血を…!!!
「己に宿る血を武器とし、全人類を屠れ!!!」
体長2メートル近く 顎鬚を生やした屈強なる男が叫ぶ
2666年
人類は飛躍的に進化した
尚 良からぬ方向に
それは今から5年前
俺が小学5年生の時
<超越集団>の研究員が
紅に染まった武器を持ち暴れ回った という事件が発生した
当時は<超越集団>の存在は
世間で明るみにされておらず、
この事件をきっかけに名が知れ渡ることとなった
では<超越集団>は
何を研究していたのか
それは<超越人>の製造だった
普通の人間の血液に特殊なウイルスを流し込む
すると血液の一つ一つは「武器」の形をし
流れ始める
血液に混じった「武器」を<超越集団>は「血武器」と名付けた
「血武器」を任意で作り出すことが出来る人間こそが
<超越人>
と呼ばれる 人非ざる者 なのだ
今 俺の前に立っている人間こそ
<超越集団>の研究員の総督であり<超越人>を使い
世界を破壊しようと目論んでいる
名をDr マキシ といった
街に<血怪物>を放ち
人間を食わせる
この<血怪物>は生身の人間ではまともに戦えない 全身武装したとしても20秒程度がいいところだ
俺達の街 加羽町にも毎日 <血怪物>がやって来る
1体のボスを筆頭に10数体やって来る
それだけの数が来ているから加羽町は全滅している
と思うだろう
しかし、<超越集団>に所属する
<超越人>はそれらの討伐を
組織の秘密裏で行っている
その集団は<望みし者>と呼ばれる
世界の破壊を目論む<超越集団>の中に平和を望む<望みし者>が隠れて所属しておりDrマキシはそれを知らない
バレたら全面戦争の危険性があり
一般人を巻き込んでしまえばそれこそ
混沌をもたらすことになり
Drマキシの野望を叶えることとなってしまう
あえて無視しているのかもしれない
何故<超越集団>に所属していながら
世界の破壊を防ぐ行動をしているのか
それは俺達が自ら望んで来たわけじゃないからだ
俺が「血武器」を手にしたのは
中学2年生の頃だった
学校からの帰宅途中
俺は飲酒運転の車に轢かれて死んだ
死ぬはずだった
目が覚めるとそこは病室の様なところだった
後で知ったのだが、<超越集団>のアジトの研究室だった
そこで俺はウイルスを注入され
「血武器」を作り出す
<超越人>となった
「血武器」には色々な種類があり
目に見える武器を生成する者、
目に見えない力を生成する者、
自らの姿を変える能力を手にする者
様々である
俺は 「大剣 ジークフリート」を生成するという能力を得た
その大剣は 刃の部分だけで2mを優に超える
<超越人>の特性として
生身の人間とは比べ物にならない程の身体能力を持ち
100mを全力で走れば5秒もかからない
酸素がない所でも10時間は過ごせる
-150度の極寒の地や200度の灼熱の地でも
耐久できる
日本の冬や夏など何の苦でも無いことは明確だろう
文字通りの超越した力を手に入れた
同時に人間を辞めてしまったことを悔いている
俺は<望みし者>に所属している
先程も述べたように俺は望んで力を手に入れたわけじゃない
最初は「血武器」を作り出すのが怖かった
自分の血からできる紅の武器
中学2年生の精神には耐えきれなかった
しかもこれは希に意図せずに現れることがある
クラスの皆が異様な目で見てくるのではないか
毎日そんな不安でいっぱいだった矢先
事件は起きた
<超越集団>が繰り出した<血怪物>が中学校を襲った
教師 生徒が喰われる光景を目の当たりにし
俺は苦悩と絶望の淵に立たされた
ここで力を振るえば皆が助かる
しかし、自分も<血怪物>と同じ様に見られるのではないか と
俺は意を決して 「血武器」を作り出し
<血怪物>と対峙した
怪物と闘う一人の生徒
教師 他の生徒からは混乱の声が聞こえる
俺は構わず剣を振るった
中学2年生に似合わぬ大剣を
20分が経過した頃
校内に侵入した<血怪物>は全て
居なくなったかに思われた
俺を含め全員が安堵していた所に
