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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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古賀蒼野、勝利を渇望する 二頁目


 目の前にいる強大な敵をいかにして退けるか、そのことだけに全神経を集中させる蒼野。

 視線だけで相手を殺すつもりなのかと言われれもおかしくないほど相手を凝視する蒼野であるが、ほんの少しの間それを続けていると、体を沈め息を吸いこむ。


「策は練った。痛い思いをするけど……行くか!」


 そう言いきりながら、前へと駆けだす蒼野。


 見出した活路、それはこれまで幾重にも挑み敗北した接近戦だ。


「…………時空門」

「例の能力か!」


 風臣を従えて迫る蒼野を前に、厳かかつ低い声で自らの頼りとする能力の名を唱え、黒い渦を展開するゼオス・ハザード。

 彼の命令に従い現れた黒い渦からは細長い銃口が現れ、蒼野が風臣から風の弾丸を撃ちだし手数を増やすのに合わせ銃弾を撃ちだし相殺。さらには物量の差で押しきり風臣を破壊する。


「……付け焼き刃程度でどうにかなるとでも思っているのか?」

「っ」


 そのまま蒼野が新たに何かをするよりも早くゼオス・ハザードから距離を詰め剣戟を開始。

 両者が手にする得物が、主の敵を打倒しようと舞い踊る。


「…………」

「う、お!?」


 その末に勝ったのはまたしてもゼオスだ。

 幾度目かの衝突の際に剣を手にする蒼野の腕を蹴り上げ、がら空きになった蒼野の胴へと目がけ紫紺の炎を纏った一撃による刺突を実行。

 僅かに屈み重傷を避けようとする蒼野であったが完全には躱しきれず、刃は彼の左肩を大きく抉った。


「うぉぉぉぉぉ!」

「……ちっ!?」


 だが蒼野は、その傷を意に介さず前へと踏みこむ。

 先程のように突然の痛みで怯まないよう覚悟を決めながら左腕を掲げ殴りかかるが、それはゼオス・ハザードに容易く止められ、回し蹴りで吹き飛ばされる。


「くそっ!」

「……」


 視線を一切逸らすことなく立ち上がり、こちらを睨みつける蒼野の様子にゼオス・ハザードは訝しむような表情をする。

 今の一撃を当てたとしても決定打になることはありえない。

 にもかかわらず半ば無理やり攻勢に出たその意気を前に、ゼオスは何とも言えない気持ちに襲われる。


「……いや気にするほどのことではないな」


 相手の狙いがどこにあるか明確ではないが、それを気にするつもりはない。

 結局は相手を殺すのだ。そこに意識を割いたところで意味などなく、たとえどのような罠が待ち受けようと、自分は相手に肉薄し漆黒の剣でその首を刎ねるだけだ。


 そう自分自身に言い聞かせこれまで同様に剣を構える。


「……落陽」


 そのまま接近をする最中、地面に漆黒の刃をぶつけ辺り一面を火の海に変えると、それに呼応するかのように風の刃が地面から飛び出る。

 そうして自身の道を阻む邪魔者を一つ残らず破壊し、一直線に蒼野へと向かって行くゼオス。


「時間回帰!」


 そんな彼に対し、半透明の丸時計をいくつも飛ばす蒼野。

 それらはある程度近くまで寄っているため避けにくくはあるのだが、そもそも撃ちだした際の丸時計の速度は大して早くもないため、避ける事はそこまで難しいことではない。

 ゆえにそれを容易く躱し接近し、風を纏い近づいて来る蒼野と再度衝突。


「…………ふっ!」

「あっぶねぇ!」


 古賀蒼野とゼオス・ハザードの近接戦の能力を比べた時、ゼオスはほとんどの領分で蒼野を圧倒している。

