『果て越え』の先の日常 二頁目
ガーディア・ガルフが先頭に立ち行われた世界全土を巻き込んだ大戦争。
それが終わった今、その恩恵を一番受けたのは誰かと問われれば、間違いなく首謀者であったガーディア・ガルフとその仲間達だったであると言えよう。
何せ彼らは生きている。
降伏したにもかかわらず、死刑になるほどの罪を犯したというのに、太陽の光が照らす現世を我が物顔で闊歩することが許可されている。
これができる彼らこそ、此度の戦いの最終的な勝者であると言えるだろう。
「………………」
「おじさんどうしたの~?」
「……」
「おじさ~ん?」
「おいこらクソガキ! 誰の許可を得てダーリンに近づいてる。シッシッ!!」
「おかあさ~んっっ!! 変なお兄さんたちがベンチにいるよぉぉぉぉ!!」
「コラ! 知らない人らに近づいちゃいけないっていつも言ってるでしょ!」
「失礼な奴だなあのメスガキ………………ダーリン?」
「エヴァ、私は既におじさんと呼ばれる年なのかな? ちょっと凹んだよ」
そんな彼らであるが、順風満帆、何一つ不自由のない人生であるとは言えなかった。
理由は彼らに課せられた新たな義務。すなわち労働に関する者なのだが、四大勢力の主が出す依頼の数は容赦がない。
日にニ十個程度であれば少ないほどで、四十を超える程度が通常。しかもその全てが彼ら以外ではなし得ないほどの超難題である。
『戦争をただ止める』程度ならばまだマシで、それに時間制限や犠牲者ゼロの注意書きがあるのが当たり前。そのレベルのものが一日に数十件送られてくるのだ。誰もが正気の依頼ではないと口を揃えるだろう。
といってもそれらの依頼を一つ残らずパーフェクトに仕上げるられることこそ、彼らが比肩するものがいない最強の存在である証明であるのだが。
「……動くか」
「お、おお! なら今日は大正堂とかいう場所に行こう! そこで売っている生どら焼きなるものが、日夜数時間待ちになるほどの絶品菓子らしいぞ!」
それを朝八時から正午までの四時間に全て片付けるのは圧巻の一言で、瞳を閉じ僅かなあいだ休息を取っていたガーディアは、エヴァの言葉を耳にすると、同意の意を示すように立ち上がる。
「おっと待った。昨日言ってた漬物はどうする。酒の当てにちょうどいいらしいぞ。ただこっちも結構な待ち時間になるはずらしいが」
「君が言ってくれシュバルツ。時間になったら私が取りに行くから、電話番号だけ伝えてくれ。その後は好きに動いてくれていい」
それを見ると二人から少し離れた位置で涼んでいたシュバルツも立ち上がりそう尋ね、ガーディアはそう返答。シュバルツは頷き、支持の通りに動き出した。
此度の話。
それは僅か数週間前まで世界に戦いを挑んだ彼ら三人のその後の日常についてである。
「せっかく自由になったんだから、好き勝手動いてみるわ。エヴァと一緒にいてストレスを無駄に溜めたくないしね」そう言って離れていったアイリーンを除いた三者。
すなわちガーディア・ガルフにシュバルツ・シャークス、それにエヴァ・フォーネスの三人の日常というのはある程度規則的なものだ。
まず大前提として、前日の夜八時ごろに次の日に行う任務の内容に関してまとめたデータが、貴族衆の長ルイ・A・ベルモンドから送られてくる。
これをある時は個々に分かれ、ある時は二人だったり三人だったりが固まってお昼ごろになるまでに解決する。
そうして空いた午後いっぱいを自由行動時間として動き回り、午後九時になると、送られてきた次の日の依頼に関し、三十分から一時間ほどのあいだミーティングをする。
無論突発的なアクシデントが起きることもあるが、これが彼らの日課である。
ついでに言うとこなした依頼の報酬が月々の生活費であり、どれもこれも難題のため、貰える金額は凄まじい。