強化された<超越人>が襲いかかる
俺は必死で抗い続けた
しかし、相手は大人
子供が太刀打ち出来るわけがなく
一瞬で負けた
その大人が刀を振るう時
俺の顔の前でその刀の動きが止まった
<超越人>が素手で刀を掴んでいた
血に染まった手は刀を粉砕する
俺を助けた者の名は「杵島 凪咲」と言う
そいつは粉砕した刀の破片を払いながら
俺にこう言った
「血を糧とし 生きろ」と
杵島は紅の手をかざし 唱える
「曰く 炎あれ」
何も無かった空間から突如
巨大な炎の玉が現れ、
俺を襲った<超越人>は瞬く間に焼かれ灰になった
「大丈夫か?坊主」と杵島は俺に手を差し伸べた
血に染まっていない方の手で
俺は決意した
この人について行こう と
杵島は<望みし者>の長だった
俺は懇願した
仲間に入れてくれ と
杵島は快く引き入れてくれた
「私は杵島 凪咲君の名は?」
「龍崎 柊真」
「そうか…龍崎か…いい名前だね」
それが俺が<望みし者>に入ることになった理由だ
それからというもの
俺は毎日 加羽町にやって来る怪物を
倒し続け
高校生になった今でも討伐活動は続けていた
「君ヶ咲高校」
は<超越人>が多く入学しており
俺もそのうちの一人だ
その<超越人>の中には
<望みし者>に所属している者がいることも知っている
3年4組 河村 晴人 は 「魂魄刀 ソウルブレイド」
を生成でき、死者の魂を操れるという
能力を持っている
2年1組 木下 茜 は「重量銃 グラビティ ライフル」
を作ることができ、放たれた弾丸の周りは
重力が5倍になるという能力がある
この高校に通う者で俺が知っている中で<望みし者>に入っているのはこれだけだ
勿論 他にもいるかもしれないが
何分日替わりの当番制で スケジュール表にも自分が担当する日以外は
何も書かれていない
お互いの機密を守るためだ
しかし、俺が最初に討伐担当になったとき
河村と木下が丁寧に仕事を教えてくれたことで
お互いを知ることになった
怪物の討伐は当然 怪物の出現によって始まる
昼であっても夜であっても
通報があれば必ず現地まで行き
退治しなければいけない
もし討伐できなかったら…
言うまでもないだろう
加羽町の人間共は皆喰い荒らされる
そうなることを防ぐためにも
日頃の連絡は怠っていない
<超越人>になったからには
成し遂げなければいけない目的がある
もう一度 あいつに会うこと
5月の朝
龍崎は討伐担当ではない日の朝は
登校直前まで寝ている
(さて…そろそろ行くか)
ベッドから体を起こし
服を着替え 家を出る
この高校生の当たり前のような日常は
簡単に覆されてしまうことがある
家のドアを開けると
たくさんの人が走って
逃げ惑う
西の方向に向かって人々はひたすらに走っている
寝起きで状況がすぐに飲み込めなかった龍崎も
逃げる市民の声でようやく気付いた
「またあの怪物かよ…!」
そう<血怪物>である
最近は異常に加羽町にやって来ており
<望みし者>でも対処しきれていない
(やるしかねぇのかよ…!)
龍崎は制服の袖を捲り 肌を顕にする
「血武器」を生成するには
血を外に出さなければいけない
しかし、<超越人>となった者は
とある言葉で 血を取り出し
「血武器」を生成することができる
その言葉は…
「滾る血の解放!!!」
俺は口にする
紅の武器を生成する言葉を
腕からは大量の血が滴る
「滾る血の解放」
は血管を破裂させ
血液の中の武器を取り出すことで「血武器」を作ることが出来る
少しでも血が空気に触れれば武器が現れるため
学校生活では注意する必要があった
俺の右手には紅の大剣 ジークフリート
怪物を屠るための武器だ
剣を握りしめて
俺は怪物がいる方向へ駆け出した
ピロロン♪
電話がかかってきた
それは「重力銃 グラビティライフル」
を持つ茜からだった
「木下先輩!怪物はどこに!?」
一応先輩なので敬称で呼ぶ
「う〜んとね 龍崎君の走っている方向に3体
更に奥に行くと10体はいる!
