの確率で、毎日昼過ぎにこれは送られてくる。
「二時間ほどで五件か。それは穏やかではないな。小さな支店とかの場合、防犯上の意味で現金や証券を金庫に置かないこともあるんだろう? とするとある程度の規模の場所から行われているということか」
「そうだな。ただまぁ、襲われた銀行の規模に関してはさほど重要じゃないかもしれない。問題は別だ」
「別?」
そのような依頼をよこす主な理由は、火急の用事として送られるにふさわしいもの。つまり「一秒でも早く解決してほしい」という願いが込められており、
「なんでも犯人やら手口やらについて全く検討がつかないらしい。ただわかってるのは――――相手は『十怪』の一角『泥棒王』ではないかという話だ」
「……ほう」
此度の依頼もまたその類。
彼らが挑むのは手口不明の正体不明の泥棒事件。
その幕が今開く。
「和足が思うに犯人は馬鹿だな」
「ストレートに言うじゃないか。その心は?」
「金を盗むことに心血を注いでどうする? そんなもの、絶対的な強さの前では意味がない。とすれば、強くなることに力を注いだ方がずっといい」
「ちょっと前までの私らならそれを言えたかもしれないが、現状の飼い犬状態で言ってもむなしいなぁ」
「…………」
「おいおい。今の僅かな問答で押し黙るなよ。別に変なことは言ってないだろ!」
事情徴収を終えたのはそれから十五分後のこと。
先に動いていたエヴァが分身などを用い襲われた五ヶ所の銀行に赴き、現場の状況や事態の顛末に関して聞き終え、肩を並んで動いていたガーディアとシュバルツが、その内容をまとめた羊皮紙を眺めていた。
「えーと……犯人の手口については粒子の痕跡を追うだけで多少はわかってて、真正面からの正面突破で値するもので、正面玄関から現れては奥にある分厚い扉の金庫に近づき、中の金を堂々と取り出している、とな。………………んーこの方法で騒ぎにならなかったと。透明化の力でも使ってるのか?」
ガーディアの場合一瞥すればその内容を他人が熟読する以上の精度で理解できるが、シュバルツの場合そうはいかず、内容を確認するように声に。
「騒がれなかったのは姿が見えなかったからだとして、それだけならば話は単純だ。君の言うように透明化を使って、金庫に近づいて『鍵の解除』に類する能力を使えばいい。問題は、監視についてる社員や隠してあるカメラにも犯行の瞬間が映っていないということだ。あと、最後の方に子ども扱いされて腹が立ったと書いてある」
「そりゃあの見た目で行けばそうなるわな」
それを待たずにガーディアがエヴァの分身が聞いた内容をまとめ、最後に書いてあった彼女の言葉に肩を竦める。というのも今のエヴァは現代に馴染むため、見た目に通りの女児服を着ており、それを見た者が小学生扱いするのは当然であるというのがシュバルツの剣会であった。
その事について口にする際、ガーディアン声の色や表情を変える事こそなかったのだが、つい最近まで彼が見せてこなかった感情の波を見て取り、シュバルツは僅かに頬を緩めた。
「『時間を止められたようだ』というのが現場の総評らしい。だからカメラに犯行の瞬間は映らなかったし、監視員も犯行の瞬間を察知することができなかった。なんてことらしいぞ。お前はどう思う? 犯人は本当に『泥棒王』なる人物か?」
そんな自分に隣に立つ友の視線が刺さっているのを感じ取り、シュバルツは何か言われるよりも早く話を切り替えることにする。
するとガーディアはさしたる追及もせず押し黙り、
「……わからないが犯人の目星に関して気にする必要はない。これから現れるであろう現場に行き、犯行の瞬間を捉え、捕まえる。それで終わりだ」
目の前に立つ犯人の次なる襲撃予想場所に辿り着きそう断言した。
犯人の正体がわかっていないのは嘘偽りない事実であったが、襲撃場所に関する判別は既についていた。
というのもこの件の犯人は最初の襲撃場所から延々と南下しており、その際に手ごろな大きさの銀行があれば、その場所を襲っているという形なのだ。
「行われる襲撃はあと二回のはずだが、最後の場所までもっていくことはない。次の場所で止めれれば、十五時にも間に合うからな。さっさと終わらせてしまおう」
「それはいい。せっかく予約した商品が受け取れなかったら悲しいからな」
ただ凄まじい速度で行われているこの襲撃に関しても限度があると彼らは睨んでいた。
地図を見ればこれまで襲撃があった銀行は各場所ごとに百キロ以上離れていることはなく、それが続いているのは後二か所ほどであった。
それ以上距離が離れた場所への襲撃があるかと言われれば断言することはできず、なので今日の襲撃はあと二回であると彼らは予想した。
「お話は伺っております。当店が銀行強盗に狙われていると。そしてそれを止めるための方が訪れると。貴方がたがその人物で?」
「ああ。これがその印だ」
「ありがとうございます。それでは確認してきます」
外から見た限りではなんの変哲もない銀行の支店に入り、責任者を呼び依頼を受ける際に見せるよう言われていたエンブレムをガーディアは渡す。
それを受け取ったスーツの中年男性が奥に戻ると内容の確認を行い始め、シュバルツがその動きを事細かに追う。
「一か所ならその場所を熟知しているということであり得た可能性だが、五ヶ所となると話は変わってくる。銀行に所属している者が犯人ということはないと思うぞ」
視線の意味がそのようなものであると感じガーディアがそう尋ねると、シュバルツは「そういう意味で見ていたのではない」と示すように笑い、すると彼は理解ができず眉をつり上げ、
「いや、千年前と比べてだいぶ変わったな、なんて思っててな。そりゃ昔から普通の仕事をする人らはいたさ。けれどここまで多くはなかっただろ?」
「………………確かにな」
「おー来たか二人とも! 遅いぞ!」
続けてその真意を発すると感慨深げに頷いた。
そんな二人に対し、親近感の籠った声がかけられる。
そちらに視線を移せば、奥にある安物のソファーに腰掛けていたエヴァが立ち上がっており、彼らへと向け小走りで近づき、
「中身の確認は私がずっとしてる。今のところは何の変化もない」
透視の能力を付与した瞳で金庫を覗きながら、そう断言。
「は?」
その数秒後、彼女は声を裏返す。
彼女が一度瞬きをしただけのほんの短いあいだに、今回守る目標だった物体。
すなわちこの銀行の奥にある、人がすっぽりと入れるサイズの金庫の中身が空になったのだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の更新です。
今回は前回に続くガーディア殿回。
いつも行っているような戦闘パートマシマシな話とはちょっと離れた話です。
本来ならもっと事細かに周りの雰囲気を描きたかったのですが、時間の都合で泣く泣く断念。
もっと早く物語を書きたいと思う今日この頃です。
次回は予定通りならば解決編。
どういう手口、というより能力が使われているのか、考えてみるのも一興かもしれません。
あ、先に言っておくと単純な時間停止ではありません。それが通用しない理由は次回で
それではまた次回、ぜひご覧ください!




