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物語は喫茶店の2階から始まる

初めてのミステリーなので、お手柔らかにどうぞ。

かえで〜今からみんなで映画見に行こうって話してるんだけど、楓も来ない?」

「ごめん、今日は研究室寄らなきゃいけなくて……」

「マジか。バイトとはいえ、そんなに尽くさなくてもいいんじゃね?」

「先生、サボりに厳しいんだよ。すぐ拗ねるし」

「あいつだってよく授業サボるくせに。ま、大変だったら相談してね」

「ありがとう。じゃあね」


 私、伊勢谷いせや楓は私の通う大学のある講師の下で秘書のバイトをしている。

 授業のアシスタントをしたり、それ以外の仕事もこなす。

 激務になることもしばしばあるが、それでも先生の傍にいることを楽しいと感じている自分がいる。


 大学から少し離れた喫茶店の2階に彼の研究室兼住居がある。スマホの内カメラで自分の姿を確認し、インターホンを鳴らす。

 ここで返事が来ることはまずないので、勝手に扉を開けて中に入る。


「こんにちは! 先生いますか?」


 この家はいつも明かりがついていない。必要以上の電気代がかからないよう、ほとんどが真っ暗なままだ。

 質素なキッチンを横切り、廊下を抜けるとリビング兼仕事部屋がある。

 デスクの間接照明だけがついており、そこに先生は不機嫌そうな面持ちでふんぞり返っており、こちらを睨み付けていた。


「遅い。24秒の遅刻だ! 時間くらいしっかり守れ、ゆるふわ頭の大学生が!」


 調子良さげに椅子をくるくる回しているこの男が、私の先生、不動ふどう瑞樹みずき

 無造作に伸びた黒髪。犯罪者のような濁った目つき。身長は180cmとそこそこ高く、くたびれたスーツをいつも身につけている。


「先生だって授業に間に合ったことないじゃないですか、秒単位で時間を気にするとつまらない男になりますよ!」

「うるせぇ! 俺は忙しいからいいんだよ!」

「またそんな適当なことを……もういいです。コーヒー飲みますか?」

「うむ。美味いのを頼む」


 さきほどの言動でもお察しのとおり、どうしようない大人だ。

 どうしてこの人が大学の講師になれたのか、そもそもどうやって社会人として成り立っているのか。その謎は深まるばかり。

 彼の秘書を始めて1ヶ月の私でも知らないことの方が多い。

 知ったことといえば、年齢不詳、経歴不明な上に短気でケチで大人気ない。控えめに言ってもダメ人間。

 常日頃から思う。何故こんな人の秘書をしているのか。今でも疑問を抱いてしまう。

 理由はある。あるのだが。


「かーえーでー。コーヒーまだかー」

「……」


 何も考えない方が身のためかもしれない。考えるのはやめよう。


 そんな彼は大学講師とは別の仕事を行っている。その手伝いも別給料としてやっているのだが、正直そちらの方が大変かもしれない。

 その職業とは――


 ピンポーン


 突然、この家を訪ねるインターホンが鳴り響く。先生が応じるわけもなく、コーヒーを放り出して玄関の扉を開ける。


 そこには一人の女性が立っていた。

 金色の長い髪。吸い込まれそうな碧眼。肌理きめの細かい真っ白な肌。どこかの国のお姫様のような優雅なドレス。気品を感じる立ち姿。

 絵が置かれているのかと錯覚するほど美しく、この場に馴染まない女性だった。


「突然の訪問、失礼致します。ミーズキッド殿はおられますか?」

「みーず、きっど……?」


 聞いたことのない名前に首を傾げる。少なくとも日本人ではなさそうだ。でもどこかで聞いた響きのような……?


「下の店で聞いたのですが。今は留守なのですか?」

「えっと、私にはその人がわからないのですが……」

「誰かと思えばお前か。変装くらいしてこい。警察に連れていかれるぞ」

「あ、先生」


 後ろからひょっこりと先生が顔を出す。玄関で困惑しているのを見て察したのか、珍しく来客を出迎えている。


「ケイサツ、とは悪魔か何かでしょうか? 勉強不足ですみません」

「あー。そういえばそんな奴だったな、まあ上がれ。楓、コーヒー追加で」

「はい」


 こうして依頼人が来ることは珍しくもない。依頼が来ることで先生の仕事は仕事として成り立つのだから。

 彼の副業は、探偵。

 それも警察すら手に負えない、この世の常識では計ることのできない不可思議な事件を専門とする。

 一部の人たちは彼を『異世界探偵』と呼んだ。

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