 しかし属性の差により機動力の面だけは劣っており、蒼野を完全に捉える事は中々難しい。


「…………」


 回避に徹した蒼野を捉えようとするならば先程太ももを突かれた時のような相応のリスクを覚悟しなければならない。

 が、長期戦に持ちこめばゼオスは剣技で圧倒でき、蒼野は回避に徹するしかなくそこで大量の属性粒子を使う。

 ゆえに彼は、無理に仕留めにはかからず風属性粒子の枯渇を狙う。


「くそっ!」


 これまでと変わらず首を狙い、それが防がれれば今度は相手の力を削ぐために太ももや腕を斬り裂く。

 補助技能である風臣の邪魔は先程同様こちらも能力を使い制圧する。


「…………貴様では俺には勝てん」


 これまでと変わらぬ終始優意な戦況を生み出し、蒼野を煽り精神的なジワジワと蓄積させていく。

 後は蒼野が風玉で引けば再び均衡状態に戻り、それを何度も繰り返せば自分の勝ちだ。


「こんの野郎!」

「……何?」


 その思惑を容易に覆し前に出てきた蒼野にゼオス・ハザードは戸惑いの声を上げた。


「風刃……」

「……ちっ!」


 体の至る所にできた切り傷の修復を放棄し前へ出てくる蒼野。

 彼が見せる構えは事前情報で既に情報を得ている、風を圧縮し撃ちだす突きの構え。


「……突貫か」


 その威力が脅威である事を既に理解しているゼオス。

 彼は蒼野の行為に戸惑っているのだがそれ以上慌てることもなく、


「え?」


 冷静に、まるで機械のような正確さで腕を振り抜くと、溶岩が音を鳴らす中、それを発射する暇を与えず蒼野の右腕を斬り落とした。


「っっっっ!!?」


 勢いよく宙を舞う右腕に、突如襲い掛かる痛みに蒼野の脳が警報を発令。

 走馬灯が彼の全身を埋め尽くし、自身の体に死期が近づいている事をまざまざと理解させられる。 


「風塵……」


 全身が今すぐ逃げろと叫んでいる。

 それを自らの意思で捻じ伏せ、腕から溢れ出る血潮さえ無視し、さらに一歩踏み込む。


「……!?」

「烈破掌!」


 思ってもいなかったその姿にゼオスは驚きを隠せず僅かばかり動きが遅れたところで、彼の腹部に蒼野渾身の一撃が衝突。


「ぶっ!?」


 風の塊に内臓のいくつかが押しつぶされる衝撃が身を襲い、あまりの威力に体内の空気全てが口から抜けていきながら『く』の字の姿勢で吹き飛んで行く。


「おおおお!!」


 その千載一遇の好機を目にして、全身の傷さえ放置し前へ進む。


「……調子に乗るな」


 今が好機と獣の如き雄叫びを上げ迫る蒼野。

 対峙するゼオスは重い攻撃を腹部に直撃されてもなお意識を失わず、空中で一回転して体勢を整えると、両手と両足を使い大地に舞い降りるが、


「…………なに!?」


 その瞬間、彼の両手と両足を地面から飛び出た風の刃が貫き、口からは困惑の声が突いて出た。

 なにせ設置型は落陽で全て発動させ、それ以降ゼオス・ハザードの背後に蒼野は一度も行っていない。


 だからこそ彼は設置型の有無など気にせず背後に着地したのだ。


 だというのに、彼の四肢は地面から飛び出た風で作られた刃で封じられている。


「終わりだ!」


 そんな中、これが千載一遇の好機であると理解している蒼野は直進。

 風を纏い早さが増した状態の勢いを飛び蹴りに乗せゼオスの頭部を蹴り上げ、その威力に耐えきれず四肢を貫いた風の刃を破壊しながらゼオスの肉体が宙を舞う。


「風塵・烈破掌!」


 その状態の彼に対し風玉を使い一気に近づくと、蒼野は風を纏った拳を更に叩きこみ、


「風塵・裂空脚!」


 そこから続けざまに放たれる回し蹴りや拳の殴打はゼオスを完璧に捉え、蒼野が追い付くことができない状態一歩手前まで勢いよく飛んで行くのを確認し、肘打ちで地面へと叩きつける。