これを利用し固定の居住地を持たず、ホテルや旅館を転々としているというのが現状の彼らである。
「私の方は十五時過ぎの予定だってはなしだけどさーダーリンの方はどだった?」
「同じだな。私の電話番号は伝えたかい?」
「うん。伝えたー」
午後の自由時間をどのように使うかと言えば、今の彼らは社会勉強に費やしている。
といっても机に座り書物をお行儀よく読んで勉強しているというわけではない。訪れた場所の歴史を少々触り、その上で行列のできるお店を筆頭に人気のグルメを味わったり、観光地を回ったりしている。
このような事をしているのは偏にこの惑星『ウルアーデ』の現代文化に馴染むためである。
「時間が重なったのは不幸だったなー。ま、何とかなるか。それにしても毎日毎日依頼の山で嫌になるな。いやまあ私たちが悪いんだよ!? それはわかってるよ!? 納得だってしたさ! それでも毎日毎日クソみたいに面倒な依頼を押し付けるのはどうかと思うな! 遠慮ってものがない! ゴミ拾いとか気になるお店のグルメレポートとか、そういう気楽なのが会ってもいいと思わないかダーリン!」
「………………私たちが犯した罪はあまりにも重い。罪を問われず、労働で許してくれていることに関しては感謝しかない」
「………………むぅ」
千年ぶりに蘇った彼らは、神の座イグドラシルを引きずり下ろすために色々なことを学習していたとはいえ、それでも惑星『ウルアーデ』の現代文化については知らなすぎる。
人気のスポーツや人々の生活基準に流行。千年の間に発展した科学文明や食文化など、知るべきことは無数にあるのだ。
それらを知り、現代に馴染むためにこれまで見てこなかったあらゆる場所を訪れようというのが彼らの今の行動指針であった。
「だがウェルダの奴が無罪放免なのは気に食わ……いや納得がいかない。少なくとも殺人未遂、いやガーディア・ガルフ二号として、仕事の肩代わりくらいするのが常識のはずだ。嫌がらせだろこれは。文句の一つでも言ってやろうかな。反論するなら暴力でもいい」
「おおう。ダーリンも思うところがあるんだな」
そうして訪れる場所は、全てが新鮮であった。
何せ彼らの文化的な営みというのは千年前の故郷での生活で止まっており、現代にいたっても戦場として適しているかどうか程度の情報しかなかったのだ。
その場所の特産品は? 人気のある観光地は?
普段ニュースで流れている内容は? 人気のアニメはどのようなものか?
「見てくれダーリン! これこれ!」
「瞬間湯沸かし器か。炎属性を使えば誰でもできることだが、これをボタン一つで任せておけるというのはありがたい」
知ること全てが新鮮な体験の連続は彼らの日常を彩った。それこそ家電量販店に足を運ぶだけでも大きな意味を持ち、そのように未知の体験の数々を堂々と経験できるだけで、今の生活には意味があると言いきれた。
「!」
とそこでガーディアが持っている携帯端末から聞き覚えのある電子音が発せられ、少々ではあるが嫌そうな顔を浮かべながら彼は内容を確認。
「追加の依頼だ」
「……はぁ」
「エヴァはシュバルツを呼んでくれ。私は先に現場に行く」
予想通りの内容に頭を痛めながらも、素直に指示に従った。
これが日常。
人類史上最強の男と、その愛する仲間たちの現状である。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
日常生活編その二。
今回はガーディアサイドです。
何が書きたかったかというと、異文化交流に近い千年というときの隔たり。そして彼らほどの怪物であろうと、まっとうに生きようと思えば労働の義務が発生するということです。世知辛いね。
さて次回ですが場面転換はなし。
もう少し現代に根付いた彼らの日常を見ていきます
それではまた次回、ぜひご覧ください。