今 他のピース達が遊撃してるけど
人数が足りないみたい!」
彼女は正確な情報分析が得意だ
「分かりました!3体を処理でき次第
すぐに向かいます!」
俺は携帯をズボンのポケットにしまい
走る
(ここら辺だな…)
ネイチャーの走りは世界記録を超えるため
全力で走ればすぐに目的の場所に着いた
報告通り
3体の怪物が人間を探し暴れ回っている
幸い市民は避難しているようだ
1体が俺に気付いた
その怪物はカマキリの様な鎌を持っており
顔は牛 体は虫 足は4本あり 前 後ろにそれぞれ2本ずつ生えている
正真正銘の化け物である
「行くぜ!!!」
俺は剣を構え 怪物の懐に飛び込もうとする
当然怪物も鎌を振り下ろし迎撃してくる
このタイプの怪物の攻略法は
まず鎌を処理する
攻撃手段を無くすためである
鎌は3m程度あり引き裂かれたら
一溜りもない
鎌と腕の関節を狙い剣を振るった
怪物は危機一髪の所で躱し 反撃をしてくる
もしっかりと刀身で受け止める
しかし、3mの鎌 かなりの重たさがあり
受け止めた俺の膝は悲鳴を上げている
長引かせると折れてしまうため早々に振り払い
体制を整える
血を武器としているため
少なからずとも体の状態は貧血に近い
その中で怪物の攻撃を捌き 決定打に至る
一撃を与えなければいけない
かなりハードな作業だ
<超越人>は血を武器にできるだけでなく、血を消費し 身体能力を高めることができる
「血浴」
その言葉をトリガーとし
身体能力を高めることができる
龍崎の体はみるみるうちに紅潮していき、
全身の血管が浮き出てくる
血液の移動速度を早めているからだ
しかし、至る所の血管は破裂しているため
体外に血が噴出される
この能力は1分が限界であり
それを超えると出血多量で死に至る
そのため早急に怪物を処理する必要があった
「早く始末しねぇと学校に遅れちまうんだよ!!!」
龍崎は不満を口にしながらも剣を構え
怪物の体を地面と平行に斬った
大剣 ジークフリートの刃先から衝撃波が起こり
怪物を横一線に斬った
残る2体も同じ様に斬った
「斬戒剣…と言ったところだな」
龍崎は残る力を振り絞り
更に奥へと駆け出す
10体のカルマが暴れているここは
大運動公園 と呼ばれており
敷地はかなりの広い
普段は平日でもたくさんの人で賑わっているのだが
今日ばかりは違う
賑わっているのは怪物だ
龍崎がそこに着くと既に<望みし者>が数名戦っており その中には顔見知りの者がいた
「河村先輩!」
「魂魄刀 ソウルブレイド」を持つ河村 晴人に声を掛ける
「おっ!龍崎か!助かるなぁ!」
河村は感謝の意を述べ
怪物と対峙する
「とりあえず、2.3体ほど相手にしてくれ!
するとこっちも楽になる!」
大運動公園にいる怪物は
さっきの怪物と違い
人型に近い
亜人 と言うのが正しい
「狂人」と呼ばれる怪物は
体長5mほどで腕は4本あり
カマキリ型よりも強い
しかもそれが10体ともあれば
かなりの苦戦が強いられることは目に見えている
それでも俺達は闘わなければいけない
勝算はあるのか
そう思うだろう
しかし、俺達は待っている
<望みし者>の「希望」とも呼ばれる
者
杵島 凪咲 を
杵島 凪咲の能力はハッキリしていないが、
俺や河村や木下などの能力とは桁違いだ
とてつもなく強い
と共に謎に包まれた人物でもある
杵島は <超越集団>
の総督を務めるDrマキシの助手だからだ
世界の破壊を目論む者の一番近くで
世界の平和を望んでいる
右腕 とまでも呼ばれた杵島が何故
<望みし者>の長なのかは分からない
しかし、俺と同じく何らかの因果を持っていると考えている
俺達は 杵島が来るまで怪物の足止めをすることが目的である
杵島が来ればこちらの勝ちも同然なのだ
「杵島さんは後10分で来るそうだ!!」
怪物と対峙している男が言い放つ
それを聞いた他の戦士達は
おおおおおお!!!と雄叫びを上げ
怪物へと立ち向かう
俺も遅れをとるまい とバーサーカーへ駆ける
ズグンッ!!とバーサーカーが拳で地面を殴る音が聞こえる
「でやあああ!!!」
俺は叫びと共にバーサーカーへ大剣を振り下ろす
「なに!?!?」
振り下ろした大剣はバーサーカーの手で掴まれていた
俺は反撃を喰らうまい と大剣を掴んだまま
軸にして蹴りを2発3発と鳩尾に入れていく