「……調子に乗るなよ古賀蒼野」


 大地に叩きつけられたゼオス・ハザードが反撃を試みようと立ち上がるが、その動きを地面から飛び出た風の刃が再度邪魔をすると、ゼオスの目が再度驚愕に染まった。


「……馬鹿な」


 ゼオスの脳が答えに至っていない蒼野の策が見事に決まり、蒼野がニヤリと笑い、


「裂空脚! 烈破掌!」


 そんな言葉しか口から出てこない自身と同じ顔をした男に対し、蒼野がここで全ての属性粒子を使いきっても構わないという気迫を纏いゼオス・ハザードに連撃。

 片腕というハンデではあるが絶え間なく攻撃を続け、蒼野は一気に勝負を決めに掛かる。


「とどめだぁぁぁぁ!」


 剣を抜く暇すら与えぬ打撃の応酬の末、これまでの倍以上の風を纏った腕を掲げ、大きく踏みこむ蒼野。


 力なく横たわる少年に向けて振り下ろされるそれは、


「……時空門ゲート

「しまっ!」


 突如現れた黒い渦に飲み込まれ、黒い渦のもう一方である蒼野の腹部の前へと展開されたものから飛びだし、拳を握った本人へと見事に命中してしまった。


「く、そ……!」


 自らの渾身の一撃を受けよろける蒼野だが、そこで時間回帰を発動。

 ゼオスもすぐに立ち上がれない中、吹き飛んだ腕となくなった血液を元に戻していく。


「あいつは!」


 痛みは残るが気力で無理矢理打ち消す蒼野。

 充実した気を纏った状態の彼が見たのは、これまでと変わらず無表情で立ち上がろうとするゼオス・ハザードの姿。


「……ちっ!」


 だが立ち上がろうと足掻くも足に力が入らず、立ち上がったかと思えば膝をつき、そのまま動けずにその場で舌打ちをするのみであった。


「機械みたいな無表情を貫きやがって。ちゃんと聞いてるじゃねぇか!」


 それでも劣勢だったこれまでの状況がひっくり返ったのは嘘ではない。


 これならいける!


 そう考え一気に勝負を決めようと踏むこんだ蒼野が聞いたのは、


「おーい、いたら返事してくれ蒼野―!」

「……潮時だな」

「何!」


 自分を探す仲間達の声であり、それを耳にしたことでゼオスの口からこぼれた言葉を前に蒼野は焦る。


 策を練り目の前の自分と同じ顔をした男を追い詰めた蒼野だが、次同じことができるかと問われれば恐らく難しい。

 今は暗殺者らしくない正々堂々とした様子で殺しに来ているが、気が変わり暗殺を主軸に置かれた場合、ここまで直接的な戦闘になることも稀なはずだ。


 そもそもラスタリアにいるからこそ自分はしっかり守られているが、いつまでも滞在しているかと言われれば恐らくそうではない。


 総括すると、この機を逃せばこの男を打倒するチャンスは二度と訪れないかもしれないという事だ。


「……時空門」

「待て!」


 人一人入れる大きさの黒い渦を作りだしその中へと消えていくゼオス・ハザード。


 それが小さくなり消滅するより先に風を全身に纏った蒼野は飛びこみ、二人は新たな戦場へと移動した。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


端的に言って蒼野がめちゃくちゃ頑張る今回のお話。


正直タイトルは『蒼野、獣になる』と迷いました。


さてさて今回の話でゼオスは確かに蒼野の設置した地雷式の風の刃を破壊したわけですが、それが何故だか発動した理由は次回以降に持ち越し。


それにしても今回の蒼野は勇ましい。


正直パペットマスターの時から続いている疲労感から、ヤケを起こしていると言われても仕方がないほど、荒々しい動きだと思います。


熱血系を想像して描いている今回の戦いですが、片腕で何度も殴りかかるのを考えるに、別のジャンルになりそうだと思う今日この頃


とりあえず明日は少々遅めの更新になると思いますので、よろしくお願いします。

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