自治集団という存在
「ん……うるさい……」
理事長室の扉の前で目を擦る少女
蒼い髪をした神が首元まで伸びている
俗に言うショートヘアだ
その凛々しい顔は間違いなく
俺が中学生の時 知り合った女の子だ
超越人となった時
血武器の具現化で不安な毎日を
紛らわしてくれた
あの時
香織は血怪物に連れ去られた
破壊集団に
俺は憎んだ
血武器という力がありながらも
救えなかった自分に
今度こそ……
会えることはないと思っていた
しかし、今
目の前にその少女がいる
だが、俺の知っている少女の髪色は艶やかな黒
目の前の少女は蒼色の髪だった
俺はまだこの状況を受け入れられずにいた
「……皆……一応 戦闘態勢を……」
重苦しい空気の中 杵島が一番に戦闘態勢をとる
「ちょ……何を…」
急な事に反応できない俺を差し置いて
河村 茜は滾る血の解放を発動
二人の手にはそれぞれ赤く染まった
〈魂魄刀〉と〈重力銃〉が握られていた
「何で!?河村先輩!木下先輩!
杵島さん!何でこういう事するんですか!?」
「…………」
必死に詰め寄るも杵島は答えない
(くっそ……こうなったら……)
俺は滾る血の解放を発動
血が滴る腕には〈大剣 ジークフリート〉
続いて悪魔の憑依を発動し
俺の体は漆黒に包まれた
俺は 魂魄刀 重力銃を香織に向ける河村 茜の前に
香織を庇うように立ちはだかった
「お、お前……」
驚きの表情を見せる河村
「龍崎君…そこをどいてくれ…」
語りかけるように杵島は言った
「何で こういう事するんですか!?
何か恨みでもあるんですか!?」
俺は激しい剣幕で杵島に言い寄った
「それは…彼女がプロジェクト:BLOOM BLUEの
被験者だからだよ…」
杵島は冷淡に言った
「プロジェクト:BLOOM BLUE…?」
プロジェクト:BLOOM BLUEという響きには覚えがあった
夢の中の夢で見たあの景色
そこには龍崎博士なる人物がいた
彼が言っていた
「プロジェクト:BLOOM BLUEの完成は近い」と
目の前の少女
香織がプロジェクト……?
「何だか知らねえけど!香織を傷付けるなら俺が
相手だ!!!」
あの時は護れなかった
だから今度こそは…
思考を放棄し剣を構える
「龍崎君……どいて…君に当てたくない…」
目に涙を浮かべ、重力銃のスコープを除く茜が言った
「俺も…仲間を傷つけたくない…」
俺の本心だ…
せっかくできた仲間は失いたくない
だが、俺の行動は仲間を失う行動だ
「Drマキシ!あんたも何か言ってくれよ!!!
あんたなら…何とかなるんじゃねえのか!?」
最後の希望 Drマキシに助けを求めた
しかし、彼の言葉は俺の願いをへし折った
「そいつを…殺せ…」
「Dr!!!」
予想外の返事に怒鳴った
「行くよ…皆!!!」
杵島が号令をかける
「くそっ!!!」
俺は香織の手を握り理事長室から逃げた
この高校は中々広い
逃げ切れる可能性もあった
逃げきれたらどうするのか
それは決まっている
俺1人で河村 茜 杵島を倒す
香織を戦いに巻き込みたくないからだ
「はぁ……はぁ…」
どれくらい逃げただろう
ここは体育館の倉庫
ホコリまみれで長時間は居たくない
「とりあえず……ここまで来れば…」
一応 剣をしまわずに構えておく
「香織……」
話すことなど山ほどあるのに
上手く言葉がでてこない
「香織……大丈夫か?」
かなり走った