「かってえなぁ!!!」
蹴った方の足が痛い
バーサーカーの皮膚の硬さは伊達じゃないのだ
俺は思い切り剣を振り
バーサーカーの手から逃れた
「血よ!俺に力を!!!」
ネイチャーは血の消費量を上げることで
身体能力を強化できる
その分 死へと近づいているのだが…
俺の体は再び紅に染まり
大剣もよりいっそう紅くなった
「行くぜオラ!!!」
勢いよく飛び
頭からバーサーカーを一刀両断する
激しく血飛沫が上がり
俺は返り血を浴びたが、
それは<超越人>が回復する手段でもあった
<超越人>は闘いで激しく血を消耗するため血を取り込むという方法は一番の回復法になるのだ
大体の「血怪物」は血で動いているため
殺せば殺すほど自身を回復することが出来るのだ
なので出血多量で死ぬことなく戦い続けられる
俺はバーサーカー1体を処理した
後2体…という所で
男が声を上げる
「杵島さんは後5分程度で来れるそうだ!!!てめえら!!!気合い入れろ!!!」
その男の言葉は
後5分でこの闘いの幕が閉じられることを意味していたかに思われた
「希望」と呼ばれる杵島が連れてきた
謎の少女によって
俺達に混乱が訪れることを
この場にいる誰もが気が付かなかった
「後何体だ!?」
「5体ぐらいだ!!!」
という会話が聞こえる中
俺はとある人物を思い出す
それは初めて<超越人>となり
「血武器」を扱えるようになった日の翌日
恐怖で顔を埋め尽くされていた俺に声をかけた
朗らかで明るい少女がいた
学校では常に喋っていて
その少女と話す時間は愉快だった
恐怖を忘れさせてくれた
しかし、とある日
俺は風邪で学校を休んだ
いつも話していた少女に申し訳ないと思いつつも
翌日学校へ登校する
いつもの少女は居なかった
先生が言った
喰われた と
俺は自分を憎んだ
風邪で休まなければ少女を救えたのではないか
いくらクラスから疎まれるとはいえ
その少女を助けるためなら
厭わない と思っていた
しかし、少女は死んだ
誰も助ける者は居なかったらしい
誰もが夢中で逃げ出した
俺は憎かった…
少女を助けてくれなかった学校が…
助けることができなかったら自分が…
しかし、<望みし者>に入り
体を鍛え、いつかは復讐をする と…
怪物を操ったDrマキシに…
そしていつか会えたらいいな
明るく話してくれた少女に…
あれ?名前何だっけ?
「曰く 炎あれ」
突如巨大な火の玉が空を覆い
バーサーカーへと炎弾が落ちた
「杵島さん!!!」
河村が叫んだ
そこには「希望」と呼ばれる
<望みし者>の長
杵島 凪咲がいた
「遅くなってすまなかったね
怪我はないかい?」
杵島は淡々と声をかける
「はい!大丈夫です!
しかし、さすがですねぇ あのバーサーカー
5体を一瞬で全滅させるとは…」
見ればバーサーカーは全て灰になっていた
流石の力である
「それほどでもないよ♪君達も練習すればすぐにこれぐらい…」
杵島は謙遜と応援を一言でする
この人には人格も能力も全ての点において
俺達より遥かに優れている
だからこそ<望みし者>の皆は
この人についてこれる
皆「希望」が好きだった
「その子は…?」
とある男が言う
杵島の後ろには俺と同じくらいの少女がいた
その顔は俺の見覚えのある顔だった
俺はあの少女の名前を思い出した
「香織…」
思わず口にしてしまった
「うん?龍崎君 この子を知っているのかい?
実はここへ飛んできている途中で付いてきたんだけど…」
「二宮 香織…怪物に喰われた…俺の…」
紹介すると共に俺の目には涙が…
「おいおい〜色恋かよ〜龍崎もやってんな!」
所々冷やかす声が聞こえる
「龍崎君…?」
少女が俺に声をかける
「ああ、そうだ…香織…」
俺は少女に近づく
一歩 一歩 ゆっくりと
「危ない!!!」
「ふぇ?」
俺の体は杵島におんぶされ空中へ
「皆!!!無事か!!!」
杵島が確認する
「はい!」「なんとか…」
河村を含め全員が逃げきれたようだ…
が当の俺は理解していない
ただ目の前で爆発が起きただけだった
「な、何が!?香織は!?」
「落ち着きたまえ…香織は無事だよ…
だって彼女がやったからね」
彼女は腕を出し武器を持っていた
俺達もよく知る武器
「血武器」を
しかし、俺達の知らないところもあった
それは彼女の武器が
蒼かったこと