悲鳴の響く城下町
男達の雄叫びと共に、賑やかだった城下町に一気に血の気が漂い始めた。
周りには、家族を殺され自分も後を追おうとする者、泣き叫びながら何も言葉を発しなくなった死体を揺さぶる者、子供を逃がす為に自身を犠牲にする者などが見える。
家はほとんどが原型を保っていなかった。
いくら栄えていたとはいえ、所詮庶民が暮らしていた家。当然の事だろうか。
悲鳴が絶え間なく聞こえてくる中、彼女の腕を引っ張りどんどん向かって来る恐怖と戦いながら必死に逃げた。
だが、男達が居なさそうな道を選びながら逃げ切るのは限度があったらしい。先回りされて囲まれてしまった。
そこからの記憶は断片的だ。理由は分からない。
だが、気付いた時には腕の中で彼女が息絶えていた。戸惑いと絶望が広がり、何をする事も出来ないでいると突然背中に激痛が走った。
首を回すと、背中を斜めに斬られている事が分かった。次々に流れ出てくる血で真っ赤になっており、傷の大きさが分からない程だ。
男達にされたのはすぐ分かったが、いつ斬られたのだろうか。
彼女を庇ってついた傷ならまだ良いが、自分が弱くてついたのなら情けないな。刀は扱える方だと思っていたのが間違いだったようだ。
そこで男達の事を思い出し、急いで周りを見渡したが姿は無い。
未だ泣き叫ぶ声は聞こえるが、多くがすすり泣きに変わっている。
見逃された…のか?でも、何故俺だけ?彼女は?
…どれだけ考えても答えは出なかった。
*
どれくらい経っただろうか。数時間かもしれないし、数分しか経ってないかもしれない。
考えようとしたがすぐ諦めた。愛する恋人を失った今、もう何もかもがどうでも良い。
「火事だぞー!!皆逃げろ!!」
誰かが遠くで叫ぶ声が聞こえた。火事…?
しばらく考えてやっと理解した。ああ、自殺する必要が無くなったって事だな。
待ってろよ、俺もすぐ追いかけるから。腕の中で永遠に眠り続ける彼女に向かって微笑む。
炎に焼かれるというのはどんな感覚なのだろう…。人々が一斉に逃げる中、1人そんな事を考えていた。
「ちょっと、そこの兄ちゃん!今すぐ逃げないと焼け死ぬぜ!?どうせ恋人か何かが死んだんだろうが、悲しんでる暇はねぇ。とっととここから離れるぞ!!」
1人の男__服装からして八百屋辺りだろうか__が近付いて来たと思ったら、フワッと体が宙に浮いた。
担ぎ上げられたようだが、背中から血がダラダラ流れている俺に反抗する力は残っていない。
最初はどんどん遠ざかっていく彼女を見ていたが、やがてそれも見えなくなった。