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勇者を裏切ろうと思った戦士



 私は旅人。

 世界を歩くただの旅人。

 旅をした先で、であった人、見たもの、色んな事をメモしていく、ただの旅人。



 私が立ち寄ったのは、魔の龍の住まう山脈。

 なぜそんな危ないところに来たのか?理由はない。

 ただ、私が歩いていた先にその場所があっただけ。

 だが、目的もなくこの場所に来たことを、ちょっぴり後悔しているかもしれない。

 目の前に、今にも火を吹かんとしているドラゴンがいる。

 このドラゴンが、魔の龍であろうか?

 流石の私も死にたくはない。さっさと逃げさせてもらおう…そう思った時だった。


「ウオオオオオオオオァァァァァァァァァァ!」


 そんな雄たけびと共に、大きな斧を持った、がっしりとした男の人が、私の後ろからドラゴンに切りかかった。

 そしてズバン!という擬音が聞こえてきそうな勢いで、ドラゴンがの首が真っ二つに切り裂かれた。


「大丈夫かい?あんた」


 そう声をかけてきたので、こちらは大丈夫だと伝えると、彼は呆れたようにこう言った。


「しかし、そんな軽装備で、この魔の龍の山脈に来るとは……あんた、死にたいのか?」


 失礼な。私は死にたがりではない。ただ、私の向かう先にこの山脈があったのが悪いのだ。そう伝えると、相手はさらに呆れたように。


「まあ、いい。とにかく、ここいらで俺も一息入れるか……あんたも、水飲むか?」


 そう言われたので、あり難く一杯。水をもらうと、彼に聞いた。なぜ、あなたはこの山脈に来ているのかと。

 彼の答えはこうだ。


「あん?そりゃあ……あの山に、ガキどもが連れて行かれたんだ。それを、救いに」


 それはすごい。そんな勇気ある行動はなかなかとれない。そう私が感心していると、彼は苦笑して。


「まあ、少し前までの俺だったら、こんなこと、しようだなんて思わなかったよ」


 そういう彼は、少し寂しそうで。


「そうだなぁ……あんたは、俺の事を勇気があるって言ってくれた、三人目の人間だ。だから……休憩の暇つぶしに、昔話に付き合ってくれるか?」


 そういって、彼は、自身の昔話を語り始めた。



 あるところに、勇者様と、その友人の戦士がいました。


 その戦士は、魔法の腕も、剣の腕も、一流のさらに上を行く実力者でした。


 しかし、彼の友人である勇者様は、さらに剣の腕が立ち、魔法も、戦士よりも上手でした。


 人々は、口々に勇者様をたたえました。


 そして、戦士は勇者と比較され、馬鹿にされました。


 戦士は思いました。なぜ、自分が馬鹿にされなければならないのかと。


 なぜ、自分が比較されなければならないのかと。


 そして、次第に勇者に対して、恨みを抱くようになりました。


 こんな奴、裏切ってやる。


 そう思いながら、勇者と別れ、別行動を始めました。


 どうやってあいつを裏切ってやろうか……


 そう思っているときに訪れたのは、ドラゴンに襲われている、小さな村でした。


 最初は、軽くドラゴンを追い払って、去るつもりでした。


 でも、この村の少年剣士は、彼の事を師匠と呼び、慕ってきました。


 この村の魔法使いの少女は、彼の事を先生と呼び、教えを乞うてきました。


 この村のパン屋の少女は、毎日、焼き立てのパンを彼に届けました。


 最初はうっとおしかった。でも、段々と、自分を慕うこの少年少女たちが、大切になってきました。


 だけど、その暖かな時間も終わりを告げました。


 村に、ドラゴンたちの長である、魔の龍がやってきたのです。


 魔の龍は、子供たちをさらって行きました。


 そして、子供たちがいなくなって、初めて気が付いたのです。


 彼らが、自分を肯定してくれた彼らが、自分にとって、勇者よりもよっぽど大切な、仲間になっていたことを……





「で、村人が勇者を呼んでくる、その間に俺は魔の龍に挑むってわけだ……勇者に対抗するためじゃない。大切な、仲間を救うために」


 そのために、死ぬことになっても?


「俺だって、死ぬのは嫌だ。嫌だが……仲間が、掴まっているんだ。あいつらを救うため……十分、命のかけ時だ」


 そうですか……がんばって、ください。


 ただの旅人である私には、彼へ応援の言葉をかけるくらいしかできませんでした。

 そして、私は彼と別れ、魔の龍の山脈を後にしました。


 後から聞いた話なのですが……

 魔の龍は、勇者によって打倒されたらしいです。

 魔の龍は、不思議と弱っていた。まるで、何かと戦った後の様に……そう勇者は語ったようです。

 彼は、戦士の彼は、やはり死んでしまったのでしょうか……?

 その答えを知るすべは、私にはありません。

 でも、彼は、生きているのでしょう。

 彼の、仲間の胸の中に……なんて、私らしくないですかね。





 私は旅人。ただの旅人。

 次に行く場所には、何があるのでしょうか……


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