しかも強く手を握りしめていたため
申し訳なく感じる
「あなた……誰ですか?」
まるで記憶が無くなったかのように……
静かに聞いてきた
「忘れたのかよ…ほら!中学の時同じクラスだった
龍崎 柊真だよ!」
首を傾げている少女は俺の名前で反応した
「龍崎 柊真…」
俺の名前で反応したなら思い出してくれるはず…
そんな淡い期待は無駄だった
「龍崎 柊真に裁きを……」
彼女はそう口にすると
何やら唱え始めた
それは杵島が使う
神の言葉だった
「曰く……」
だが、詠唱は途中で止まった
「!?敵が……来る……」
彼女はそう言うと体育館倉庫の扉を見やる
俺は隙間から覗いた
するとそこには少女の言った通り
杵島 河村 茜の姿があった
俺達を探しに来たようだ
「香織……行ってくる…そこで隠れていてくれ」
恐らく記憶を無くしているであろう少女に
小さく呟き体育館倉庫の扉を開けた
「龍崎君……香織さんを渡してもらえるかな?」
首を横に振った
「そうか…なら容赦はしないよ!」
「曰く…炎あれ!!!」
杵島は詠唱し両手から巨大な炎を発生させた
「龍崎君 ごめんね!」
謝罪と共に炎はこちらへ迫ってくる
俺1人なら避けられる
しかし、俺の後ろの倉庫には香織がいる
どうすることも出来ないまま俺は
炎に身を委ねる
灼かれてもいいという覚悟の上だ
しかし、炎は目前で消える
胸にかけていたペンダントが反応した
(すげえな……このペンダント……)
「何だ!?」
当の杵島も驚いている
俺も何が起きたか分かっていないが
悪魔王がくれたペンダントのおかげで助かったこと
だけが分かった
だが、剣を持っていない左手がやけに熱を帯びていた
(熱!!!)
我慢できなくなった俺は手を振り払う
すると俺の左手から
炎が現れた
「何で僕の炎を!?」
杵島は依然として驚いている
俺は杵島は言葉で理解した
このペンダントは攻撃を吸収し
自らの力にできるのだと
「龍崎君……君はやっぱり面白いね〜」
杵島の両隣から
河村 茜が現れる
河村は刀を 茜は蹴りをいれようと
俺の懐に飛び込んできた
俺は咄嗟に右手の大剣で振り払った
しかし、そこにも炎が現れる
「熱!!!」
あまりの熱さに茜は飛び退いた
しかし、河村は構わず飛び込んでくる
服は若干焦げている
(河村先輩…)
仲間の覚悟に俺は突き動かされた
「この覚悟に応えなきゃ男じゃねえよな!!!」
俺は河村の刀を大剣で受け止め
左手で正拳突きを放つ
左の拳には炎が纏っており
河村の胸を焼いた
「くそっ!!!あちいな!!!」
飛び退いた河村は焼けた胸を見て怒号を放つ
「血浴!!!」
紅く染まった刀は霊気を帯びる
「はああああ!!!」
河村は刀を横一線に振り払い
刀から青い瘴気が現れる
「呪え!!!霊衝!!!」
青い瘴気は俺に近づくに連れて
次第に大きくなっていき、俺の目前 1mまで迫ったところでその大きさは俺の身長の5倍程度まで膨れ上がっていた
俺は剣を構え瘴気に飛び込んだ
剣は瘴気を切り裂こうとするも
瘴気は剣を伝い腕 肩 そして俺の体全身を包んだ
(痛てぇ…)
魂が焼かれていると錯覚するぐらい
胸が熱い痛みに覆われた
「血浴!!!撃て!!
重力弾!!!」
茜の体が紅潮する
紅く染まった銃から
俺の心臓目掛けて3発の弾が放たれる
その弾は周りの空気を歪め
真っ直ぐと飛んでくる
(さすがにこれに当たるとまずい…!!!)
俺は身を捩り 弾を躱す
しかし、その弾は始めから俺を狙っていなかったように急にカーブした
「しまっ……!!!」
その弾は体育館倉庫の扉を貫通した
「香織…!!!」
思わず叫んでしまった
「やっぱりそこにいるんだね?」
杵島は確認をとり再び炎を生成する
「させるかぁぁ!!!」
杵島の炎に劣らないほどの炎を
俺の左手から発生させ
炎を纏った体でタックルを仕掛けんとする
「かかったね!河村君!!!」
杵島は垂直に地面を蹴り宙に舞った
目の前の視界には刀を構えた河村がいた
「今度こそ!!!」
河村は刀を思い切り振り払う
不意を突かれた俺は回避が叶わず
俺の体に刀の痕が刻まれる
「ぐわぁあああ!!!」
瘴気を帯びていた刀は俺の体を切り裂いた
はずだった
「何だと!?」
河村は衝撃でずり落ちた眼鏡を気にせず言った
俺の体には傷1つ付いていなかった
それどころか傷を負っていたのは河村の方だった
「そんな…何で!?」
俺も何が起こったのか分からない
河村は俺を睨んでいた
「貴様…!!!」
俺の右手の大剣には血がびっしりと付いていた
どうやら刀を受ける直前
俺は無意識のうちに
河村の体を切り裂いていたようだ
「す、すみません!!河村先輩!!!」
思わず謝ってしまう
「ああ…うぜー 相手の体斬った挙句謝罪とか…
でもまぁいいわ…これで香織とかいう女を殺す口実ができたわ…」
眼鏡を捨て 俺を睨みながら河村は言い捨てた
「待ってろ…まずはあの女だ……その次に龍崎 お前を殺す」
河村は刀を構え体育館倉庫の方向へ飛んだ
「待て!河村君!陣形を…!」
杵島の制止する声は河村に届いていない
「死ね!!!BLOOM BLUE!!!」
河村は刀で体育館倉庫の中に斬撃を与えた
体育館倉庫は真っ二つに切り目が入った
「香織ー!!!!!!」
俺の叫びは体育館に響いた
「滴る涙の解放!!!」
声がしたのは体育館倉庫の中…ではなく
上空 体育館の天井だった
声の主は香織だった
「曰く 愚かな者に裁きを…」
香織が真上に突き出した右手から
雷が現れ 瞬く間に河村 茜 杵島に落ちた
雷に焼かれる河村 茜 杵島は苦痛の叫びすら上げなかった
恐らく体に大ダメージが入ったのだろう
声も出せないほどに
「香織…!!!それは…!!!」
香織が発動させたのは
杵島と同じ神の代行者の力
しかし、それは滾る血の解放による発動ではなかった
「私は天倉 香織 プロジェクト:BLOOM BLUEのため
あなた達に裁きを下す」
少女は杵島達を見下ろしながら言った
そこには昔の明るい少女の笑顔など微塵も存在しなかった
「龍崎 柊真…あなたは私を庇い闘ってくれました…感謝します…」
彼女はそう言い静かに地に降りた
「何だ…その力は…」
倒れたままの杵島が香織に尋ねる
「おや…裁きが足りませんでしたか
ならもう1発…」
彼女の人差し指から雷が発生する
「もう 止めてくれ!!!」
俺は彼女の肩を持ち 制止する
「龍崎 柊真…邪魔しないで下さい…」
香織は俺の手を振り払い
雷を…
「早く 殺せ!」
河村が怒りの混じった言葉で催促する
「俺達はその女を殺そうとした…
返り討ちなら覚悟はしてた…」
静かに目を瞑る河村
その言葉に頷く 杵島 茜も目を瞑った
「杵島さん…河村先輩…木下先輩…」
俺は名を呼ぶことしかできなかった
結局そうなんだ と
目的のためなら平気で殺そうとする
仲間は……信用できない?
プロジェクト:BLOOM BLUEが
俺にとって、杵島にとって
河村にとって、茜にとって、
Drマキシにとって、
香織にとって、
どのようなものなのか俺は知らない
闇がある……
俺の知らない闇が……
それは今
俺を
仲間を
大切な人を傷付けている
そんな闇は無くなるべきだ
しかし、闇を消したところで
また新たな闇は必ず生まれる
例え それが信用できる組織だったとしても
その組織に所属する者は目を伏せて
抗うことは許されない
それが世界の理
世の常
抗いたくても抗えない
俺はふと思った
俺が危険因子で
世界が滅んでしまうのなら
それもいいかも と
力があっても救えなかった自分と
目的のためなら殺人さえも犯す人間どもと
一緒に消えることができるなら
それでもいい……と
ただ最後に……
唯一救えなかった少女
香織に神の力を…
俺の中の闇も光も血も全て
神に捧げよう
ここは龍崎達が闘っている体育館から
5キロ離れた山奥に男2人 女1人
「さぁてと そろそろ始める?
もう待てないよ?」
「まだ待て 今はまだ早い」
「早くしないとうちのボス怒っちゃいますよ?」
3人は静かに双眼鏡で体育館を覗いていた
彼らは自治集団
プロジェクト:BLOOM BLUE の完成を待ちわびる者